青春ギャンブル

ノカ

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 なんとなく寝転がったままになっていたベッドから起き上がって、クローゼットを開ける。この服はもう季節的にアウト。この服は買ったけど結局まだ一度も着ていない。ハンガーと服をかき分けて、さらに奥を探す。

「・・・・・・あった」

 思っていたよりもがっかり感がにじんだ声がでた。端の方に「それ」はあった。去年まではほとんど毎日着ていた、高校時代の制服。今となっては懐かしいという気持ちと、やっぱり微妙にダサいデザインだなということしか頭に浮かんでこない。

「いや~、入るとか入らないとかじゃなくてさ・・・・・・」

 普通に考えて私はもう高校を卒業しているわけだし、別に特別今着たいというわけでもない。ダサいし。

 とりあえずクローゼットから出し、ベッドの上に置いてみた。放っておいた割には状態がよく、特に問題なく着られそうではある。・・・・・・残念なことに。

『あった~!うわ、チョーなつい!』

 スピーカーホンにしておいたスマホから物をかき分けるガサゴソという大きな音と、それよりも大きく、やたらテンションの高い声が響いてくる。

『サッチーあったよ!行こ!』

「待たんかい!私まだOK出してないからね!?」

 通話の相手は高校からの知り合いで、地元の友達で連絡を取り続けているほぼ唯一の存在、金村かなむらひびきである。私は高校時代、当たり障りのない、広く浅い付き合いを心がけていたつもりなのだが、なぜコイツとは未だに関係が続いているのかナゾである。

『ね~、行こうよ~?今着ても全然いけるって!バレないバレない!』

「もし知り合いに見られたらどうすんのよ!たかがクレープのために社会的尊厳を犠牲にしたくないんですけど?」

 そう、ここで重要になるのはクレープ、である。事の発端は通話の最中。SNSを巡回していたらしい響が突然、『やばー!』などと騒ぎだし、何事かと尋ねたところ、『学生80%オフ!』というクレープ屋の広告を見つけたというのだ。そのあとはもう・・・・・・この通りである。

『えー・・・・・・でもサッチーの好きなマンゴー、あるよ?このチャンスを逃してもいいのかね、市野いちのくん?』

「うっ、卑怯な・・・・・・」

 なぜ私がマンゴー好きであることを知っている、話したことないはずなのに。

『最近一緒に遊べてなかったしさ~・・・・・・ダメ?』

 ・・・・・・ズルい。急に声のトーンを落とすのはズルい。思わず溜息をついてしばらく葛藤したあと、口を開く。

「・・・・・・クレープだけだよ。寄り道はナシ、すぐ帰る。いいね?」

『マジ!?やったー!顔洗ってくる!』

「え、もしかして寝起きで通話してたの?もう昼だけど!?」

 返事の代わりに足音が遠ざかっていくのが聞こえる。今のうちに着替えようかと思ったがイマイチ決心がつかず、ただ制服を眺める。すると、胸ポケットから何かが覗いているのが見えたので引っ張り出してみた。高校の時の名札だった。当然この私、市野幸香さちかの苗字「市野」が掘られている・・・・・・のではなかった。私が手にしているのは「金村」の名札だった。

「はあ!?オイ金村!」

『んぇ~・・・・・・呼んだぁ?』

 パタパタという足音がして、金村の声が近づいてきた。

「私の制服のポケットからお前の名札出てきたんだけど!?」

『あ~・・・・・・あ?あ~!そういえばなんか名札一個なくなってたね!スペアあるしいいやと思ってたけど、そうか~サッチーのところにあったか~』

「いやなんで私の制服のポケットから出てくんの!?意味がわからないんだけど!」

『ん~、サッチーのこと大好きなんじゃん?名札が』

「そんなわけあるか!」

 経緯はどうあれ、名札がここに入ったのは少なくとも一年以上前のはずだ。謎のなくし方をした金村もだが、今まで気づかなかった私も私で・・・・・・

「なんか悲しくなってきた・・・・・・」

『なんで?てかアタシ準備できたからもう出るよ~、サッチーの家まで行くね?んじゃ行ってきま~す!』

「は、待ってまだ私着替えて・・・・・・切れたし。もぉ~」

 響のことだ、どうせ寄り道をして到着するのは遅くなるのだろうが、ひとまず制服を着ることにしたのだった・・・・・・


 おわり

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