第7話 マリーナside

 あーもうっ。イライラするわ。ライアン殿下の妃候補に選ばれて2年。まだライアン殿下は私を選んでくれない。美人で頭も良くて公爵という爵位。


私こそライアン殿下に相応しいのに。


 公爵のお父様は何故か最低限の用事の時しか王都には居ない。私の妃教育の為、以前暮らしていた王都の屋敷で私や執事達は生活をしている。お父様はというと月の3分の1を王都の屋敷で寝泊まりし、残りは領地に帰ってしまう。


私が小さな頃から私に無関心な父親だけれど、時折、陰を帯びたような暗い顔をする時がある。お母様に至っては病気療養として滅多な事では領地から出ずに過ごしている。お母様は私には甘いが、お父様と喧嘩が絶えない。『こんな筈じゃ無かった。全部アイツのせいだ』と喧嘩する度にぶつぶつと1人呟いている。


アイツとは誰なの?知りたいけれど、お母様に聞く事も出来ず、お父様の執事や従者達に聞いてみても知らないの一点張り。何か緘口令が敷かれているようで気味が悪いとさえ思ってしまうわ。


 お母様のお父様、つまり私のお爺様は男爵と身分が低い。疎遠に近くて私が王子妃候補に上がった時に、仕方なく連絡したら『おめでとう。良かったな。ワシらは身分も低い。から、これからも連絡しなくていい』とお爺様から手紙が返ってきたの。


王子妃の恩恵を受けたく無いのね。


お父様の方のお爺様や親戚は私達家族に必要最低限しか関わっていない。従兄弟がいるみたいだけど、1度も会った事もないわ。不思議なものよね。きっと私達を羨ましく思っているからお父様が近づけないようにしているのね。


 そうそう、王宮での妃教育は候補者になってから始まったのだけれど、教師達はいつも褒めてくれる。王妃様のお茶会やライアン殿下とのお茶の時間。令嬢達の目がギラギラしているわ。


私も妃候補筆頭として負けていられないのよね。


 そして私は筆頭としていつも王都の邸で妃候補者達とのお茶会を開いているの。毎回 賑やかな 雰囲気でとても楽しいわ。一度、殿下がお茶会に参加された時はとても素敵な笑顔でお茶を飲んでいて『これほど素晴らしい花達に囲まれて幸せだよ』って言っていたわ。


 ライアン殿下はやはり皆に優しくて素敵よね。絶対私の夫となるべきだわ!


 私も学院へ入学する年になってライアン殿下と共に過ごす時間が増えて幸せ。先に入学している他の候補者達にも牽制出来る様になるわ。入学初日に判明したあの子。リア・ノーツ侯爵令嬢。光属性持ち。今まで光属性を持っていなかったみたい。


王宮が主催する年頃の令息、令嬢を集めてお茶会が開かれた時に侯爵令息の魔力暴走に巻き込まれ意識を失い、目覚めたら光属性が出てきたらしいわ。


同じクラスなのに公爵令嬢の私に挨拶もないなんて失礼な子ね。でも、希少な光属性。王家は取り込みに入るはずだわ。リア嬢にも気をつけておかないとね。


しばらく観察していたけれど、ライアン殿下に興味は無いようね。一安心だわ。


そう思っていたのも束の間、ライアン殿下が食事に誘っていたわ。私だって2人きりで一緒に食べた事が無いのに。悔しいわ。


光魔法が使えるだけなのに。


 これ以上ライアン殿下に近づく女は要らない。少し注意しておかないとね。


「今日のお昼、ライアン殿下と食事をしたそうね?それがどういう事かお分かりなのかしら?私、ライアン殿下の王子妃筆頭候補なの。私の許可無くして殿下とご一緒するのは止めて欲しいの」


私は優しい声でリア嬢に話をしたわ。


「王子妃筆頭候補者のラストール公爵令嬢様の許可をと言われますが、私は殿下から直接受けたお願いを拒否できる身分ではございませんわ」


私の言う事は聞きたくないみたい。これは考えものね。少し強めに注意しなくてはいけないみたいね。


 そう思っているとライアン殿下が私の教室へ出向いてくれた。私との仲を深めるために来てくださったのね。けれど何故かしら?お茶を誘っても上手く躱されたわ。そしてリディス嬢の事をお父様に聞けと言われたわ。


どう言う事かしら?


