大好きな場所

 私には、大好きな場所があります。それはきっと生涯、一度だって忘れることのない場所です。


 その場所というのが祖父母の家。


 両親が共働きで、学校が早帰りの日や、親の帰りが遅い時、もちろん長期休みにも、お世話になっていました。


 2階には従姉妹たちが住んでいて、夕飯から寝るときまで一緒。


 そして、そこにはいつも、優しい祖父母がいました。

 祖母の料理はいつでもおいしくて(量は多かったけれど)、特に唐揚げなんかはそこらの唐揚げチェーン店よりも何百倍も美味しかった。まだ小さかった従姉妹たちも食べられるように、星の王子さまの優しい味のカレーも忘れられません。


 さらに、祖母は手芸も上手でした。私は祖母に憧れて編み物、裁縫を始めました。それが中学校時代の家庭科部に繋がっています。


 祖父は、日曜日以外はほとんど家におらず、会えても夜遅くでした。それでも、私たちと過ごせる時間はいつも遊んでくれました。学校ではどんなふうに過ごしているか、とか、今どんなものが好きか、とか、当たり障りのないことを聞いてきたりもしました。幼い頃は、何故かそれが嬉しく、意気揚々と話していたように思います。大きくなってからは、私はどう接していいか分からず、少し冷たく接していたような、そんな気がします。もっとたくさん話していればよかった。


 そんな祖父母との思い出が詰まった家。あそこはなんだか不思議な匂いがいつもしていて、落ち着く空間でした。歩いていると少し軋む床も、晴れた日は日が差して暖かい畳の部屋も、冬になると必ず開かなくなるリビングのスライドドアも、何もかもが私にとっては当たり前で、手放したくないところです。


 でも今はもう、祖父母はいません。祖母は4年前に、祖父も今年の夏に亡くなりました。あの家には従兄弟たちと、叔母さんのお母さん(私はほとんど面識がありません)が住んでいます。もうあの家に自由に出入りすることは許されていないのです。


 そのことをふと思い出して、思わず泣いてしまいました。どんなに2人の死を受け入れたとしても、もう2度と戻ってはこない幸せな日々を思うと胸がギュッと締め付けられます。

 

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