転生したら異世界に好きなシステムを導入できるってさ。どうみても足りなかったのは魔法なのでついでに最強の時魔導士になりました。

ブーカン

第1話 目が覚めて異世界

 これは、とある男の物語。


 *


 少し前の……。

 本当に少しだけ……、数十分前のことだったはずだ。


 *


「ちょっと……。シュン、ヒマなの?」


 マズい……。始まった。


「……ン?」

「ヒマだよね? 寝転がって、スマホゲームしてるだけだよね?」


 これはダメだ。姉ちゃんの機嫌悪いパターンだ。


「いい身分よね」


 わかってる。

 こうなっちまったら、ニートの俺は姉ちゃんの優越感を満たすだけの存在になる。ウサ晴らしの罵倒ばとうを浴びなけりゃならない。

 でも、さすがに俺にもプライドがある。

 こんなとき、最近の俺はもっぱら――。

 

「……散歩、行こうか。リン」

「うん」

「……ちっ」


 最近はもっぱら、めいのリンをダシにして逃げてる。


「また勝手に、リンにお菓子買い与えないでよね!」



 俺の名はシュン。十九歳。ニートとは言ったが、一応は浪人生。

 だが、高卒で働きはじめ、学生の頃からの付き合いの相手と結婚し、出産、子育ても仕事もこなしてる姉ちゃんからしたら、俺はロクデナシになるらしい。

 機嫌が悪い時の姉ちゃんにとって、俺はいい標的。不機嫌の原因が俺のせいではなくても、だ。

 おかげで、自分の家だというのに、気の休まるものではない。


「……はぁ」

「シュンくん、お疲れさん」

「リン……」

 

 子どもっぽくないねぎらいの言葉をかけてくるリン。

 クリクリとした目で俺を見上げ、わかったようにフンフン、とうなずいている。

 元気なリンに似合ったジャンパースカート。後ろに紐つきの帽子を垂らして、手には保育園でもらった「あいうえお」カード。五十音のひらがながリストされた、カードサイズの勉強道具だ。最近の姪っ子のお気に入り。


「……日差し強いから、ちゃんと帽子被りな」

「うん」


 うなずいたリンだけれど、その、手に持ったカードが邪魔をしてるのか、上手く帽子をかぶり直せない様子。


「……ほら。カード持っててやるから」

「サンキュゥ!」

「……変な言葉、覚えてるなぁ……」


 多分、これがいけなかった。

 俺とリンは。屈み込んで、リンに顔を近づけて、俺の視界をせばめたのがマズかった。

 俺たちがいたのはビルのそばだった。外壁の工事のため、が組み上げられている最中だったんだろう。

 注意して見てたわけでもないし、気にもしてなかったから、あやふやな感じでしか思い出せない。


「危ない!」


 誰かのその言葉と、後頭部を襲った強い衝撃。それが俺の最後の記憶。

 リンは大丈夫だったかな。


 *


「あ……。気が付かれましたか?」


 目を開けた俺に言葉がかけられる。

 最初はぼやけていたが、しばらくして見た光景に、俺は呆気にとられた。


 まず、俺がいるところ。

 木造で狭い部屋だった。俺が今寝ているのは、毛布もマットレスもない固い寝心地のベッドのようだ。家具っぽいものは、あとは妙にキレイな鏡だけ。夜なのだろうか、ろうそく一本だけの室内はうす暗い。


 そして、声をかけて来た女の子。

 染めたのとは違う、自然なカンジの金髪。そのくせ、目鼻立ちはいわゆる外国人っぽくない。完全な日本人顔ってわけでもないけど、髪の色にしっくりきている上品な顔立ち。気のせいだろうか。彼女の耳の先が尖っているようにも見える。


「え……? コスプレ……?」

「……『こすぷれ』とは……、あなたのお名前でしょうか?」

「あ、いや……、俺は……シュンって名前だけど……」

「……そうですか。私はセロといいます。このタイト村の外の森で、倒れてらしたそうですよ」


 十五歳かそこらくらいかな?

 にっこりと笑う女の子に、俺は見とれてしまった。

 ヤバイ。

 このセロって子、可愛い……。いや、可愛いなんて言葉では言い表せないくらいだ。とてもこの世の者とは思えない美しさ。

 俺、変な顔とか、格好とか……してないだろうな?

 そうして自分の身体を見回しているうちに、気が付いた――。


「え? なんか、俺……」


 小さい……?

 俺はベッドから飛び出すと、鏡に向かって駆け出したのだが――。


ズルゥ ドタ


 盛大にすっころんだ。


「ああ……、大丈夫ですか?」


 痛い……。頭とヒジを床に打ちつけたみたいだ。

 「床」なんて言っても、この部屋は地面がき出しだった。

 いったい、どういう部屋だよ……。

 転んだ拍子に石や砂ですりむいたのか、ヒジからは少し血がにじむ……。


「いてて……」

「その変な着物、たけが合っておりませんよ」


 俺はどうやら、自分のズボンのすそをふんづけて転んでしまったみたいだ。上着もズボンも、今日、着ていた物なのは間違いない。

 けど、サイズが合っていない。

 それに、視点がいつもより低い。

 ってことは、やっぱり……。

 


 呆然とする俺を、セロが抱き起こす。

 やっぱり、そうだ。

 俺、縮んでる。セロの方が見上げるくらい大きい。リンよりは大きいけど、七、八歳くらいじゃないか? 


 ベッドに俺を寝かせると、セロが微笑みをくれる。

 美しいその笑顔で、このワケの判らない状況も一瞬だけ忘れる。


「おとなしくしててくださいね」


 そう言うと、セロは立ち上がり、部屋を出ていってしまった。


「どうなってんだ、これ?」


 あらためて、部屋と俺自身とを眺めまわしてみる。

 この部屋で目を覚ます直前、俺はリンと一緒に散歩に出てたはずだ。後頭部にすごい衝撃を受けたようなカンジがして、気付いたらここだった。

 そのときは昼だったはず。こんな、夜になるまで寝てた?

 病院? にしては雰囲気がおかしい。

 いったい、俺はどうなってしまったんだ。


 そうだ。

 スマホ。

 スマホで連絡とろう。

 定位置のポケットを探ってスマホを出すが――画面ですぐに目についたのは「圏外」の表示。

 案の定、電話もトークもネットも繋がらない。


「ええぇ……。どこだよ、ここ……」


 ふと気づくと、スマホといっしょに、俺の手はなにか紙のようなものをポケットから取り出していたらしい。

 見てみると、「あいうえお」のカード。リンのだ。

 帽子を被り、「えへへ」と満面の笑みのリンの顔が思い出される。


 そのときだった。


「きゃぁぁぁ!」


 耳をつんざく悲鳴が、ドアの外から聞こえてきた。

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