外伝:本当の解決
私は2人に頭を下げて、全てを話した。
自らの本性が何で、貴女方をどのように裏切ったかを包み隠さず話し尽くした。
下げた頭は言葉と同様に重く、途中プラム様の泣きすすりが聞こえたが、話し終えるまでは上げる事はできなかった。
「アルベルト頭を上げて」
冷たい声が私の頭に声が降りかかる。
言われた通りに頭を上げれば、こちらを見据えるソリティア様と涙をぬぐうプラム様が見えた。
私は呼吸の荒ぶりを抑えながら、言葉を待った。
「アルベルト、貴方には罰が必要よ。私を裏切って、御父様達を殺した男に手を貸して、そして何よりもこの娘を怖がらせた」
プラム様の肩を抱き、ソリティア様は目を伏せがちに言う。
想定していた通りに私には罰が与えられるらしい。
国外追放か、警備隊に突き出して死刑となるか、あるいはそれらすら生ぬるいと言えるような贖罪を求められるのか。
いずれにせよ私の犯した不忠に比べればどんな罰でさえ軽い物になるだろう。
それでいい。
大義名分があるとはいえ、罪を重ねた人殺しにはそれがお似合いだ。
執事として平穏な生活を送るなど、私には過ぎた望みだったのかもしれない。
山中で奪った1人の少年の人生から、元の戦争孤児の人生に戻るだけだ。
なにもおかしい事などない。
だから、この悲哀も恐怖もあの少年の物だ。
私は冷酷な暗殺者。
今まで執事の仮面を被り続けた、人の形をしたナイフだ。
「覚悟はできています。どんな罰であろうと受け入れる覚悟です」
「そう……なら、罰を言い渡すわ」
ああ、やっと。
俺は救われる。
あの日、少年の死に様を見てから胸の内にあった形のない恐れの様な感情は、きっと罰を求める気持ちだった。
両親の死への無感情、数多の暗殺、少年の人生の窃盗。
それらの罪が許される日が来てくれた。
私は待ち遠しく、ソリティア様の顔を見上げると、存在しないはずの物を見た。
「貴方への罰は減給と、私の身辺警護よ」
「な、何故ですか!」
思わず叫ぶが、ソリティア様はまるで気にしないように返す。
「罰が不満? 当然でしょう。今回の事件が私の身を案じて起きたというのなら、貴方がその手で私を守って見せなさい」
そうではない。
私が言いたいのは、叫んだのは、罰の内容よりも何よりも。
「何故私を許すのですか!?」
ソリティア様もプラム様も私の事を憐れみの目で見ている。
俺の質問に、ソリティア様ではなくプラム様が私の前に出た。
涙を拭きとり、こちらに微笑みかける。
「アルベルト、家族は間違いを許し合う物なんだよ。相手を思っての事なら尚更だって、昔お父さんも言ってた」
「か……ぞく……私が?」
考えた事もなかった。
私にとっての家族は今まで死んだ両親だけだった。
孤児になった後引き取られた施設では、精々が暗殺の同僚や教育をする先生しかいなかった。
私は1人だと思っていた。
誰も私の身を案じてくれるような人はいない、私に起きたことで悲しんでくれる人はいない。
だからあの男の計画に乗ったし、最悪の場合は私が自分の手で終わらせようと思っていた。
けどそれは違った。
目の前の2人は私の事を、家族だと思ってくれていた。
私が手を汚せば悲しみ、私の過去を知り憐れんでくれる人々。
「間違えたのならこれから直せばいいのよ。私達の関係のようにね。アルベルト」
気付けばうずくまり泣いていた私の肩をソリティア様が撫でてくれていた。
次の日、私は館の門の前でプラム様を見送っていた。
ヒトゥリに送られていくプラム様が角を曲がり姿が見えなくなった後、私とソリティア様は館の中に戻っていく。
これから警備隊に逮捕されるまで、幹部の男からの妨害がやってくるだろう。
このように。
「それにしても、下手な隠密だな……」
庭の木からの視線に、こちらも同じ様に視線で牽制を送る。
露骨な牽制を送ったので、あちらも気付き木から何かが飛んでいく音が聞こえた。
「どうかしたの?」
ソリティア様が急に立ち止まった私に声を掛ける。
「いいえ、何でもありませんよ」
私は執事のアルベルト・ローレンス。
今度こそ、選択を間違える事はないだろう。
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