アニメ心中

ふかレモン

プロローグ

 静寂をかき消すようにラッシュルームの重厚なドアがゆっくりと開いた。6畳ほどのその部屋からは熱気と共にぞろぞろと人が出てきた。みな強張った体をほぐしたり、辛そうに瞼を押さえたりと疲れと戦いながら自分たちの席に戻っていく。


 最後にツバメのB5ノートを小脇に抱えた長身痩躯の男と、クリップボードを睨みながら疲労感漂うくまを携えた男が出てきた。長身痩躯の男がクリップボードの男に語り掛ける。


 「とにかく作画修正を再優先。すぐにリストアップ。特にc134は大工事になるから作監さんおさえておいて。あとは、致命的なエラーを順次直していくぞ」

 

 クリップボードの男は目を擦りながら「了解です」と答え。すぐさま、自分のデスクに戻る。デスクの上には茶色いA3サイズの分厚い袋が山積みになっていた。彼はクリップボードに挟まれた用紙に書かれている番号と袋に書かれている番号を照らし合わせて、その山の中から順次袋をピックアップしていく。

 

 彼が山積みの袋と格闘していると、小太りで黒縁の眼鏡、ジーンズに萌えキャラのTシャツ。黒いビーチサンダルを履いた男が彼の背中越しに「作画修正カットまだ?」と気だるげに聞いてきた。


 彼はすぐ振り返り、「すみません! すぐ準備しますので席でお待ちください」

 

 「はーい。眠いから早くしてね」とあくび交じりに答えた。

 彼は必要な袋を抜き出した後、クリップボードに挟んでいた用紙をコピー機にかけた。コピーした用紙を枠に沿って切り、それを対応する番号の袋の表にセロハンテープで貼っていく。


 彼の作業音を中心に、先ほどの静寂さは嘘だったかのように、キーボードの打鍵音やマウスのクリック音。そして微かに聞こえる鉛筆が紙を擦る音がフロアに満ちていく。

 一見、地味で何でもない作業音だが、人々の熱量で溢れている。

 この空間はアニメーション制作会社と呼ばれていた。

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