シスコン姉妹の異世界ライフ
アサギリスタレ
プロローグ1 美里姉妹の朝
四月のある土曜の日のこと。
カラスが啼き、小鳥がさえずる住宅街。
とある一軒家の閑散とした寝室にて、ベッドの上に一人の少女。
――何を隠そう、その生娘こそ、私こと、
そんな自分の状況を神視点でみたかのような冗句を頭に浮かべながら、私は、窓を介して、目を細め外の様子をぼーっと眺めていた。
そうして私が眺めている晴れやかな空は、太陽を隠すことをせず、
太陽ったら、実力を十二分に発揮しすぎ……。
起きたばかりなのに、眩しいったら世話ないね。ほんと。
自重してよ。……って、太陽はしがない小娘の言葉なんて聞いてくれないのか。
もう、いけずなんだから。
太陽からのありがたい贈り物に対して、私は感謝どころか逆に
陽光に対して眩しいなぁ……とは思うものの。
それでも私は、陽光に対し目を細めたり視線を背けたりするものの、外を見るのをやめなかった。なんとなく外を見ていたい気分だったから。
……そういう時って、あるよね?
ふと。今日の天気はいかほどかと、お天気の分析を開始してみた――、
まず、太陽が見える。眩しい。は既知の事実として……
次いで、新事実が判明。視線を泳がせても、雲がどこにも見えない。
どこまでも青々とした空模様に、自己主張の激しい太陽がギラギラと輝く。陽気は――体感的には、日差しが強くてぽかぽかとしている。ぽかぽかとはいっても暖かいというよりは、つめたーいアイスとかがすぐに蒸発しそうな、春にしてはちょっと暑いかな? って、そんな風に思えるような、そんな陽気。
などと、目視で得た情報から、評論家――この場合、気象予報士かな? この程度の予測で気象予報士は
うむ、これらの情報から鑑みるに――、
……ふむふむ、なるほど。今日の天気は、快晴といったところでいいかな。全くといっていいほどに雲が無いしね。しかもポカポカ陽気だなぁ。
――と、結論を出した私。
大事なことなのでもう一度、今日は土曜日、つまり休日ということもあり起きたばかりである私は、本――小説・漫画を読むわけでもなし、スマートフォンを
まあ、かいつまんでいうと、布団から出たくなかったというわけである。つまり布団から出たくない症候群であり、おまけに無気力症候群でもあるのが、今の私。なお、時間経過で治る軽度の病の模様。「ふぁ~あ」なんか欠伸が出た。涙もちょっと出た。これもそれも全部ポカポカ陽気のせいだ。とキリッとした目で太陽を見て、太陽に責任を擦り付けつつ、「う~ん」と伸びをする私。
ちょっと眠いけど、二度寝をするには時間的にあれなのもあって、そろそろ布団から出るべきかと思い始めてもいたりしているのだけど……、ぬくぬくのお布団の誘惑が妨害していた。それは寒い日に炬燵に入ったときに、あるいはお風呂に入ったときにおこる、寒いから炬燵・湯槽から出たくないという欲求と近しいものである気がした。
そんな感じで、布団から出たくない症候群の患者となった私が、先程よりずっと肌身離さず、ぎゅっと抱いているのは、つぶらな瞳をしたうさちゃんぬいぐるみ。抱き抱えられるほどの大きさであるその雪のように真っ白なぬいぐるみうさぎは、ロップイヤーでもっふもっふしていてあったかい。
もふもふ。
そうやってうさぎのぬいぐるみをもふもふする私を照らすのは陽光のみ。室内は陽光だけで充分に明るかったので、自然の光が好きなのもあり、明かりの類いは消している。
そして私は、改めて麗らかな外の様子を窓から見て、天気のことの次は、だらだらと脳内でとてもくだらないことを考え始めていた。
今、脳内で考えているのはこんなこと……
――ぽわぽわぽわわん――
土曜日についての私の意見。
――土曜日。
それは金曜日の次の日であり、学生の身分である私たちが、学業から解放される日であり、日曜と並ぶスペシャルでオンリーワンでマーベラスな日。
例えば……、これは『もしも』の話となるけれど……。
もしもQ&Aで、「学生さんに質問です。あなたの好きな曜日は何曜日ですか?」と、問われたらば……。
大多数の学生が、「私が好きなのは、――『土曜』or『日曜』――日です」と答える。……はず。………………はずだよね……?
