悠久の源頭:邪竜覚醒と英雄鍛造

事情聴取

 完全に鎮火した村の跡を歩く。

 廃材と化した材木を足でかき分けながら、役に立ちそうな物を探していく。

 駄目だ、どうしても心が落ち着かない。

 焼け落ちた民家を見る度に、元の穏やかな村の風景を思い出してしまう。

 落ち着かない心を持て余し、俺は手持ち無沙汰にステータスを開いた。

 


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称号:孤独な者 群れの主 勇者喰い

ユニークスキル:天業合成てんごうごうせい 異界之瞳いかいのひとみ 飛躍推理メタすいり

スキル:竜魔術 爪牙技 剣術 魔工熟練 棒術 はめ込み 滅音 欲望の繭 腐食魔法 静電気 湿潤魔術 土耐性 属性魔法・火水風土 魔力操作 魔力返還 魔力吸収 無詠唱 狩猟術 俊足

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 聖との戦闘で格段に成長した戦闘スキル。

 剣術、棒術。

 そしてフィアとの数日間で成長、獲得した狩猟のためのスキル。

 滅音、狩猟術、俊足。

 俺の旅のそもそもの目的であるスキル獲得は順調だ。

 これは喜ばしい事なんじゃないか?

 うん。

 いいぞ、いいぞ。

 こういう時だからこそ、楽しい事を見つけないとやってられないからな。


 少しテンションが上がった俺は、コルク村の残骸から食料とタイタンベアの死骸を、洞窟に持ち帰った。

 アルベルトが調理を始めると、匂いに釣られて穴の奥から村人達が溢れかえってくる。

 帰って来た俺を村人達は見ている。

 恨みの籠った眼で。

 

 なんだ?

 この惨劇が俺のせいだとでも言いたいのか?

 残虐な皇国兵が暴走して虐殺を始めただけなのに。

 いっそ声に出せば、お前達の気も楽になるのに。

 村人達の眼を眺めた俺は、集団の中にマリーを見つけた。


「マリー、ちょっと話がしたい。外せるか?」


「ええ……いいわよ」


 俺達は村人達の視線を背に、木々の間に入って行った。

 村人達の声や飯の匂いがしなくなる程に離れた所で、俺はマリーに向きなおった。


「聞かせてくれ。何があった。俺がいない間に。ソリティアは皇国兵が最初からこの村を襲うつもりだったと、そう言っていたが」


 マリーはため息をつき、木にもたれ掛かった。

 しばらく黙りこみ、そして覚悟を決めた顔をこちらに見せた。


「その前に。ここをぼかしておくと、お互いのためにならないから、最初に言っておくわ。村の人達、村長さん、そしてあの子……クリエちゃんが死んだのは、まぎれもなく私達のせいよ」


「……ああ、言われなくても分かってる。バランスを間違えたんだ」


「バランス?」


 繰り返された言葉に、頷いて言葉を、伝える相手を間違えた懺悔を続ける。


「目立つリスクと彼らの大切さ。……上手く言えないな。とにかく俺は天秤にかけるべきでないものを、かけたんだ。この結果は、そのせいだ」


「そう。貴方は自分の中の価値観を見誤った。比較してはいけなかった物を比較してしまった罪を犯したのよ」


「その通りだ。でも、まるで他人事みたいな口の利き方だ。お前だって同じなんだろ?」


 自業自得だが、マリーの態度に腹が立ち、半ば八つ当たりの様に睨み付けてしまう。

 俺が罪を犯したというのなら、マリーも同じはずだ。

 この言葉の中には、そんな望みがあったと思う。


「同じよ。でも私が犯した罪は1000年前だけどね」


 だがマリーは俺が思っていたよりも、ずっと大人だった。

 少なくとも、やっと今自分の罪について自覚した俺とは違った。

 俺はようやくマリーが何をしたのか思い出した。


「1000年前、親友のフラウを残して、私がどんな気持ちで迷宮に閉じこもったと思う?」


 以前、親友を無くした気持ちが分かると言った。

 でもそれは少しだけ、状況が違った。

 他人の命を諦めるのは、俺もマリーも慣れている。

 でもそれは俺が消極的な諦めだとすれば、マリーは積極的な諦めだ。

 俺が皇国兵を一掃しないと決めた時には、もうコルク村の人達の死を受け入れていた。


「……諦めていたんだな。今回も同じだったのか?」


「そうよ。それでも、できる限りの事はしたわ。万が一私がいなかった時の事を考えて、クリエちゃんには自衛用の魔法を教えていたわ。皇国兵に襲われて、精神を集中できずに使えなかったみたいだけど」


 マリーの言葉はどこか苦しそうだった。

 当たり前だ。

 諦めたからと言って心を捨てたわけじゃない。

 失った物について語るのは、誰だって辛い。


「分かった。もうこの話はやめよう。俺はなぜ皇国兵が村を襲ったのかを聞こうとしていたはずだ」


「話が逸れてたわね。それじゃあ説明しましょうか」


 そう言って、マリーは自分の髪を撫でて、数時間前の事を話し始めた。

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