迷子になっていた妹を助けてくれた清楚な美女は、春からクラスの副担任で俺達の母親代わりになった件

青野 瀬樹斗

お隣の美人教師と変わった近所付き合い

1話 迷子の妹を助けてくれた美人


お久しぶりです、新作です。


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「やーー! とぉくんのいじわる! かな、ひぉちゃんとあそびたい!!」

かなで、外なんだからあまり我が儘言わないでくれ……」


 高校二年生の久和くわとおるは、日曜日の街中にある公園において四歳になったばかりの妹の我が儘に頭を抱えそうになっていた。

 脇目も振らずに大声で泣き喚いているため、通りがかる人達の注目を一身に集めてしまっている。

 GW明け前日の昼間に大衆の面前で駄々をこねる子供とその親……割と見掛けるケースの当事者になり、これ以上ない程に羞恥心に悶えてしまう。


 だが自分達兄妹だけならここまで悩まされてはいない。

 奏が『ひぉちゃん』と呼ぶ女性の足にしがみつきながら泣き喚くせいで、恥ずかしさだけでなく申し訳なさも加わっているからだ。


「え、えぇっと……」

「すみません灯依ひよりさん。妹はなんとか落ち着かせますんで気にしないでください」


 その女性──灯依は澄達の様子に困惑していた。

 彼女には迷子になっていた妹を見つけてもらったのだ。


 毛先が波巻き状になっているセミロングの黒髪、パステルブルーのオフショルダーブラウスに膝丈まである緑のラッフルスカートで、如何にも休日を満喫していた大学生といった装いである。

 一瞬だけ同年代かと錯覚した童顔ながらも整った美貌に、少しだけ目を奪われたのは秘密だ。


 とりあえず恩人と自己紹介を交わしたものの、何故か灯依から苗字は聞かなかった。

 気にはなったがこれっきりだろうと感謝を伝えて解散しようとした矢先に、彼女を気に入ったらしい奏がもっと一緒に居たいと我が儘を言い出した。


 だが灯依にも都合がある。

 これ以上の迷惑は掛けたくない気持ちから澄は謝罪するのだが……。


「やーーーー! ひぉちゃん、いっちゃだめーー!!」


 兄の口振りから灯依と離されることを察したのか、奏は更に大きな泣き声を上げながら灯依の足にしがみつく。

 あまりの強情振りに、澄はお手上げだという風に嘆息する。


「はぁ~……なんでこんな駄々をこねるんだ……」

「えっと、普段は違うの?」

「珍しくないっすよ。それでも普段はダメだって理解したらすぐに引き下がりますし。それに警戒心は強いんで、初対面の人とはまず口を利かないはずなんですけど……」

「私が言うのもなんだけど、ここまで懐くのは初めてってことなんだね」

「はい……」


 少なくとも澄にとって奏の灯依に対する懐きっぷりは初めて見るモノだ。


 迷子になった自分を見つけてくれたことが切っ掛けだとしても度が過ぎている。

 となると灯依が何か特別な関わり方をしたと考えるのが妥当だが、当人も困惑している様子から作為的な意志はないだろう。

 初対面であっても、澄は彼女が悪人には見えなかった。


 だからこそ、かなでの執着に疑問が拭えていないのだが。


 いずれにせよ奏が泣き止まない限りは、絶え間なく人目を集めることになる上に、兄であるとおるの方が悪者扱いされかねない。

 だというのに肝心の奏は聞く耳を持ってくれなかった。

 もういっそ澄の方が泣きたくなる始末である。


 そんな兄妹を見かねたのだろう。

 灯依ひよりは足にしがみついたままの奏の頭を優しい手付きで撫でる。


「……ひぉちゃん?」


 そうすると泣き騒いでいた奏がスイッチを切ったようにピタリと泣き止み、目尻に涙を乗せたまま円らな瞳を灯依に向ける。

 その早さに澄は軽く兄としての自信を失くしそうだった。


 奏が落ち着いたのを確かめてから、澄に顔を向ける。

 美女と目を合わせたことに少なくない緊張を抱きつつ、彼女の言葉を待つ。


「ねぇ久和くわ君。キミさえ良ければ、奏ちゃんと一緒に私の家に来て貰って良いかな?」

「ぇ…………えぇっ!?」


 さらりと告げられた提案に、澄は堪らず驚愕の声を上げてしまう。

 誰しも初対面の綺麗な女性から家に来ても良いと訊かれれば、こういった反応になるのも当然である。


 無論、奏のための提案だと理解しているが、それでも動揺を抑えるのに少々時間が掛かってしまう。


灯依ひよりさんの前なのに、ガキみたいに狼狽えてダサいな俺……)


 高校生になって少しは大人になれたかと思いきや、まだまだ子供な自分に少なからず呆れてしまう。

 何とか気持ちを落ち着けてから、改めて灯依の意図を探る。


 奏はもっと灯依と居たいがために滅多に言わない我が儘を言ったのだ。

 そんな会って数時間も経っていない妹のために、灯依は自宅で過ごすことを提案してくれた。

 迷子になっていたかなでを保護してくれた上に、家にまで誘ってくれた優しさにはいくら感謝しても足りないだろう。


 しかし善意からの言葉であっても、彼女が何か企んでいる保証が無い状況では快諾するのは躊躇われる。

 兄妹の事情に巻き込んだ罪悪感こそあるものの、それとこれとは話が別なのだ。

 自身はもちろん妹を守るためにも、灯依の言葉に甘える訳にはいかないのである。


「あ。い、いきなりこんなこと言われても困るよね? 未成年二人を家に連れ込む形になるけれど、何か企んでるとかじゃないから安心して! し、信じられないのは無理も無いけど……」