ここで平日である月火水木金のどれかを答えちゃう感じの学生に対し、
――平日好きは、マゾだと思う。(注:あくまで個人の見解です)
と、贈言したい。
まあ、学生として学校に通うってのは、学生の時にしかできないし、平日が好きってのも間違いじゃないと思うよ? 間違いじゃいないと思う。けど……、私は賛同しかねるなぁ……。
……。
これでは私が毎日が土日だったらいいなーとか考えているぐーたら人間だと思われてしまうかもしれないので、――補足。
なにも私は平日について、別段悪い感情を抱いているわけではない。
平日が苦行であればあるほど、休日の解放感は高まっていく、それはわかってはいる。今、体感しているし。
要するに学業・仕事に勤しむ平日は、休日とのバランスを取るためにも、無くてはならない存在だと私は思っている。
平日と土日、どちらかが欠けたら成り立たない。それが一週間。
平日にだって意義はある。
まあこんなこと力説したって誰も聞いてくれはしないのだろうけど……。
それはともかく。今回の土曜は、バイトをやっていないかつ部活動がお休みの日なので、文字通り自由だった。
外に出るも良し。家でだらけるも良し。
そのどちらかを選べるという選択権が本来はあったはずだった。――だけど、今の私にはその選択権がほとんどないんだよね……。
それはなぜかというとね……。私には血の繋がったお姉ちゃんがいるんだけど……。あっ、名前は
そしてそのお姉ちゃんが曲者でね。《外に出る》の方を毎度選択するんだよ。活発だから家でだらけるとかそういうことはしないんだよね。しかもそれに私までもお供として連れ出されるんだよ。うちに居てばっかりだと良くないって感じで。
お姉ちゃん曰く、学校以外の日も外に出るというのは気分転換になるということらしい。
たしかに、活発な人は家にばかりいると鬱になってしまうかもしれないけれど……、私はどちらかというと引きこもり気質だから、そう言われても、あんまりぱっとこないんだけど……。
まあ、そういう訳で、私はお姉ちゃんのお出かけの度にお供として連れ出されている。
そんなことを考えていると急に、なんだか予感がした。お姉ちゃんは、もちろん既に起きているらしく、ベッドはもぬけの殻となっている。つまり……
すると、足音が聞こえた。何者かが階段を登ってきているらしいと気づく。
今は午前十時。既に両親は二人とも働きなり、買い物なりに出ている時間であった。つまり今私がいる姉妹、そして両親の寝室がある二階にいるのは、おそらく私のみ。どう考えても、私に用があるお姉ちゃんが私のもとに向かってきているとしか思えない。
用というのは――、まあ、十中八九お出掛けの誘いでしょ。
ここまで来るといつものだと流石に察しがついた私は、出入りのドアに目を向けた。
ほら、今日も。
……、……、……。
ん?
……、……、……。
あれ?
構えてた私は不思議に思う。
どうしたのかな?
――と疑問に思ったその瞬間だった。
「おはよう! 実兎!」
突然。元気のいい晴れやかで大きな声と共に、ノックもなしにドアがバーンした。そんな勢いのよい開扉に、ちょっとびっくりした。「ひゃっ!」て声が出た。涙も出た。おまけにちょっとチビったかもしれない。
JKの
なぜかお姉ちゃんもびっくりしている。私が起きていることに驚いたのかな?
「え(笑)、なに泣いてるの」
戸惑いと苦笑混じりの声。お姉ちゃんが驚いたのは、私の目に浮かぶ涙についてだった。
現行犯の癖に「……欠伸でもした?」などと供述しておる。バカちんが。
「……(ジトー)」
ひじょーにプンプンな私は、そんなお姉ちゃんを軽く睨む。ジト目を意識、出来てるかな?
