第13話

「えっと…35歩歩いたから…約35m直進して右曲がり…」


色々あった昨日の夜は剣と弓の訓練と簡単なマッピングの仕方をガルドさんから習ったので今日は早速洞窟の中をマッピングして進んで洞窟内に生えているキノコと銀色のコケを採りに来た。


「しかし…一人は怖いな…ん!?」

「いつつつつ…」


歩数で距離を測りながら進んでいると物音が聞こえ恐る恐る近づくと女の子が左足を抑えて座り込んでいた。


「大丈夫ですか?」

「きゃっ!え?人!?」

「はい、タチバナといいます」

「脅かさないでよ!」

「すみません…あのそれで何を?」

「見てわかんないの?そこのくぼみに足を取られてくじいちゃったの!」

「そうですか、大丈夫ですか?」

「大丈夫だったら座り込んでなんかないわよ!」

「そうですよね」

「もう!痛いんだからイライラさせないで!」


足をさすりながら睨みつけられた、なんかせっかく心配したのになぁ…こういう人には近寄らないほうがいいな。


「イライラさせてすみませんでした、では」

「え!?ちょ!ちょっと!!このまま置き去りにする気!?」

「近くに居たらイライラするんでしょ?じゃあ気を付けて」

「ちょっと!ごめんって!まって!ごめんなさい!すみません!助けてください!!」

「はぁ~…」

「こ、転んだところを見られて恥ずかしくてついキツくあたっちゃったの…本当にすみませんでした…だから私を街までつれていってくれませんか…」

「わかりました」

「あ、ありが…きゃ!」

「動かないでもらえます?」

「けど…この格好って…」

「しかたないでしょ、お互いの荷物があって背負わなきゃ持てないんですから」

「そ、そうだよね…ごめん」

「とりあえず灯りをもってもらえます?」

「う、うん」


自分の籠とこの子の籠を1つずつ肩にかけ抱き上げて出口にむかった。


「あの…私重くない?」

「は?そんなこと気にしている場合じゃないでしょ、腫れてきてるし」

「そ、そうだけど…ずっと抱えてもらって腕がきつくないのかなって」

「大丈夫ですよ、歩きづらいんで動かないでくれたら重さなんかほとんど感じてないですよ」

「え?そ、そう…ごめん」

「はぁ~、謝罪はさっき受け取ったので無事に医者の所まで行ったらありがとうと感謝だけしてください」

「え?う、うん、ごめ…あ、ありがとう」


その後、洞窟を出て森に入り目印の木をたよりに街までもどった。


「この時間って病院はやってるのかなぁ」

「あ、悪いんだけどギルドに行ってもらってもいい?」

「ギルド?」

「うん、ほらあそこの赤い屋根の高い建物」

「ああ、ガルドさんとナタリーさんがいるところね」

「え?その二人と知り合いなの?」

「ええ、まぁ」


驚いた顔をした女の子を抱きかかえたままギルドと呼ばれる建物にはいった。


「えっと、あ、いた。ナタリーさん!」

「え?タチバナさん?ってアニー?なんでタチバナさんに?」

「洞窟でけがをしたところに出くわしてここに連れてきてほしいと言われたんですよ」

「あら、ほんとね、凄い腫れてるわ、タチバナさん申し訳ないけどそのまま医務室につれていってくださいますか?」

「はい、かまいません」

「そこの廊下の突きあたりです」

「わかりました」


ナタリーさんの指示にしたがって医務室にはいった。


「失礼します」

「どうぞぉ、どうなさいましたか?」

「あれ?カリン先生?」

「え?タチバナさん!その方は?」

「ああ、えっと足をくじいたみたいで腫れがひどいんですよ」

「とりあえずベッドに!」

「はい、大丈夫?」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、俺は運んだだけなんでこれで、カリン先生お願います」

