第15話

 次の日以降もカルサル師団長の書類整理から始まり、水魔法の訓練。午後は身体欠損患者の治療とモーラ医務官のお手伝い。週末は学院の課題取り組みと忙しい日々に追われて気づけば2年が経っていた。


 私は相変わらず光魔法の方が長けているが、水魔法も難なく全て使いこなす事が出来るまでにはなった。


 去年はライアン殿下とファルセットお兄様が学院を卒業し、本格的にお兄様達は側近として王宮勤めが始まったわ。


ライアン殿下は何かと忙しくしているらしい。聞こえて来た噂ではお兄様達側近や護衛の目を掻い潜り、街に降りているとか。お兄様はいつも帰宅時は眉間に皺が寄っている事が多いので心配はしている。


ライアン殿下からは全く誘いも無く、会う事も無いので安心している今。私も16歳になり、来年で学院を卒業となる。


一応、未成年という理由と学生であるとの事で王宮住まいでは無く、まだ実家から通っている。お父様もお兄様も王宮に住む事を反対しているのが本当の理由かもしれない。


もちろん婚約者も居ないまま。釣書は沢山来ているとお兄様は話していたが。


 それと、2年の間、私が医務室でほぼ毎日欠損患者を治療した事で騎士団への復帰者が大人数になり、第A騎士団が新たに創設された。


第A騎士団はサイモン様が団長となり、復帰した団員達を鍛え直して各団に復帰させるための団。けれど、サイモン団長の熱い指導や団員の忠誠心の高さからか団員達はエリート集団に並ぶ技量を身につけて復帰するため、復帰した人達は重宝されているのだという。



 本日も私は変わらず午前は王宮魔導師補佐として、午後からはモーラ医務官の補佐をしながら団員の治療を続けている。


最近では欠損患者は減り騎士達の怪我や病気の治療も出来るようになってきた。因みに、今更だけれどモーラ医務官は光魔法の使い手なの。彼は魔法で薬効を高めて治療を行う事を得意としている。魔力量が少ないため直接治療するのには向かないのだとか。

そして薬の知識は国一番と言っても過言では無いほど。私は手伝うようになり、少しずつ覚えているがまだ軽い怪我用の軟膏を1人で作れるようになった程度。追いつく事は難しいわ。


そんな事を考えていると突然警報がなる。魔法伝言鳥が医務室へ飛んできた。『レイク村南、スタンピード発生。至急準備を』モーラ医務官は急いで箱に詰めてある薬を確認する。


「リア君、今日は魔力をあまり使っていないね。一緒に現地へ向かう。覚悟はいいか?」


「モーラ医務官、私は大丈夫です」


 私とモーラ医務官は台車に薬を乗せて騎士団訓練所へと向かった。訓練所では既に第5騎士団から第10騎士団、第A騎士団、第2魔導師団が整列していた。


 医務官はどうやら私とモーラ医務官、他の医務官の計5人。誰もが口を閉じ、緊張の幕が張られている。何年かに1度起こるスタンピード。数千~数万程の魔物が湧いてくる現象で未だ解明はされていない。


リアとしてのスタンピードに参加するのは初めてだが、リディスとしては過去2回程治療補助として参加した経験はある。死と隣り合わせになりながらも必死に怪我人を治療した経験を思い出して自分を鼓舞する。


1人でも多く怪我人を治療する。


 きっと現場での私の役割は治療と後方支援だ。この2年で水魔法もカルサル師団長から合格を貰った後、自分だけが使える魔法を編み出したの。でも実際に使ったのは数回。今回は活躍出来るかしら。それと、今回騎士団が使う魔石は私の浄化魔法も込められている。


事前にスタンピード用に大きな魔石が10個程用意され、浄化魔法を込められるだけ込めたわ。普段は魔導師が魔法を込め、騎士が敵の群れに投げ込むのだけれど、下手をすると発動した魔法で騎士が怪我をする可能性がある。神殿にいる浄化魔法の使い手に頼むのが筋なのだが、かなりの高額になるらしく数に限りが出るのだとか。お鉢は当然私に回ってくる訳ですね。今回、神殿からの神官、聖女派遣は3名の派遣があるとの事。


レイク村まで丸一日掛かる。騎士達は黙々と馬車に荷物を詰め込み乗り込んで行く。私達も医務馬車に荷物を詰めて乗り込もうとした時、カルサル師団長が私の前に現れた。

カルサル師団長は第1魔導師師団長なので今回のスタンピードには参加しない。


「カルサル師団長。リア・ノーツ、治療員として行って参ります」


馬車前で礼をすると、カルサル師団長はいつになく鋭い表情で答える。


「リア君、後方支援を頑張ってくるように。きっと君の事だから緊張して現地に着くまでに満杯になる程の魔力回復は難しいでしょう。私が回復の手助けをしてあげます」

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