そして驚かされたことへの不満に、口を尖らせ、自然とぼやいてしまう。
「びっくりして出ちゃったんだよ……」
何が、というと、実はアッチのことなんだけど、余計なことは言うまい。
お姉ちゃんは、勝手に涙のことだと誤解してくれるだろうし。
「年甲斐もなく脅かすから……」
じと目でそうぼやく私を尻目に、不思議そうな顔のお姉ちゃん。
……むすっ。
私はそっぽを向いた。我ながら、まるで駄々っ子のようだった。
お姉ちゃんは、数回まばたきしてから、口を開いた。
「もう、どうしたの」
そんなことを言いながら、入室する。
「悪かったわよ」
「そんなに拗ねないでほしいわ」
「静かだったから、てっきり寝てるのかと思って、起こすか起こさないかで躊躇してたのよ」
「でも、私はあなたのお姉ちゃんなんだから、ここは厳しくスパルタに叩き起こそう! って決意に至っての、アレだったのよ」
矢継ぎ早に言い訳のような何かを言いながら、づかづかと入ってきたお姉ちゃんは私の傍らに陣取った。
「許してちょ♡」
甘い声、自然な動作で、私の両肩にボディタッチ。そのまま揉み揉み。
「……んっ」
それを私は払い除けたりはしない。払い除けるわけがない、例え、どれだけ喧嘩しようとも私たち姉妹に破局は――って私ったら、何を有耶無耶にされかけているんだろう。
「……むー」
お姉ちゃんの誘惑を振りきるように、内心を誤魔化すように、そんなお姉ちゃんに私は軽く睨みを効かせ、目で訴えかける。
――失敬な。私とてそこまで寝坊助ではない。
と。(ちなみに、驚かされたことへの文句はどうでもよくなった、それよりも、『てっきり寝てるのかと思って』発言が気にかかっていた私であった)
しかし……、お姉ちゃんは首を傾げた。目力込めたのに、伝わらなかったらしい。
私は心中でため息をついた。いくら姉妹とはいえ、伝わらないか……。テレパシストの道はまだまだ遠いらしい。
でもまあ、起きたのが十時の時点で充分寝坊助なのだけどね。
「ともかく」
お姉ちゃんが、切り込み、言葉を紡ぎ始めた。
「外はこんな晴れ晴れとしているのに外にでないなんて……」
外を手で示してそう嘆いたお姉ちゃんは、
「もったいないわ……若いのに……」
はあ……、なんて若干質量のある嘆息をつく。
ため息の方がよっぽどもったいなくない? 幸せ逃げちゃうよ?
って、それはどうでもいっか。にしても……、なんだかお年を召したおばあちゃんみたいな言い草だね……。だけど、
「……たしかにね」
納得しちゃった。お姉ちゃんの発言は至極全うだったから。
若いんだからこうしなさい、って言われるのは好きでないけれど、晴れた日は外に出るべきなのかもね。なんだか理解。
若いならなおさら。ってのもわかる。
「てか、お姉ちゃんも十分若いでしょ」
私の口から飛び出すせーろん。喉乾いたうーろん飲みたい。……じゃなかった。なんか邪念混ざったけど、こうやって返答できるくらい頭回ってるってことは大分目覚めてきたってことだよね。
これもそれも太陽のおかげ、おかげで気分がしゃっきりしたかも、さっきは強く当たってごめんね。なんて謝ってみたけれど、太陽は聞いちゃいないか。
「言ってもLJKよ、来年にはJDの。FJKには負けるわ」
とため息混じりに、更に返される。
お姉ちゃんの若さへの焦がれに憐憫の思いを抱きながら、私は、JK生活これから頑張るぞ、と決意を決める。
しかしまあ、反論という意味では言い返せていなかったなぁと思う。むしろ心中では、たしかに、と納得してしまってすらいた。――あっ、晴れ晴れとしているのに外にでないの下りの方の話ね。決してお姉ちゃんが老けてるとかは思ってないから。ほんとだよ。――そんな私は、お姉ちゃんのペースに完全に飲まれてしまっているのであろう。
そんな私の心中を知ってか知らずか、お姉ちゃんはさらに続けた。
「若い若くないはこの際おいといて」
「おいといていいのかな?」
「だらしなくいつまでもパジャマなんか着ていないで着替えなさい。――出るわよ」
って説教じみた調子でお声かけ、お出掛けの予定を勝手かつ一方的に取り付け、ついでのように毛布を吹っ飛ばした。
さむ。
反射的にうさちゃん抱き締め。うさちゃんあったか。
