4章 ユーラの成長と世界との繋がり
第76話 冬の始まり
畑の収穫を無事に終え、小麦の脱穀を終わらせると野菜を保存食へと加工しつつマジックバッグへと入れて行く。着々と冬の間の食糧を蓄えて行った。
その間にどんどんと体感気温は下がり続け、森も木々も彩を変えていた。森を歩くと落ち葉がカサカサと音を立てて賑やかで、それが楽しいのかユーラも楽しそうに秋の森を歩いている。
秋の果物を収穫しに森へ子供達と行った時は、あわやシュウが迷子に!?という騒動が起きたが、たまたま森へ採集しに来ていたクー・シーの集落の人たちが見つけ、声を掛けに来てくれて無事に保護することが出来た。
まさしくあわや遭難事故になるところだった。
それでも秋の収穫時期の果物を諦めるという選択肢はなく、歩きたいというユーラを午前中の聖地で思う存分に自由にさせて疲れさせ、午後はおんぶすることでクオンとキキリ、それにケット・シーの年長さん達にシュウをつきっきりで見て貰った。そのお陰でユーラの成長を祝うかのようにあちこちで芽吹いた精霊由来の果物や、豊作だった森の果物をたくさん採取することが出来てホッと一息だ。
朝晩がかなり冷え込んで来たし、そろそろ霜が降りそうだし初雪がちらついてもおかしくないな。雪が降ったら今年もハーツが元気に走って来るだろうし、そう思うと雪も待ち遠しくなるな。シュウもな……。せめてハーツのように元気が良くて走り回るくらいまでならなんとかなるんだけどな……。
白虎の子のシュウが来るようになって季節が一つ経ったが、相変わらず気が向くままあちこちふらふらといなくなってしまう。だんだん対応にも慣れてきたな、と思ったら、それをみこしたかのように気配を消していつの間にか姿を消してしまうようになってしまった。
『……白虎は風が特性ですからね。元々シルフとの相性が抜群の神獣なのに、シュウは群を抜いてシルフと相性が良すぎるみたいですね。しかもいたずらが大好きなシルフと。シルフと力が馴染んで気配を風と同化することが出来るようになったみたいです』
そう遠い目をしたドライに告げられた時には、思わずへなへなと崩れ落ちてしまったよ。
シルフと力が馴染んで、ってでも、シュウは来た時からほぼ大きく成長してないぞ!もしかして俺の力が神獣の成長に影響が本当にあるとしたら、その力での成長は全て自由奔放に動く為だけに使われているってことか!!
この世界に転生?してアーシュに捕まった時以来の衝撃かもしれない程の衝撃だった。
いや、シュウはこれぞネコ科!って感じで虎でも喉を撫でればゴロゴロ鳴らすし、のびーっとしてどれだけ伸びるの!みたいな仕草とか、お猫様的なところとかめっちゃ可愛いし、キライとかそういう訳じゃないんだけどっ!!
……俺はまだ、お猫様の下僕になるにはまだまだ道のりは遠いみたいだな。なんか、今のシュウとハーツが合わさったら、とか想像しちゃったけど……。いや、ハーツは多分成長しているはずだよな!元気が良かっただけで、きちんと説明すれば目に見える範囲で走ってくれていたし。
うん、これはもしかしたらシュウの教育に関しては、ネコ科とイヌ科だけどハーツが適任なんじゃないか、とかいう気がひしひしとして来たぞ。ハーツが来るまで、雪が降るまではなんとか俺たちで頑張ろう!
そう気合を入れると、すぐに気配を消すシュウのシルフの協力による捜索網(シルフの気分によっては全面的にシュウの味方となる)を築きつつ、初雪が降る前にどうしても最後に釣りに行きたい!という自分の欲求に従い、アインス達三人の全面協力の元、日課を終わらせた午後に小川へとやって来た。
「やった、久しぶりの釣りだーーーーーっ!秋っていったら鮭の川登りだよな!まあ、この世界に鮭がいるかどうかは知らないけど、今の時期の魚は卵を持ってたりして美味しいはず!今日で冬の間に魚が食べられるかかかっているからな。なんとしても今日は釣るぞーーーーっ!」
おーーーーーっ!と突き上げた手に、クオンがのりで応えてくれたのにほっこりしつつシュウを皆に託して一人川上へとやって来た。
魚がたくさん釣れたらいい酒のつまみにもなる、とドワーフ達をそそのかして、この日の為にこっそりと大きいバケツや簡単なリールも開発して作って貰ってあった。
シュウが来てからは川なんて危なくて一度も来れなかったからな!なんとしてでも、なんとしてでも魚を釣るんだ!というか俺は魚が食べたいぞーーーーっ!!
