※打切※ 機甲操兵アーカディアン
天城リョウ
第1章
第1話 天浮橋の傍らにて
地球、北緯34度16分51秒・東経135度。
日本列島の本州と淡路島のあいだの紀淡海峡に浮かぶ小島、沖ノ島の西岸に豪奢な超高層ビルがそびえ、その頂から南の空へと高架橋が伸びている。
この傾斜した橋には橋桁だけがあり、下に柱──橋脚がない。どう自重を支えているのか外観からは分からない、天に浮く橋。
〘
日本神話に登場する天空に架かる橋から名を取ったこの橋にはリニアモーターカーの一種
その終点は赤道直下・東経135度の上空、高度3万6千㎞の宇宙空間に浮かぶ直径1.8㎞のドーナツ状の人工居住地、スペースコロニー〘
そう──
21世紀も後半の現在、人類は宇宙にまで生活圏を広げていた。
天蠍宮のような赤道直上3万6千㎞に浮かぶ宇宙駅から上下に伸ばしたケーブルと、それを伝って昇降する乗物から成る
ロケットを打ちあげるより遥かに安価に安全に、地上と宇宙のあいだで大量の人や物を運ぶことができる輸送装置。これができたことで人類の宇宙開拓は本格化した。
天蠍宮から地上に伸びる軌道エレベーターは3本。
1本は真っすぐ下へ伸びてニューギニア島の北西沖に築かれた
あとの2本は〔斜行軌道エレベーター〕といい、それぞれ北と南へ斜めに伸びて、北緯と南緯の約34度の地点に繋がっている。
その北側の1本が、天浮橋。
その傍を今、何本もの長さ20mほどの円筒状の物体が、群れを成して降下していた。その高度が地上から110㎞に達し──
ボッ‼
円筒の底面の辺りが赤く輝きだす。円筒が燃えているのではなく、円筒に超音速でぶつかられた空気が圧縮されて高温になり、プラズマ化して発光しているのだ。
空気が濃くなる高度110㎞で起こるこの現象による熱は小さな隕石なら蒸発させてしまうが、耐熱素材で造られた円筒は原型を留めたまま。
やがて空気抵抗で減速して断熱圧縮のプラズマも消え……円筒は真空の宇宙から、地球の大気の懐へと飛びこんだ。それを出迎えるように、下から何機もの飛行機が上昇してくる。
全長14mほどの小型飛行機。
それは戦闘用の──戦闘機。
バババッ‼
戦闘機らの胴体に吊るされた
だが、それは被弾のダメージによるものではなかった。竹筒のように縦に割れて自壊した円筒の外壁に阻まれて弾丸は中には届かず──無傷の中身が姿を現す。
身長16mの機械じかけの巨人。
天女のごとき純白の肢体、羽衣を思わせる翼を背中にまとう、それは有人操縦式・巨大ロボット〔ブランクラフト〕の一種。
〘イーニー〙
夜空に現われ満月に照らされた天女たちは、下から来る戦闘機たちからの銃撃をひらりはらりと回避しながら、天浮橋に沿って舞いおりつつ、袖口から取りだした短い棒を片手に握った。
それは先端から放出する灼熱の荷電粒子を針のように束ねて刃とする光の剣、ビームサーベルの柄。戦闘機の群れと交差する間際に柄が振るわれ、青白い閃光がほとばしる!
ズバッ‼
ビームサーベルの光刃は機体の腕よりも少し長い程度、まさにサーベルほどの長さが常だが、瞬間的には荷電粒子をビームガンとして撃ちだすことで遥かに長くもできる。
そうして振るわれた長大な光刃が何機もの戦闘機を溶断。行動不能にされた機体の残骸が落下を始め、そこが無事だった機体からはコクピットが射出されて中のパイロットを逃がす。
一瞬で多数が撃墜された戦闘機たちだが、それでも全滅はしていなかった。巧みな回避運動で光刃をかわした数機が降下するイーニーたちとすれ違い、その上に回ったところで姿を変える!
ガシャッ‼
機体が前後に折れまがり、その折り目から頭部が現れた。
前部の機首側は胴体となり、半透明キャノピー下のコクピットが腹部に来て装甲に覆われる。後部の機尾側は中心部が両腕となり、その両脇にあったジェットエンジン部は両脚となった。
主翼は背中で──天使にたとえるには武骨な板状だが──左右に広がる。胴体に吊っていたガンポッドは外れ、そのグリップを手で持つ。
全長14mの戦闘機から──
身長12mの巨人に変形した。
その正体は16mのイーニーより小型なこの〔人型形態〕と、普通の戦闘機そのままな〔巡航形態〕の2つの姿を持つ、可変ブランクラフト──
〘
その名は日本の最高峰・富士山を意味する。もちろん日本製だが、それが守るべきは日本だけではない。
今世紀の前半に勃発した第3次世界大戦を通じて全ての国家が統一され誕生した連合国家〘地球連邦〙……今の日本は、その州の1つ。
心神は地球連邦軍の主力ブランクラフトに採用されており、連邦の国民と領域の全てを
その、敵とは。
月に移住した人々による新興国家。元は地球連邦の州だったが脱退し、政体を君主制に改め、現在は連邦と戦争状態にある──
〘ルナリア帝国〙
当初は月周辺のみを版図としていた帝国は、これまでの戦いで連邦から天蠍宮を奪っていた。ここにいるイーニー各機は、そこから地球に送りこまれた帝国の尖兵たち。
斜行軌道エレベーター・天浮橋は現在、日本にある地上駅は連邦に、天蠍宮にある宇宙駅は帝国に支配されている。
これでは連邦も帝国も橋を使えない。
地上駅も占領することで天浮橋を安全に使えるようにし、それで天蠍宮から大量の兵力を地上へと送りこんで、地球侵攻の足がかりとするのが帝国の目的。
心神を駆る連邦軍兵士のパイロットたちは、それを阻止する命令を受けて地上の基地から出撃してきた。
「行かせるか!」
人型となった心神たちは機体を翻して降下を始めながら、前を行くイーニー各機にガンポッドを斉射した。
イーニーたちは振りかえりもせず真っすぐ地上を目指して飛びながら、心神たちに背中を見せたまま弾丸を回避しつつ手だけ後方に向けて、柄からビームを飛ばして心神を撃墜していく。
まさに神業。
それを一部の特に優秀な者がではなく、全てのパイロットが当然のようにこなしている。帝国軍パイロットの恐るべき質の高さが表れていた。
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