 逡巡する様子のとおるを見て疑われたと感じた灯依ひよりが、慌てて企みはないと釈明する。

 その無害を主張する愛想笑いは確かに、彼女が悪巧みをするような性格には見えなかった。


 だがそれでも灯依の提案を受ける確証には至らない。


「えっと、怪しいのは百も承知だけど、私の借りてる部屋まで来たら少しは信じられると思うの。それに……」


 チラリと灯依が視線を向けた先には、すっかり泣き止んだ上に期待の眼差しを浮かべる妹の姿があった。


「ひぉちゃんのおうち……!」

「……」


 普段の人見知りぶりが嘘のように見当たらない妹に、澄は堪らず苦々しい面持ちになる。


 このまま断ると、せっかく泣き止んだ奏を悲しませてしまう。

 期待を持たせてそれを奪う真似をすれば、妹から向こう一週間は口を利いて貰えなくなる。

 それに灯依側にも疑いを晴らすための心当たりがあるようだ。


(──……仕方ないか)


 考えた末に内心で嘆息しながら一旦は受け入れることにした。

 人見知りの妹が初対面の彼女に懐いている時点で、多少は信じていいかもしれない。

 もし仮に騙されたと分かれば、奏を抱き抱えてでも逃げれば良いだけの話だ。

 その後のことは後でどうにかするしかない。


 そう結論付けた澄は灯依へ顔を向ける。


「……お願いします」

「え? ほ、ホントにいいの? 私、明らかに怪しいのに……」

「なんで言い出しっぺが動揺するんですか。奏を誘拐するつもりだったら、俺と会わせたりしないでしょ」

「あ、そうだね。あはは……うん、任されました」


 澄が呆れながら提案を承諾すると、灯依はその通りだと苦笑いしつつ頷いた。

 話が一段落して彼女は屈んで奏に目線を合わせながら慈母のような笑みを浮かべ、そわそわしている少女の小さな手を取る。


「奏ちゃん。お兄ちゃんと一緒に私のお家に来る?」

「うん! ひぉちゃんのおうちにいく!」

「ふふっ、それじゃ手を繋いで行こっか」

「はーい!」


 灯依と居られると理解した奏は、先程まで泣き喚いていたとは思えないくらいにこやかだ。

 このまま灯依と手を繋いで歩くかと思いきや、奏は空いている手を澄の方へ伸ばす。


「奏?」

「とぉくんもいっしょにおててつなぐ!」

「あぁそういう……はいはい」


 妹の意図を悟った澄は、苦笑いを浮かべながら伸ばされた手を握った。

 また迷子にならないようにしっかりと。

 そうすると奏の表情はとても満足げな笑顔になり、澄はようやく胸を撫で下ろせた。


 反対側の灯依も微笑ましそうに奏を見つめている。

 彼女の美貌によるそれはとてつもなく綺麗で、澄は無意識に見惚れてしまう。


 もし直接手を繋げたら──そこまで考えたところで澄は慌てて首を横に振る。


(いやいやバカか俺は。いくら美人でも相手は初対面だぞ。んなバカなこと考えるなっての)


 相手の素性も分からないのに暢気な邪念を振り払い、逸る鼓動を悟られないように平静を装いながら歩を進める。


「──え?」


 だが肝心の灯依ひよりの自宅に着いた時、とおるは茫然と立ち尽くしてしまう。

 平静など保てるはずもない驚愕を目の当たりにし、ぐうの音も出ない程に絶句していた。

 そんな澄の反応に灯依は気まずそうに目を逸らしている。


 何故なら、灯依の自宅があるのは澄達と同じマンションだったからだ。

 さらに言うなら同じ階で隣に住んでいた。


 だが澄が何より驚きを隠せなかったのは他の要因である。


 澄は自宅の隣に誰が住んでいるのか……今日より前に知っているのだ。

 なるほど、確かに部屋まで行けば灯依が何も企んでいないと分かる。


 何せ……。


「灯依さんって……筑柴つくしばだったんですか?」

「は、はーい。これで、私のこと信じてくれる……?」

「そりゃ納得しかないですけど……」


 動揺が止まないまま震えた声で投げ掛けられた問いに、灯依は苦笑いして頬を掻きながら肯定する。


 そう、彼女──筑柴つくしば灯依ひよりは澄が通っている高校へ赴任したばかりの新米教師で、クラスの副担任となった人物なのだ。

 教職であるならよほどの魔が差さない限り犯罪は避けて当然だろう。


(俺が気付いてないって分かってたから、苗字を名乗らなかったのか……)


 そんな彼女の配慮を台無しにしてしまった申し訳なくなる。

 ひとまず疑いは晴れたものの、今度は違う理由で頭が痛くなって来てしまう。

 自身の潔白を証明するとはいえ、生徒であっても異性に自宅を教えるなんてドジが過ぎないだろうか。

 どこか抜けている彼女の選択を前にして、澄は疑っていた自分が馬鹿馬鹿しく思えるのだった。

 



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 教師×生徒+幼女の欲張りラブコメのスタートです!

 次回は夜18時に更新します。

 

↓前回カクコン受賞作&第二部開始しました

【両親の借金を返すためにヤバいとこへ売られた俺、吸血鬼のお嬢様に買われて美少女メイドのエサにされた】

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