 邸に帰ると仕事をしているお父様に聞くために執務室をノックする。


「お父様、マリーナです。今、よろしいですか?」


「入っておいで」


私はそっと扉を開けて執務室へと入ると執務室ではお父様と執事が忙しく仕事をこなしていた。


「お父様、お忙しい時にすみませんわ。先程、ライアン殿下からリディス嬢の事をお父様から聞くようにと言われましたの」


お父様も執事もピクリと反応し、手を止めて私を見ている。


「マリーナ、どういう事かな?何故、リディス嬢の話が出たのか詳しく聞かせておくれ」


 お父様の声が一段と低くなったわ。私はリア・ノーツ侯爵令嬢の話をお父様にしたわ。勿論、殿下と食事をした事や私がリア嬢の為に釘を刺した事も。お父様はとたんに苦虫を噛み潰したような顔になった。執事は手を止めたまま微動だにしない。


「マリーナ、ライアン殿下にそう言われてしまったんだよね?」


「ええ。お父様」


「残念だけど、王子妃候補を辞退しなさい」


「何故ですか!?お父様。爵位も問題無いですわ。私こそライアン殿下に相応しいのです!」


私はお父様に必死に訴える。けれど、お父様は何処か悲しげな顔をして何も答えてくれない事が更に私を苛立たせた。


「どうしてですか?私こそ、私こそ王族に相応しいのです!リア嬢など、光魔法が使えるだけで何の価値もないですわ!」


「・・・14年前だ」


「えっ?」


 お父様が話し始める。私は何故か聞かなくてはいけないような気がして口を閉じた。


「光魔法を使うリディス・サルタン伯爵令嬢が死んだのは。リディスと私は15歳の頃に婚約して20歳の時に結婚式を挙げたんだ。私は婚約者がいるのにも関わらず、アイラと関係を持った。


結婚式1月前にアイラに子どもが出来た事を知り、リディス嬢に打ち明けた。両家とも式を直前でキャンセルする事は出来なかった。いや、しなかったと言ってもいい。彼女は苦しそうに涙を流しながらも私に何も言わなかった。


私は何も言わない事をいい事にリディスをお飾りの夫人に、アイラを愛人にしようと考えた。式の当日まで1日もリディス嬢に会わず、式が始まってからも一度も彼女を見る事は無かった。今思えば、何の落ち度もないリディス嬢に酷い事をしたと後悔しか無い。


彼女は、誓いの言葉が終わると、持っていたナイフで自分の胸を刺し自殺した。会場中が騒然としている中でアイラは倒れたリディス嬢を見て嗤って言ったんだ。


『光魔法が使えるだけ、所詮準男爵令嬢。価値はないわ。フィアンは私のもの。無駄。犬死にね』と。


少ないながらも毎年生まれていた光属性の子どもはリディス嬢の死と共に生まれなくなった。光属性の子どもが産まれなくなったのは私とアイラのせいだ」


「そんなの信じませんわ。死んだのはリディス嬢自身のせいじゃない!」


お父様はいつになく厳しい表情で私を見ているわ。


「何でも人のせいにするのは簡単だ。私達はリディス嬢を死に追いやった。マリーナも同じ事をするつもりか?リア・ノーツ侯爵令嬢が光属性に目覚めた事を感謝すべきなのだ。


王子妃は皆から好かれる存在でなければならない。爵位で人の価値を決めるのは言語道断だ。私から王子妃候補辞退の届けを出しておく。いいか、これ以上問題を起こすな。分かったか」


「お父様!私をお母様と一緒にしないで!」


 執事は無理矢理私を執務室から追い出し、父から護衛に謹慎が解かれるまで部屋から出さないように言いつけられていたようだ。部屋を出ようとしても護衛がダメだと押し返される。


「なによ!もう。誰も私を分かってくれないじゃない!ライアン殿下は私と相思相愛なのよ!」

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