第16話

 カルサル師団長は私の額に手を翳すと淡い光と共に私は目を閉じた。つまり、強制的に寝て回復しろって事だった。


モーラ医務官に起こされて気づいた。


もう現地だと。


カルサル師団長のおかげで魔力は回復したけれども、なんだかモヤるわ。


皆緊張して馬車に乗っているのに私だけいびきをかいていたと思うと居た堪れない。モーラ医務官は気にするなと笑っていたけれど恥ずかしい。



 私達には村の南側に天幕が用意され、1人が結界で覆う。既に騎士団は戦闘の準備を終えて号令待ちのようだ。もちろん村人は避難しているので村は騎士団員達で物々しい雰囲気となっていた。


そんな中、魔導師の1人が空へと飛び魔石を魔物の中心部へと投げ込む。眩い光の柱が合図だったようで一斉に騎士達は魔物に向かって行く。光の柱が次々に出来て魔物が消滅していく。


今回のスタンピードでは魔物は少なかったらしく、浄化の魔石で半数以上は消滅出来たらしい。そうは言っても数百の魔物は残っていて騎士達が頑張って討伐している。私も後方支援として魔法を唱える。『浄化弾』私のオリジナル魔法。水魔法のアクアショットに浄化魔法を混ぜたもの。


浄化の魔法は範囲を指定してその場を浄化するか直接触れた物を浄化させる魔法なのだが、範囲魔法だと魔力消費が激しいため数回しか使えないし、魔力を押さえて魔物に直接触れるという事は私にとってリスクしかない。しかし、水魔法初級のアクアショットならいくらでも撃つ事が出来るし、消費も激しく無いため敵の数が多い時には持ってこいなのだ。


けれど、アクアショットに混ぜられる浄化は少し。敵を倒す事は出来ないとカルサル師団長は言っていた。けれど、弱体化はするのでドンドン撃てとも。


騎士に当たっても害は無く水鉄砲を掛けられている程度らしい。乱れ撃ちと言わんばかりに敵に向けて撃つ。敵は動きを止めたり、怯んだりしている。その隙を突き騎士達は倒す。偶に怪我をした騎士に向けて『癒弾』を打って重症化を防ぐ。


 何時間戦っただろうか。私の魔力量も半分切った所で最後の敵を倒す事が出来た。騎士達も怪我人はいるが重傷者はいないようだ。けれど私のせいで水も滴る男達ばかりになっていたのは言うまでも無いが。


これは改善の余地ありね。


 戦闘を終えた余裕か水のせいで騎士達の麗しい筋肉が服から浮き上がって見えている事に気が付いた。胸板、腹筋、上腕二頭筋!眼福という言葉そのものね。そう思いながらもモーラ医務官の元へ向かう。


他の医務官達も怪我人の治療を終えて帰る準備をしている。私もその中に混ざり、モーラ医務官の指示で馬車に荷物を運びこんでいた。すると、1人の魔導師が私に声を掛けてきたのだ。


「リア・ノーツさんですか?」


「はい。私、リア・ノーツ王宮魔導師見習いです」


敬礼をして先輩魔導師に答えると、先輩魔導師は近づいてきた。


「カルサル師団長から頼まれました。子供は睡眠が大事だから馬車で寝かせるようにと」


そう言って手を翳された所までの記憶はある。


またやーらーれーたー。


 モーラ医務官に起こされて気づけば王宮入り口。よく寝たわ。魔力もしっかり回復している。モーラ医務官は心配して王宮に泊まるように勧めてくれた。けれど、早く帰って自分の部屋でゴロゴロしたいの。


外はもう夕方になっており、荷物を置いたら帰宅しようと考えているとお兄様が迎えに来てくれていた。お兄様は私の顔を見るなり顔や頭を撫でてギュッと抱きしめてきた。


「リア!大丈夫だったか?怪我していないか?」


「ファルセットお兄様、大丈夫です。そろそろ終業時間です。一緒に家に帰りましょう?」


「あぁ、そうだね。僕の荷物を取りに執務室へ寄ってから帰ろう」


 モーラ医務官からも帰りなさいと言われたのでお兄様の荷物を取りに一緒に執務室へ向かった。


お兄様の執務室は相変わらず整理整頓がされていて仕事がしやすそうだわ、と思った所で目に入る。何故か兄の執務室に普段は居ない男の人達が。兄の執務室は基本的にライアン殿下の側近4人のための執務室のはずなんだけど。


「アラン殿下、ライアン殿下。何故私の執務室でお茶を飲んでいるのですか?」


お兄様の冷たい視線を気にした様子もないアラン殿下とライアン殿下。


「お帰り。ファルセット、リア君」


私は素早く礼をする。


「リア君、君は今日のスタンピードが初陣だったんだってね。君が一番活躍をしたと報告が上がっているよ」


アラン殿下は優雅にお茶を飲みながら褒めてくれた。


「アラン殿下、お褒め頂き有難う御座います。ですが、私は後方支援のみでした。一番の活躍は騎士団の皆様です」


「それでも充分だよ。リア嬢は凄いよ。初陣で敵に怯えずにしっかり支援出来るんだから」


ええ。前世込みでスタンピード3回目ですから。


「ライアン殿下、有難う御座います」


「それで思ったんだ。頑張ったリア嬢のために今度の休みに美味しい物をご馳走しよう。リア嬢はあまりドレスや勲章に興味が無いと聞いた。どうだろう?」


なんだろう。いつのまにか調べられていたのかしら。確かに働き出してから面倒でお茶会にも参加せず、舞踏会にも顔を出さないようにしていたけれど。拒否権は無さそうなのよね。


「私の代わりに活躍した騎士団の皆様に美味しい食事(肉)と酒を振る舞って頂きたく存じます」


「リア君、その願いは聞き入れよう。君のお陰で怪我人も大幅に減り、魔物の素材も沢山確保出来たしな。けれど、リア君には美味しい物を特別に食べさせたい。祝賀会は3日後に開く。


リア君は5日後から5日間の特別休暇を出すから1日目に王宮に来る様に」


「アラン殿下、了解致しました」


 そう告げるとあっさりアラン殿下とライアン殿下は執務室を出て行ってしまった。


「お兄様、何だか疲れてしまいました。早く邸へ帰りましょう?」


「・・・ああ、そうだな。父上も母上も心配していたよ。父上は今から忙しくなるから当分邸に帰って来れないだろうね。父上の執務室へ顔を出してから帰ろう」


 お兄様と一緒にお父様の執務室へ顔を出すとお父様は駆け寄り頬擦りしてきた。とても心配してくれていたみたい。お兄様もお父様の行動にびっくりしてすぐにお父様を引き剥がした。改めてお父様に殿下から食事の誘いを受けた事を報告すると渋ーい顔をしていたわ。


私だって面倒く・・・ゴニョゴニョ。


特別休暇は1人でゴロゴロと過ごしたい。


 ライアン殿下は卒業してから偶にしか会わなくなっていたのですっかり警戒するのを忘れていたわ。お兄様と邸に帰り、お母様に無事を告げるとお母様は泣きながらお帰りって抱きしめてくれた。やっぱり家族っていいね。しみじみと感じてしまう。メイジーも大泣きで迎えてくれた。


 家族で少し遅い食事をした後、ベッドにダイブする。私は退却時も寝て帰ってきたのだから寝られないかと思ったけれど、そうでは無かったらしい。


ベッドで即寝落ち。お休みなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る