第60話 雨と世界樹と結界

 ドライとシルフとウィンディーネ達のお陰で土砂降りの雨の中、濡れることなく世界樹の元へ辿り着き、そこで見たのは。


「う、うわぁ!あ、あれってどうなっているんだ?去年はあんなの見たことないのに……」


 聖地に入っても土砂降りに振り続けている雨が、世界樹の周囲一定の範囲内では弾け飛び、辺りへ飛沫が霧雨のように降り注いでいた。


『……結界、ですかね。恐らくカーバンクルが戻ったことで、世界樹が自分の周囲に結界を張ったんでしょう。その結界がこの激しい雨を拒んで、あのように反応しているんだと』

『へえーーー。結界のことなんて、気づかなかったなーー。まあ、俺達が弾かれることはなかったし、世界樹が力を取り戻しているのなら、良いことだろうなーーーー』

『ギャーウゥー』


 ってお前ら!何呑気なことを言っているんだよ!確かに世界樹の周囲一定の距離で円を描くように雨が弾かれているから、結界なんだろうな、ってことは俺にも一目で分かったよ。それは、いい。でも、その結界の内側で何故か世界樹から飛沫が上がって、そこで虹が出ていることはどうでもいいことなのかっ!!


 そう、辺りは激しい土砂降りの雨の中、陽もさしていないのに世界樹の周囲だけは何故かほんのり虹が囲んでいたのだ。どうしてそのような現象が起こっているのか解析できない、これぞファンタジーというような光景を前に、俺は茫然と固まるしか出来なかった。


『ん?どうした、イツキ。お前は毎日通っているんだから、心配しなくても結界は通れるぞ?ホラ、さっさと日課を済ませようぜ!』


 いやいやいや、なんでそんなに普通の反応なんだよ、ツヴァイ!いかにもさっさと帰りたいんだけど、って雰囲気を出すなよな!


「……ハア、もう、いいや。どうせこれだけ驚いているのも俺だけみたいだし。じゃあ、日課に行って来るよ」


 なんだか皆が平然としているのを見て、ここは異世界だったな、とどうでも良くなって止まっていた足を進めて世界樹へ歩き出した。

 結界の境界を越える時には、さすがにドキドキしたが、昨日も来たんだから!と思い切って足を踏み出すと、あっさりとくぐり抜けていた。


「フウ。大丈夫だと思ってても緊張したな……。ああ、でも俺が日課をやっている時はユーラはどうしようかな?キキリには……さすがにだっこは大きいよな?」

『ギャー……ギャウゥ』


 中から見た、辺り一面の霧雨とその中にうっすらと浮かび上がる世界樹の姿は神秘的だったが、近すぎて顔を上げなければ虹のような煌めきは視界に入らないので逆に興奮が落ち着いた気がした。

 そうすると、いつもユーラを地面に寝かせる場所が水浸しになっていることが目に付く。

 キキリがいくら力があってもユーラは一歳児程の大きさがあるから、キキリよりも一回り小さいだけのユーラをバランスを気にしながら俺の日課の間待っているのは難しいだろう。


 アインス達に座って貰ってユーラを背中に乗せてもいいけど、雨で滑ったらと思うと心配だよな。結界で弾かれているとは言っても、この水しぶきがあるからな……。毛布を引いてもさすがに冷たくなっちゃうよな。地面は……ノームに頼んであとウィンディーネとシルフに頼めば濡れずに済むかな?


 なんとかならないかと考えていると、ふと胸元を引かれた。


「ん?……今のユーラか?」


 微かな感触に下を覗いてみると、俺を見つめるユーラと目が合った。そのじーっと見つめる瞳に、一緒に行きたいという意思を感じた。


 うをおお!ユーラが、ユーラが動いて、俺を見ているぞ!!最近は少しずつ何が言いたいかなんとなく感じられるようになって来ていたけど、こんなにはっきりと意思を感じたのは初めてだ!!


「一緒に行きたいのか?……分かった。じゃあ、今日はこのままで日課をしようか。キキリ、行って来るよ」

『ギャウ!』


 アインス達は結界を入った処で止まり、いつものように世界樹の根元まで一緒に来ていたキキリに声を掛けると、いつもの場所へと進んで行く。

 だっこしたユーラを圧迫しないように気を付けてマジックバッグから世界樹の葉を取り出して、いつもよりも手を伸ばして世界樹の根に触れる。


 なんか、水を弾いているのを見ると、昨日のイメージしたのとピッタリだよな。今日は土砂降りの雨だし、昨日と同じで水を根から吸い込み、ぐんぐん幹と枝を伸ばす様を想像する。その時、今日見た不思議な光景が思い出され、ついその光景を背景に思い描いてしまった。


「うわっ!今日もか!一体どうなっているんだ?」


 ぐんっと昨日と同じように一気に魔力が持っていかれ、思わず閉じていた目を開けると、抱っこ紐の中のユーラが手を伸ばし、俺の手に手を添えたのが見えた。


「へ?……くっ!な、なんだ!」


 なんだ?と思った瞬間、最初よりも一気に、今まで感じたことない程強力に力がドンッと持っていかれた。ただ一気にもっていかれたが、瞬きしている間にその流れは止まった。


「はあ?ユーラ、今何かしたのか?」


 世界樹から手を放し、ユーラに目線を向けると、世界樹をじっと見上げていた。その視線を追って見上げると。


「に、虹がっ!さっきよりハッキリと出てる!」


 パアッと光輝いた世界樹に、何故か七色の光がくっきりと絡み着いていたのだ。茫然とその様子を見上げていると、ギュッとその虹がすぼまり、世界樹に絡んだ瞬間、パッと弾けてキラキラと光輝いた。

 そうしてその光が更にパッと広がったと思ったら、世界樹を包んでいる結界へと消えていったのだった。









****

お待たせしましたー!

体調が悪く、二日お休みさせていただきました。

秋は気温差、不安定な気圧の影響などでだるさと不眠になりやすいので、お休みすることも増えると思います。


どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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