「は、はい!」


医務室にいたカリン先生にひさしぶりにあえて少しうれしかったけどクエストをこなさなきゃならないので急いで戻ることにした。


「あ、そうだった、ナタリーさん」

「はい?あ、医務室に?」

「はい、カリン先生にお願いできました」

「そうですか、ありがとうございます」

「いえ、それで彼女の荷物なんですが」

「ああ、こちらでお預かりいたします」

「お願いします」

「はい、たしかに」

「じゃあ、俺はこれで」

「まだご予定が?」

「依頼の途中だったのでもどります」

「もう暗いですよ?」

「でも明日の朝1までなんで」

「今回は人命救助ですのでこちらからご依頼主にご連絡いたします」

「いえ、今回は薬の材料だっていいますし急いでいるかもしれませんので大丈夫です」

「そ、そうですか…では、くれぐれもお気をつけて」

「ありがとうございます」


心配げな顔まで美人だ…おっと!いそがなきゃ!よこしまな考えに頭を振り、街をでて急いで洞窟を目指した。


「ここからマッピングし直しだな」


ビクビクしながらも全力で森を抜け洞窟に入り、助けた場所の手前から歩数を数えなおしどんどん奥に進んだ。


「あ、あった!おぉ!まとまって生えるんだなぁ」


行き止まりまでいくと壁一面に銀色のコケが生えていて灯りに照らされキラキラ反射がきれいだった、足元の岩場には指定されたキノコも沢山はえていたのでアリスさんに教わった通りの採取と保存方法をしながら指定数より少し多く採った。


「遅くなったお詫び分にはなるかな…ん?」


額の汗を拭き水を飲もうとしたとき壁際の隅で何かが動くのがみえた。


「え?猫?怪我してるのか…もしかして薬になるって知っててここにいるのかな?」


灯りで照らし出すと黒い小さな猫が左前足を引きづって必死に岩の陰に隠れようとしていた。


「えっと…ああ、そうだ!水と餌だ…ほ、ほらおいで…」


カリン先生は猫もみてくれるかなぁ…そのまえに水分と餌をとらせなきゃ、結構痩せちゃってるしな


「大丈夫だから、ほら…これだけ離れたら怖くないよ?」

「ニャ、ニャァ…」

「あぁ!!」


警戒しながらもよろよろっと出てきた猫だったけど餌と水までたどり着けず倒れてしまった、急いで街までいって獣医さんを探さなきゃ!