というかお姉ちゃん、どうやら私が暇なことは把握済みらしいね。私の卓上カレンダーをまた勝手に見でもしたのだろう。まあ、いいけど……。
そんなお姉ちゃんの申し付けに、私が、どこに? と聞かないのは、いつも特にあてなどなく町をブラついているから。
突発的お姉ちゃんの行動には5W1Hなんて細かいプロットはのようなものなんてない。そんなもの二の次なの。
お姉ちゃんの顔を見ていると、ふと、思い返した。話を戻すようだけど――、
「というか、ノックくらいしてよ……」
私は呟く。ノックがなかったのがちょっぴり不満だったから。
いつもは些細なことすぎて気にしていなかったけれど、今日はなぜか気になった。
姉妹といえどノックくらいはすべきなのではないか、と思う。
それが聞こえたのか、お姉ちゃんはきょとんとした。
そして表情を不満げに変え、口を開く、
「えー、いいじゃん。別に険悪な姉妹じゃないんだし、私たちの仲でそこまで肩肘張る必要ないっしょ」
肩を竦めながらぶーたれたお姉ちゃんが、同意を求めるように見てきた。
「まあ……ね」
お姉ちゃんのペースに飲まれているなとは思いつつも、押されぎみな私は同意してしまう。
「てか、ここは私の部屋でもあるんだしさ。そもそもノックなんていらんでしょ」
自分のベッドにぽすっと座ったお姉ちゃんは、またしても同意を求めてくる。
「まあ、そうなんだけど……」
言われてみると、その通りのような気が……。
心の垣根がないにも限度がある気がして言ってみたけれど、姉妹で同一の部屋を使っているのに、ノックとか取り決める意味があるかというと、意味がまったくない気がする。
「それともなに? 何かやましいことでもあるの?」
そんな風に勘繰られても、やましいことなんて特に……
「ない、けど……」
「なんなのよ……じれったいわね……」
呆れた声でぼやいたお姉ちゃんは、そこで――、
「じゃそういうことで」
無理やり話を切った。面倒くさくなったのかもしれない。
私もノックの有無にそこまで固執してはいないので、これ以上の問答はやめておく。
当然、お姉ちゃん相手じゃなければ、もっと徹底的に抗議するけどね。
そして私が「いかない」と答えるとは端から思っていないらしく、お姉ちゃんは、私の返事を聞く前に背を向けて、そのまま出て行こうとする。
そのお姉ちゃんの背中に、
「はーい……」
私は若干気だるげに返事をした。
出掛けるのは、正直、ちょっとめんどくさかった……。お姉ちゃんと出掛けるのは好きでも、出掛けるのは嫌いという複雑な心境。どちらかというとインドア派だしね、私。
すると、お姉ちゃんはくるりと振り向いた。
私の反応が好ましくないものだったのか、
「……てか、少しは喜びなさいよ」
お姉ちゃんは、眉をひそめ、わずかに頬を膨らませた。
「だって……私、起きたばっかりだし……」
そんなお姉ちゃんの様子に、不満を口にする。
「それ、関係あるの?」
冷ややかな返しがきたけれど、めげずに続ける。
「おおアリだよ。だから嬉しい事柄に対する反応が鈍くなっちゃうのもしょうがないかなって……」
そういうことだから。ってな感じで私は言い分を言い終えた。
するとお姉ちゃんがシンキング。ややあって、
「つまり喜んでくれてはいるのね」
と解釈する。
「うん」
即答した私は、
「お姉ちゃんとのお出掛けだから……」
ともぞもぞと付け加える。言って恥ずかしくなった私はうさちゃんぬいぐるみに顔をうずめる。
そんな私を見て、お姉ちゃんも気恥ずかしくなったようで、照れ隠しだろうか頬を掻いていた。
私たち姉妹の間に、奇妙な空気感が流れる。
お姉ちゃんの視線がゆっくりと動く。つい視線を追う。
そうして、二人の視線は本棚へ。
そこには、共同出費で買った女の子がいちゃいちゃする漫画の本。表紙で指なんか絡ませちゃってる。
「……」
もう限界だった。
恥ずかしさに耐えかねた私は、
「お姉ちゃん、先行ってって」
お姉ちゃんを一旦遠ざけることにより、気を落ち着けることにした。
それを聞いたお姉ちゃんは、「照れ屋さんなんだから……」と小声で呟きながら肩を竦め、また背中を向けた。そして今度はそのまま階段を下っていった。
「じゃあ待ってるから、すぐに来るのよ」
階下から呼び掛けるような声。
「わかった」
私も少しボリューム高めに返す。……聞こえたかな?
