第4話

「どういうこと?」


「どういうことも何も勇者一行を片付けただけですが」


「流石魔王様!いつもはあんまり頼りないけど、戦闘になると最強ですね!」


遠くから様子を見ていたサラが戦闘終了を察知し、駆け付けてきてくれた。


「当然です。だからこそ魔王に抜擢されたのですから。これくらい出来なければ」


「え」


勝手に俺の手柄にしてしまうシキ。誰がどの口で言っているんだ。


『これはあくまで魔王様が成し遂げたことです。ちゃんと認めなさい』


え、何このメイド。何がどうしてそうなるんだ。


ちょっと待て。精神体の首を絞めようとしないで。分かった分かったから。


「まあそれくらいは出来ないとな」


「それはそうとして、一つ言えることがあります」


「それは何だ?」


「勇者を討伐してしまったのでここから先の大陸征服の計画は大体必要なくなりました」


「それはそうかもしれませんね。最大戦力が無くなったわけですし。私らが交渉する必要も無いですかね?」


「そうなりますね。後の仕事は魔王様がやるだけです」


真面目に話を聞いているサラに感心していると、突然話が飛んできた。


「王との話し合いか?」


「そうですね。では向かいましょうか」


俺はシキの準備していた謎の飛行物体に乗せられ、王都へと飛び立つことになった。


「んで、アレは何なんだ」


「アレとは?」


俺とシキは飛行物体に設けられた個室にて話し合いをしていた。


「何故ただのメイドであるはずのシキが勇者を簡単に倒せたんだ?」


確かに有能ではあるが、明らかにこれはメイドに必要な能力じゃない。


「と言われましても。メイドとしての嗜みとしか」


「嗜みで勇者を倒せる奴がいるか」


「でも必要なことではありますよ」


「どうしてだ」


「魔王って世界の歴史として必ず敗北する運命にあることはご存知ですよね?」


「ああ、分かっている」


そしてその後に我々魔族が迫害を受けるということも。


だから今までは戦争を避けてきたのだ。


「その理由は勇者の手によって討伐されるからです」


「その通りだ」


いくら魔王が強くなったとしても、何故かそれと同等以上の才を持った勇者が同じ時代に生まれてくる。


「魔王様が討伐された直後にどうなるかご存知ですか?」


「分からない。勇者はさっさと帰るんじゃないのか?」


基本的にそのあたりは文献には書いていない。そこまで細かく書く必要もないだろうからな。


「魔王城に残された者が勇者に立ち向かうのです。魔王様の敵討ちの為に」


「それがどうしたというのか?」


そこまで魔王を思っていてくれるなんて魔王としての冥利に尽きるとしか。


「そこで負けて殺されるんですよ。嫌じゃないですか?」


「そ、そうか。なら逃げればいいんじゃないか?」


「逃げても将来は暗いのです。分かっているでしょう?」


「ならばメイドが勇者を倒せれば全てが軽く解決する。そうでしょう?」


「どうしてそうなる」


魔王を強くするために様々な文献等で情報を仕入れるとか、世界中から猛者の魔族を探して連れてくるとかいろいろあっただろうに。


メイドが勇者を倒したらそれは魔王だ。


「どれだけ頑張ったとしても魔王は勇者に負けていたというのに?努力をしていないから負けていた我々メイドよりも勇者に勝つための才能が無いじゃないですか」


このメイド辛辣すぎる。それに勝手に人の心を読むな。


「それもメイドとしての嗜みですので。というわけでいつか魔王様が勇者に殺される日に備えていたのですが、よくよく考えるとさっさと殺してしまえば良かったんですね」


真っ先にそれを考えてくれとは思ったが、助かったので良しとしよう。


「というわけで着きましたよ。とりあえず勇者を倒した魔王として振る舞ってください」


「分かりました」


最早シキには一生逆らえなさそうだ。


俺は少し迷いながらも、この国の王の居る部屋へと向かった。


「お前がこの国の王か」

玉座に座る、一人の老人に話しかけた。


「確かに我はこの国、アレスの王、サンドラだ。魔族、貴様は何者だ」


「我か。我は魔王エルドラ。魔族を統べるものだ」


「勇者はどうした。魔王討伐の為に向かわせたはずだが。見るに、戦闘力は貴様と同等かそれ以上のはず。貴様に負ける道理はないはずだが」


王自体に戦闘力は無いが、見極める力に関しては相当な物らしい。


希望に賭けたのではなく、勝つ目算があったから向かわせたのか。


もしかすると、これまでの魔王が勇者に負けてきたのは、今までの王がこいつと同じ力を持っていたからかもしれないな。


「ああ、アレか。非常に楽しかったぞ。一歩及ばなかったがな」


精一杯見栄を張る。実は魔王は勇者に負けかけて、シキというただのメイドであるはずの悪魔が全て片付けてしまったとばれないように。


「そんなはずはない!我は魔王の戦闘力をしっかり確認している。その上で勇者を討伐に向かわせたのだぞ!現にお前の戦闘力は勇者よりも弱いとはっきり出ている!」


見事に推測通りだったらしい。本当にシキが居なければ確実に負ける運命だったんだな。


「王にはそう見えるのだな。やはり人間というのはその程度の力しか持たないのだな」


精一杯虚勢を張る。実際に勇者は倒されているんだから証明する手段なんて存在しない。


「ひ、ひいっ!」


一応王は一般的な人間と比べると圧倒的な力を有してはいるようだが、魔王どころか四天王にすら及ばない程度だった。


中途半端に強いからこそ、自分との力の差を十分に理解してしまっているのだろう。横に控える配下よりも恐怖を感じていた。


どうにか誤魔化しきったようだな。これで俺の勝ちだ。


「では、話し合いを始めようではないか。会議室に案内してもらおうか」

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