「うぉぉぉぉぉ!!!死なせはせん!死なせはせんぞぉぉぉぉぉ!!!」


真っ暗な森はものすごく怖いので大声で叫びながら猫を抱えて全速力ではしった。


「や、やった!街だ!もう少しだから頑張れ!」


弱い呼吸で細かく震えだした猫を懐で温めながら必死に街の中にはいった。


「タチバナ様、随分時間がかかったようですね」

「アリスさん!いいところに!」

「そんなに汗だくで血相を変えて怖くてキモいですがどうなさいましたか?」

「ふぐっ!い、今はそんなことしている場合じゃない!獣医さんはいませんか?」

「はい?」

「洞窟の中でこの子を見つけたんです!ケガと衰弱がひどいんです!」

「!!…お助けするのですか?」

「あたりまえです!」

「わかりました、カリンの元へ運びましょう」

「はい!」


猫をみて一瞬おどろいたアリスさんだったけどすぐにカリン先生の元に一緒に向かってくれた。


「ナタリー、カリンはいますか?」

「ええ、さっき治療を終えてまだ医務室にいるはずよ」

「わかりました」

「ちょっと!どうしたのよ」

「ナタリーさんすみません!あとで説明します!」

「わ、わかりました」


ギルドに飛び込み急ぎ足で医務室に向かった。


「カリンいま大丈夫ですか?」

「え?アリス?どうしたんですか?まさかタチバナさんになにか!」

「タチバナ様は大丈夫ですが見てもらいたいものあがるんです」

「え?とりあえずどうぞ!」

「はぁはぁはぁ、カリン先生!この子を助けてください!」

「え!?こ、これって!」

「治療できますか?」

「…………」

「無理なんですか!?お願いします!先生!」

「くっ!わ、わかりました!こちらに!」

「カリン、恩に着ます」


なぜか覚悟を決めた二人が頷きあい、その後はものすごい速さで治療がすすめられた。


「ふぅ~…一命は取り留めました…意識が戻ればもう大丈夫だと思います」

「お……おぉ!ありがとうございます!カリン先生!!」

「きゃっ!」

「あ、ああ!すみません!!つい!」

「い、いえ」

「タチバナ様、急に女性に触れては訴えられてしまいます」

「う、すみません……」

「クエストの品も確認できました、あとはこちらで処理いたしますのでお戻りくださって構いません」

「はい、あっ」

「その子も連れて行ってください」

へお連れしても大丈夫です」

「わかりました!ありがとうございました!」


猫を抱きかかえ念のため懐に入れてナタリーさんに事情を説明しようとしたけどいなかったので明日でいいかと思い俺は異世界をあとにした。


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「なっ!何かあったらどうするつもりなの!」

「タチバナ様がお助けしたいとおっしゃったので」

「それを止めるのがあなたの仕事じゃない!カリンも!なんで治療なんてしたのよ!」

「あんなに必死にお願いされたら断り切れなくて……」

「だからって!クトゥールは危険すぎるわ!」

「わかっています、タチバナ様に被害が及ぶ場合は私が命に代えて始末します」

「わ、わたしもやります!」

「マスター!さっきから黙っていないでマスターからも何か言ってください!!」

「…………ふむ…子供とはいえあのクトゥールが死にかけているからと言ってあそこまで人に触られていること自体が驚きだ……アリス、カリン何かあれば俺も責をおう…注意深くみていてくれ」

「マスター!!」

「俺の勘があいつはなにかが違うと言ってるんだ…俺だって冒険者のはしくれだ自分の直感を俺は信じたい」

「…………わ、わかりました…しばらく様子を見ます…ただし!なにかあったら上に報告させていただきます!」

「ああ、それでかまわん、すまんな」

「ナタリー感謝します」

「ナタリーありがとうございます」


タチバナ様がおつれした黒猫は死を司ると言われるほどの力をもつクトゥールという魔物だったけど、マスターも感じているようで私の勘もタチバナ様なら上手くやれるんじゃないかと思えたので自分の判断に後悔はありません。それになにかあったら必ず命に代えてでもタチバナ様だけはお守りするつもりです。


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「ぐぅ……んがっ!く、くすぐったい!!」

「にゃぁ…………」

「お?お…おぉぉ!目が覚めたんだ!やったぁ!!」

「にゃっ!?」

「ああ、ごめんごめん!うれしくてつい!そうだ!お腹すいてるだろ?とりあえず食パンがあるから一緒にたべよう!」

「にゃぁ」

「ゆっくりだよ?えっとたしか牛乳はダメなんだよね…水でもいいかな?」

「にゃぁ」

「……………………」

「ん?アリスさん!おはようございます!この子目が覚めましたよ!」

「お、おはようございます…それはよろしかったですね…それにしても随分なつかれておりますね」

「ええ!この子もしかして賢いんじゃないかとおもって!俺のことあんな一瞬しかみてないのに覚えてくれてたんですよ!」

「にゃぁぁ」

「…………さ、さようにございますね」

「はい!あ、ほらこの人はアリスさん、一緒にケガをなおしてくれた人だよ」

「!!」

「にゃぁ~」

「…………ふぅ~…けがをしているのになんというものを食べさせているんですか…」


タチバナ様の安否が気になり朝向かうと胡坐をかいたタチバナ様の足に乗り嬉しそうに食パンを一緒に食べていました…死を司る…おそろしい魔物の威厳などみじんもありません、さらにひょいと抱きかかえられ私にだかれると嬉しそうに喉を鳴らし丸まってしまっては可愛がるしかありません…しかたないのでタチバナ様とこの子の朝食を作ることにしました。


「ふぁ、やっぱアリスさんの作るご飯は最高だ」

「にゃぁ~」


朝食を食べ終わった1人と一匹は至福の表情を浮かべ床に大の字で横になった…とりあえず私はクトゥールを抱きかかえながらタチバナ様に身支度をすすめた。


「そろそろクエストのご準備を」

「あ!そうだった!!」

「クエストとお仕事の間、この子は私がお世話いたしますのでご安心を」

「ありがとうございます!いいなぁお前!アリスさんにお世話してもらえるなんて!!」

「にゃぁ~♪」


クトゥールを抱いたまま異世界へ行きタチバナ様が慌ただしく準備をし出ていくのを私は嬉しそうに喉を鳴らすクトゥールを撫でながら見送った。

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