ユートピア

森川 優

第1話 メビウス

キーンコーンカーンコーン


 今日の授業が終わった。

 俺の名前は森川 優也。高校一年生。

 あー疲れた。早く帰ってゲームでもしよっと。

 帰る準備をして早々と席を立つ。


『優也ー!このあと暇?なんか食べてかない?』


 元気な声で呼び止める声の主は、濱本綾瀬。

 俺の幼馴染みだ。

 セミロングボブの茶髪。首当たりで毛先が内側にカールしている。少し日焼けした健康的な身体。身長は160前後ぐらいだろうか。俺よりちょっと小さいぐらい。


 周りの男達から視線を感じる。

 綾瀬はこの学校ではかなりの有名人だ。ルックスはよくてスポーツ万能。クラスの付き合いたい女子ランキング1位だそうだ。

 そんな綾瀬と話している俺を男共が許すわけがない。


『なんであんなネクラが濱本さんと話せるんだよ』

『バカ!濱本さんは誰にでも優しいから友達のいないあいつを心配してあげてるんだろ』


 等と聞こえてくる。

 俺はクラスでは目立たない存在だった。いつも寝ているだけで、特別仲のいい友達はいないし、作ろうともしなかった。そんな俺が綾瀬と話していたら面白くないのだろう。


『ご、ごめん用事があるから...』


 そう言って早足で教室を去った。校門をでた辺り


『優也なんで逃げるの!用事なんて嘘でしょ!』


『あ、綾瀬...ごめん。』


 わざわざ追いかけて来てくれたのか。


『そんなに私と一緒にいるの嫌?』


 嫌ではない。なんならちょっと嬉しい。いくら幼馴染みとはいえ綾瀬はかなりの美少女だ。こんな美少女といることを嫌がる男はいるのだろうか。


『嫌じゃないけど本当に予定があるんだごめん!』


 用事があるのは本当だった。俺は最近発売されたVRゲームユートピアをしたいのだ。


『どうせゲームとかでしょ』


『なんで分かったの?』


『何年一緒にいると思ってるのよ。それぐらい分かるよ!』


 恐るべし幼馴染み。


『今度はなんてゲームなの?』


『VRのゲームでユートピアってやつ!』


『ふぅん...まあ今日は仕方ないわね。次は絶対付き合いないよ!』


『おう!じゃあな!』


 お互いそれぞれの帰路についた。

 にしても綾瀬がゲームの名前を聞いてくるなんて珍しいな。今まで一度も聞いてきたことなんてなかったくせに。


『ただいまー』


 返事はなかった。両親は共働きで妹は恐らくゲーム中。

 俺と同じくゲーム好きでVRゲームにハマってるらしい。


 さて俺もログインしますか。

 ヘルメットを被る。バイクのヘルメットと同じ形状で黒色。外見は本当にただのヘルメットに見える。内側を見ると、無数の細かなパーツが内蔵されている。


  これは『メビウス』と呼ばれている。


 付けるとダウンロードしてるソフトにフルダイブすることができる。

 近年、学業や施設でも使用されており、国から支給されているぐらいだ。


 目を閉じ布団に横になる。


『コンタクト・オン』


 現実の意識が遮断され、閉じているはずの目にwelcomeと文字が見えてくる。


『ログイン認証を開始します。名前を教えてください』


『森川 優也』


『...認証しました。次に身体の構成を行います。身体スキャンを開始します。...認証しました。

 ようこそ。ユートピアへ!』

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ユートピア 森川 優 @morikawa-yuu

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