第10話

 やってきました魔導師試験日当日。


 お父様とお兄様に連れられてやってきた王宮。朝からお母様は『頑張るのよ!!』と私以上に張り切り、お父様はオロオロ。お兄様も俺が付いてるからなって何度も声を掛けてくる。余程心配なのね。


 お父様は王宮に着くと、仕事場へと向かう。お兄様は私を試験となる部屋へ連れて行ってくれて部屋の外で待機するみたい。今日は殿下の側に居なくてよい日なのだとか。


 私がドキドキしながら試験官が来るのを待っていると、部屋に入ってきたのは王宮魔導師第一師団団長のカルサル様。若くして師団長を務め上げる実力者。けれど、髪の毛はボサボサで顔がよく見えないわ。


「私の名はニール・カルサルです。宜しく。君がリア・ノーツですね。侯爵令嬢が魔導師志望とは珍しい。今から試験を行います。まずは筆記試験。その後は実技試験となっています。では始めましょう」


 私は渡された問題をコツコツと解いていく。落ち着いてやれば問題無さそう。学院3年生の卒業レベル+αという感じかしら。一応全ての問題を解く事は出来たと思う。


答案用紙をカルサル師団長に渡すと、次に実技試験の為に訓練所へと連れて行かれた。訓練所では騎士団の団長や副団長を始め、騎士達が訓練をしていてその一角で試験をするみたい。騎士達がチラチラと私を見ている気がするわ。


「リア君、君の得意属性は光と水と聞いています。まずは水属性の魔法を使い、私に向かい攻撃を。実践形式で水魔法をどれくらい使いこなしているのか見てみます」


「分かりました」


ついにきたわ。


水魔法のへっぽこ具合がバレる日が。


 私はまだ初級魔法しか使えない。知識としては上級まではあるのだけれど。初級魔法『アクアショット』を打つのみだ。我ながらへっぽこ具合が酷い。全て師団長の防御壁で遮られる。


「他の種類は撃たないのか?」


「カルサル師団長、すみません。私、水魔法を練習し始めたばかりで使って良いと許可された魔法はアクアショットのみなのです。光魔法は上級まで使えます」


「分かりました。では光魔法を見せて貰うとしましょう。そこの騎士団副団長。気になっているんでしょう?少しこちらへ」


呼ばれるのを待っていたかのように副団長はこちらへ駆けてくる。


「待ってたぞ!絶対俺が呼ばれると思っていた!」


がっちりとした体格の副団長は見た目はどこも怪我をしていなさそうに見える。


「リア君、彼はこの間、魔物討伐で背中を怪我しています。どの程度の治癒が出来るのかを見せて貰いたい」


「分かりました。副団長様、背中の怪我を見せて貰って構いませんか?」


「おう!俺の裸が見たいとは嬉しいな!」


 副団長は勢いよく制服を脱ぎ、鍛え抜かれた身体を私に見せ、後ろを向く。すると背中には大きく爪で引き裂かれた傷が塞がったばかりと見えるような痕が痛々しく残っている。


が、流石副団長。筋肉の付きが良く均整のとれた体だわ。考えてみれば前世で治療した人以降、見る事のなかった男の人の裸。私は顔を真っ赤にしながらもそっと副団長の傷口に手を当てて魔力を流してみる。


やはり1番の大きな傷は背中だけれど、至る所に小さな傷や怪我の痕があるわ。前世では平民と変わらない魔力しか無くて出来ない事も多かったけれど、今世は魔力が豊富で全ての光魔法を使いこなす事が出来る。


 私はそのまま『ヒール』を唱える。すると副団長の全身は淡く光り、背中だけでなく全身の傷を癒す。


「痛くないぞ!おい、ニール!古傷も治ってるぞ!この令嬢、騎士団にくれ!頼むー」


喜ぶ副団長をよそにカルサル師団長は面倒くさそうな顔をしながら


「今は試験中です。傷を癒す事は確認できました。副団長お手伝い有難う御座いました。さぁ、持ち場へ戻って下さい」


副団長を追い出しにかかっている。カルサル師団長と仲が良いのね。副団長はぶつくさ文句を言いながら持ち場へと帰って行った。


「さて、リア君。光魔法は治癒以外にも魔法がありますね。上級魔法の一つ結界は作れますか?」


「はい」


「では、自分で結界を維持できる限界の広さの結界を張って下さい」


「分かりました」


 私は魔力を調整しながら『結界』を唱えた。前世なら人1人が入れる程のスペースしか作れなかったが、今は訓練所を囲う程の結界を作る事が出来た。我ながら凄い。自画自賛。これにはカルサル師団長も納得してくれている様子。


「リア君、この結界はどれくらい保ちますか?」


「この広さだと3時間程度でしょうか。範囲を狭めればもっと保つと思います」


「試験は以上です。結界を解いて下さい。後日、試験の結果は侯爵家へ連絡を入れます。後はゆっくり結果が出るまで待っていて下さい」


 カルサル師団長はそう言い残すとその場を去って行った。残された私はどう帰れば良いか分からずオロオロとしているとお兄様とメイジーが後ろで待ってくれていたので無事に帰る事が出来た。


「お兄様、私受かるでしょうか?」


「どうだろうね。リアは水魔法は今はまだ初級しか使えないから上級まで使えるように訓練しないとね。光魔法は完璧だったよ。学院1年生にしたら充分凄い事だよ」


私は試験の出来に改めて水魔法を練習しようと心に決めたわ。

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