第3話 無表情な女神と魔法システム導入

 真っ白な、モヤがかったところに俺はいた。


「どこだ、ここ……? 今度は何だってんだ?」

『君は前知識がないね』

「?」


 振り返るとそこには、青くて、ロングストレートの髪の女が立っていた。

 どこか不思議な雰囲気な女の子。

 パッチリとした目に、柔らかそうな唇。

 少し無表情かな、とは思うけど、それがまた、神秘的な感じがする。

 どういう仕掛けなのか、彼女の周りには赤やピンク、青や緑の玉がフワフワと浮かんでいた。

 この一連の流れで俺は確信した。


「そうか、やっぱり……。俺は、アニメやマンガでよくある、『異世界転生』したんだな? 君はスキルや特殊な力をくれる、神様ってことだな?」

『少し違うね。説明するよ』


 無表情の女神が続ける。


『ルールをもたらすのは君だよ。君の好きなシステムを導入してね』

「俺が……、この異世界にルールをもたらす?」

『そうだよ』

「ン~……? 何でも思い通りのルールを異世界に作れるってことか?」

『そのとおりだね』


 システムって言葉からすると、アレか?

 単純に転生じゃなくて、MMOゲーム系か?


「……そのあとはどうなるんだ? 俺が世界にシステムを導入したあとは、元の、現実世界に戻されるのか?」

『それは違うよ。君は元いた場所に帰るだけだよ』

「元の場所……、あの鏡のある部屋か」

『そのとおりだね』


 ということは、俺は異世界に留まりつづけるってことか?

 まあ、勉強もたいしてやる気が起きない。バイトなんてする気もない。ゲームして、動画を見るだけ、姉ちゃんにやっかまれるのが関の山の現実世界になんて、そんなに戻る気にならないからいいけど。

 だとしたら、当然――。


「俺をこの異世界で最強にしてくれ。スキルも魔法もすべて使えて、誰にも、あのサルにも、どんなモンスターにも負けないくらい……」


 これを願うに決まってる。

 元の場所に戻っても、あそこはサルのモンスターに襲撃されている最中さいちゅう。切り抜けるには最強になるしかないし、できれば……。


「あ、そうだ。タイムリープの能力もつけてくれ。セロを助けないといけない」


 と、付け加えたのだったが――。


『そのルールは却下だよ』


 女神の返答に、俺は唖然あぜんとした。


「え? タイムリープはダメなの?」

『全部だよ』

「……は?」

『【君にスキルや魔法を付与して唯一無二の最強魔導士にする】ことは出来ないよ』


 これにはマジで、口が開いてしまった。


「何でも好きなシステムを要求できるんじゃないのかよ」

『適用範囲が狭すぎるね。それにスキルも魔法も存在しないよ』

「適用範囲って何だよ……。しかも、スキルも魔法もないだなんて、そんな異世界……」

『君だけにというルールは受け付けない。全体に適用されるシステムを導入してね』

「全体に……」


 少し考えて、俺はいてみた。


「俺が、魔法やスキルを異世界に導入したとする。いくつかの属性のものを、たくさん導入したとする。ただし、いきなり、皆が魔法に目覚めるわけじゃない。【特別な方法】じゃないと修得できない。これは出来る?」

『出来るよ』

「その、魔法を習得するための【特別な方法】も、俺が設定できる?」

『出来るよ』

「マジでヘンテコな手順を設定して、その手順を踏めばすべての魔法がチートみたいに手に入るとかは?」

『可能だよ』

「よし。それなら俺は魔法システムを導入する!」


 これなら、【俺だけが最強】が実現する!


『導入するのは君が想像しているビデオゲームの魔法と同様かな?』

「神様だからか、心のなかで想像してることも判るのか……」


 メラやファイアもいいけど、せっかくだから、もっとバリエーションがあって、応用がききそうなのがいいよな。

 そう思っていた俺は、手にカードを持っていることに今更になって気付いた。

 リンの、五十音を覚えるためのカード。いつの間にか持ってたカード。

 「あいうえお」を見下ろした俺は、ひらめく。


「……これ、いいんじゃないか?」


 魔法には体系がある。

 火の魔法、氷の魔法、雷の魔法。それらのなかでも、威力が強いもの、弱いものがある。

 その体系を「あいうえお」をベースに実現する、オリジナルの考え。俺が考えた「魔法」だ。


 おぉ……? 異世界が俺の考えた魔法システムで支配される! いいんじゃないか? 胸が熱くなってきた!


 黙ったままの女神を放っておき、俺は考えた。

 「あいうえお」の体系。

 あ行、か行、さ行……で魔法をカテゴライズして、【あ、い、う……】、【か、き、く……】で威力が上がってく感じ。


◆◆◆


「あ行」、「授与」:「魔法の力」を与える魔法。俺に味方してくれる仲間も強くしないといけないからな。


「か行」、「念動力サイコキネシス」:手に触れないで物を動かせる魔法。発火パイロキネシスは念動力の一種だって聞いたことがあるから、ここに「火の魔法」や「氷の魔法」が含まれる。


「さ行」、「騎士ナイト」:自分の能力をアップする魔法。


「た行」、「テイム」:モンスターや動物をテイムする魔法。


「な行」、「アイテムマスター」:アイテムを調べたり、自由自在に使いこなす魔法。


「は行」、「異空間」:「ふくろ」みたいにさまざまなものを異空間に収納できる魔法。アイテムたくさん持って歩いてられないからな。


「ま行」、「マインド」:混乱させたり、眠らせたり、補助系の魔法。


「や行」、「僧侶」:仲間の能力をアップさせたり、回復役用の魔法。


「ら行」、「光騎士パラディン」:雷や光の魔法。


「わ行」、「シーフ」:さまざまなものを盗める魔法。魔法というよりはスキルに近いかな。



 そして、全てを制覇すると「時魔法」が開放される。「タイムリープ」の能力はここだ!

 

◆◆◆


「ちょっとダサい気もするな。五十音ってところが……」

『君がもたらすルールはその「魔法システム」でいいかな?』

「おっ、俺の心を読んだのか」


 他に何かいい案がないか、と少し考えたが、重要なのは【体系】じゃなくて、【俺が最強】であることだ。ひとまず、これだけの魔法があれば俺の地位は揺るがないだろう。

 「いいぜ」と言って、俺は女神にうなずく。


「ただし、【ある行動をとるとすべての魔法を身に着けることができる】、【「授与」で与えられる魔法のカテゴリは人生でひとつだけ】、このふたつは絶対だからな。仲間を強くしたとしても、最強の魔導士は俺だけじゃないとダメだ」

『では君がもたらすルールはそれらを内包する【日本語の五十音をベースとした魔法システム】でオーケーかな?』

「オーケーだ!」

『ありがとう。バイバイ』


 無表情の女神はそう言って、唐突とうとつな別れの挨拶をくれた。

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