川辺の石をひっくり返し、釣り餌の虫を捕まえて針にさし、俺的に鋭い視線で対岸の張り出した木の枝の下を目掛けて釣り竿をふる。
ポチャン、と針が沈む音と川下からの「シュウが流されているぞーーーっ!」というアインスの叫び声が重なったが今は無視だ。
ああ、でもこれだけ騒いでいたら魚が逃げてしまうか……、と戦々恐々としていたが、浮きに取り付けていた羽が沈み込んだのを見て心の中でガッツポーズを決めた。
まだだ、まだだぞイツキ!もう少し我慢だ。これで逃がしたら……お、よし、今だ!
何度か浮き沈みしていた羽がポチャンと完全に水に沈み込んだことを確認し、手ごたえを感じながら竿を引いてリールを巻き始める。
よし、これは大きいぞっ!産卵の為に登って来た魚に違いないっ!
初めて釣りをして以来、何度かこの川へ釣りに来ていたが、今まで釣れたのは一番の大物でも三十センチ程だったが、この手ごたえはそれ以上に違いない、と確信してなんとか踏ん張って体重をかけて引く。
よし、今だっ!
何度も引いて弱めて、と駆け引きを繰り返し、魚が弱って来たことを確信し、渾身の力を込めて竿を引いた。するとーーーーー。
「え。えええええーーーーーーーーーっ!!」
ポーンと勢い良く水面から飛び出て来た魚が予想した鮭とは全く違うぬめっとしたなまずのような質感にまず驚き、そして川岸へと打ち上げられてビチビチしている魚に手を伸ばそうとした瞬間に気配もなく白い影が横切り、そして急激に思わぬところで引っ張られて手から竿がすっぽ抜けて空へと舞い、そして竿はーーーーー。
『ギィニャッ!!』
白い影の犯人、シュウの頭に見事に当たり、ベシっとシュウを地面へと叩き落した。
地面に四肢を投げ出して寝そべるシュウ、シュウに咥えられたまだ釣り針が刺さったままの魚がビチビチと跳ね。
うん、これは、なんというか。
『ああ……大惨事、というか自業自得なのでこれで少しは懲りてほしいというか、まあ、ネコ科だとやはり魚が好きだったのか、というか。まあ、シュウが捕まって良かったですね、イツキ』
釣り竿の当たり所が悪かったのか、まだ伸びているシュウの口から魚をベシッと羽で叩き落し、やや投げやりな感じでシュウを抱え上げて去って行くドライの背に、なんとも言えない視線を投げてしまった。
因みに見事にシュウの歯形がついた魚は食べられる魚ということを確認できたので、これはシュウの分、と持ち帰ることにして、気を取り直して釣りを再開した後は鮭や鱒に似た魚を何匹も釣り上げることに成功し、大満足で今年最後になるだろう釣りを終えたのだった。
……まあ、何度かシュウが消えた!と騒ぎになったが俺は今日だけは!と釣りに専念してしまったのは仕方なかったんだ!!だからドライ、そんな恨めしい目で見つめないでくれ!
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かなりお久しぶりです。お待たせしてすみませんでした。
年齢的な体調の不安定さが落ち着いて来たので、新作と迷ったのですが筆が進まなかったのでこちらの更新を再開させることにしました。
ただ猛暑ですし、体力的に無理がきかないのでリハビリがてら週に2回くらいのペースになるかと思います。
久しぶりなのにまったりとした話となりましたが、まったりと猛暑ですが冬の話を進めていきたいと思います。
新しいもふもふの登場はまだしばらく後かもしれません。どうぞよろしくお願いいたします。
それと他社ですがアルファポリスさんからの初書籍化作『もふもふと異世界でスローライフを目指します!』の寺田イサザ先生によるコミカライズ版12巻が発売中です!
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良かったら是非、読んでみてください。
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