第107話 ユーラの成長と世界樹

 ただ茫然とユーラの手の平に集まった光がユーラの体へと吸い込まれて行くのをただ見守っていた。


 へ?ど、どういうことなんだ?だって、今まで毎日ユーラは付き添っていたけど、こんなことは一度も無かったよなっ!?何が起こっているんだ……。


 ユーラは成長し、スムーズに歩けるようになり言葉も少しずつだけ話せるようになってはいたが、毎日の食事は変わらず、世界樹の麓に咲いている翠の花に世界樹の雫をしたたらせた物だ。

 泉の水や精霊の力が籠った果物を絞った果汁は飲めるが、それ以外を口にすることはない。


 なのでキキリがオズに付き添って家で留守番をしていた時もユーラは変わらずに毎日一緒に来ていたし、世界樹に棲むカーバンクルとも毎日顔を会わせていた。

 今までに世界樹の結界が復活したり、光が降り注いだりということもあったが、ユーラが俺が注いだ魔力で世界樹が発した光を吸収したことはこれが初めてのことだ。


 もしかしてユーラが成長したからか?これからも毎日、世界樹の光を吸収するようになるのか?ユーラ、自分から光を集めていたよな……。それとも俺が稲が見つかったかもしれない!と浮かれていたから、それで世界樹への魔力に何か影響があって、それをユーラ的に集めたかったから、だとかなのか?


 アインス達や子供達の成長は喜ばしいし、ユーラの誕生、成長はこの世界を守護する神獣、幻獣、それに精霊達が恐らく想像もつかない程の時間を待ち望んでいたことだ。

 それは分かってはいても、この間急に成長したばかりだし、やはり俺としてはユーラも子供達も急いで成長なんてして欲しくない。世界樹の守り人でも、わざわざ赤子として俺の元に生まれたのなら、成長するまでは子供としての時間を大切にして欲しいと思ってしまう。


「ユ、ユーラ。どうかしたのか?大丈夫なのか?」

『ピュッーー』

「え?カーバンクル……。いつの間に」


 ドキドキしながら見守り、光が全て吸収されたのを確認してから声を掛けると、気づいたらユーラの隣にはカーバンクルの姿があり、ユーラから光を受け取るようにほのかに光を身にまとっていた。


「……う、うん。だいじょーぶ」

「ユーラ!また成長したんだな!しっかり話せるようになって嬉しいけど……体に無理はかかっていないよな?」


 ついさっきまでは切れ切れにしか話せなかったユーラの言葉が、舌足らずな響きだがすらすらと話せていて喜ぶよりもつい心配になってしまった。


『イツキ、ユーラの体、力なじんだ、だけ。大丈夫』

「キキリ!そ、そうなのか?大丈夫なら良かったけど……。これは今回が特別だったのか?それとも毎回になるのか?」


 神獣、幻獣の子供達やユーラの成長速度については口に出さないつもりでいたのに、これから毎回日課の度にユーラが成長したら……そう思うと、つい口に出さずにはいられなかった。

 でも俺が発した言葉に、少しだけ表情が今もほとんど出ないユーラの瞳が陰った気がして、すぐに今の言葉を口にしたことを後悔した。


 そ、そうだよな。俺は子供達の成長を見守るだけだって、どんな成長も受け止めようって決めてたんだから。ユーラが望む成長を、俺が止める権利なんてないし、どれだけユーラが急成長したって、ユーラはユーラだ。


「……ユーラ。ユーラの成長が悪い訳ではないんだ。すぐに喜んであげられなくてごめんな」


 無言でたたずむユーラをしゃがんでぎゅっと抱きしめ、そっとその瞳を覗き込む。

 その瞳に映る自分が、優しく微笑んでいることを願いながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「俺はユーラが俺の元で成長していく姿を見守っていられて嬉しいよ。ユーラが世界樹の守り人としての使命があることは分かってはいるけど、そんなことよりも俺はユーラが笑っていてくれることの方が嬉しいんだ。だから、決して無理はしない、って約束してないか?」


 サーシャの卒業は笑って見送ることが出来たけど、思ったよりも寂しかったんだな……。アインス達も気づいたら雛だったのが既に見上げる程だし。ただの人間である筈の自分だけが変わらずにいるのが取り残されるように感じて、心の奥底ではどこか強迫観念か何かに囚われていたのかもしれないな。


 そんな不安を成長したユーラにぶつけてしまった罪悪感で、更にぎゅっと抱きしめた。


「う……。うん、無理、しない。少しずつ、成長、する」

「うん、うん、ありがとうな、ユーラ。体に影響がないのなら、食事にしようか。カーバンクルもごめんな」


 心配そうに俺達を見上げていたカーバンクルに目を向けると、体の大きさに変化はないが、額の宝石が少し大きくなり輝きを増しているように思えた。

 そのことには触れずにいつものように世界樹の幹まで歩き、ユーラの食事をしてからカーバンクルと別れ、ユーラと手を繋いで泉へと戻ったのだった。




 翌日。昨夜は今日のククルカンの結界への付き添い当番のアインスにしっかりと沼地へ寄ることを告げ、今日こそ魔法を掛けて一株だけでも採取する!と意気込んだ。

 一応家に戻ってからドライアードへも沼地で見た植物のことを尋ねてみたのだが、現物がないと詳しくは分からないと言われてしまったのだ。


 スプライトに教えて貰ったから間違いはないと思うけど、いずれはここでも育てたいからな。確か日本でも水は最低限にして畑でも育てていた筈だから、ここでだって育つ可能性はあると信じたいからな!


 昨日は手を繋いで子供達の元へ戻り、いつものように何事もなく過ごしたが、ユーラの言葉の成長にはドライもすぐに気づいたようだが何も言わなかった。泉のウィンディーネ達も少しテンションが高いようには見えたがユーラの元へ集まっては来なかった。

 これからもまだまだ成長するのだ。いちいち騒ぐことではなかったと、その反応を見て反省をした。


 俺が子供達の成長に過敏になり過ぎているのかもしれないな。俺はここでのんびりと暮らしながら子供達の成長を見守るんだ。よし!


 と気合を入れて今日も晴れた空を見上げ、朝食の準備を始めたのだった。






*****

遅くなりましたーーー!

文章が纏まらず、書籍化作業もあって遅れました。

書き直しも考えましたが、まだ作業があるので短めですが投稿しておきます。


タイトルを次回から書籍版タイトル『ちび神獣たちのお世話係始めました ~世界樹の森でもふもふスローライフ!~』へ変更予定です。


予約が始まる通販サイトも増えて来ました。どうぞよろしくお願いいたします。


またフォロー、☆、♡をありがとうございます。励みになっております。

次回も作業があるのでまた一週間程空いてしまうと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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