とまあこんな感じで、私たち姉妹の間での《お出掛け》は、土日の恒例行事的なポジションなんだよ……。
ちなみにそれが、私たちが近所で仲良し姉妹と言われる
うさちゃんぬいぐるみに別れを告げた私は、着替え始める。
――えっと……、暖かいから上着はなしでいっか。半袖は流石にまだ早いよね。
そんなことを考えながらいそいそと着替えを進めていった。
そうして着替え終わった私は、寝癖を整え、洗顔をし、トイレにも向かうという必要不可欠な準備を終えた後、ようやくの事で、待たせちゃったし、怒ってるかな……などと若干不安に思いながら、先に玄関で待っているはずのお姉ちゃんの元へと秒で向かう。
すると、やはり玄関ではお姉ちゃんが待っていた。
お姉ちゃんは腕を組んで目を瞑っていたけど、私が来たのを察知したのかこっちを見た。
その顔色を
「うん。及第点ね」
私を見たお姉ちゃんは、こくりと頷いた。
及第点って、時間? それとも身だしなみ?
……まあ、どっちでもいっか。落第しない限りはね。
「急かして悪かったわ」
お姉ちゃんが詫びた。
私は靴を履きながらそれに答える。
「ううん。私こそ待たせてごめん」
そう詫びた。
すると、お姉ちゃんは微笑んだ。
「気にしなくていいわよ」
そんなやり取りを経て、ドアを開けて先導するお姉ちゃんに着いていく私。
こうして、私たち姉妹は、町へと繰り出すのだった。
このときの私は、今回の土曜日もそんないつも通りのお出掛けって感じで、二人でデートするみたいな感じにどっかに出掛けるのかなと思っていた。
今回のお出掛けも、姉妹で行うデート的な感じな、いつも通りの普通のお出かけと思われた。
……のだけど、今回の土曜日はそうじゃないみたい。
「ああ、今日はね。ファミレスで恒例の女子会よ」
約束という名の取り決めによって、恒例行事である二人のお出掛けが変化したから。
「そう、なんだ……」
二人っきりのお出掛けだとばかり思っていたから、ちょっとがっかり。
どうやら私たち姉妹共通の友人である
私の知らぬ間に、約束を取り付けたみたいだね。こっそり連絡取り合うなんて
「ん? どうしたの実兎」
おっと、勘づかれた。表情に出てたのかな……?
「なんでもなーい……」
心中での想いに引き摺られ、思ったよりも拗ねたような言い方になった。
「そう?」
お姉ちゃんは
と、そこで急に、お姉ちゃんが何を思ったか手を握ってくれた。
お姉ちゃんに、それをお詫びとしたり、それではぐらかす意図はなかったのだろうけれど……、よろしい、これでチャラしてあげよう。自然と嬉しさが込み上がった。
それはともかく、サナとの合流地点へと私も連れていかれている真っ最中。
――今進行しているのはお姉ちゃんとの行進、なんちゃって。
まあつまり、手を繋いで二人仲良く並んで歩いているということ。
つまり、月火水木金の5日間を乗り越え、満を持しての土曜日。
勉学という縛めから解放された私たちは、今日ばかりは普通の女の子として外に出ているということになる。
私は、おうちに居るのが大好きだけれど、こうやって(お姉ちゃん、もしくはサナと、という条件付きではあるけれど)外にくり出すのも、好き。
私服で町を
学生服では、あまり自由に歩くことの出来ない町を、私は今、堂々と歩いているんだなぁって思える。
けれど、フリーダムに動ける日というのが如何に貴重なのか、この時の――学生の身の上である私たちには、実感が伴っていなかった。
大人になってわかることは、大人にならないとわからないからしょうがないね。
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