第10話

「へえ…」


床屋さんは声をあげてしまいました。


 「丸刈りにするのかい?

 今時、珍しいねえ」


「うん、その、丸刈り」


「僕も、おんなじ、丸刈り」


「…わかったよ。

 とびきりかわいい丸刈りにしてあげよう。

 ところでふたりはよく似ているねえ。

 双子かい?

 同じくらいの年に見えるけれど」


「双子じゃないよ」


「でも、お隣同士で一緒に育ったんだよ」


「お隣? 

 兄弟でもないのかい?」


「兄弟じゃないけれど、ずっと一緒だったんだよ」


 床屋さんはまずはさみで一方の子の髪をなるたけ短く切りながら、ふたりの話すのを聞いていました。

 まだ小さいからかもしれませんが、言っていることがよくわかりません。

 子供にはわからない複雑な事情があるのかもしれません。

 でもふたりの子供はどちらも朗らかで元気でした。

 素直で明るくて、とてもいい子たちだな。

 床屋さんは心の中で思いながらあらかた髪を切り終えて、今度はバリカンを用意しました。

 そしてそれを小刻みに動かしながら小さな頭を刈っていきました。


「…さあ、できたよ。

 これでいいかな?」


「うん、こういうふうにしてほしかったの」


「さあ、じゃあ次はこの子の番」


 隣の椅子に座って面白そうにのぞき込んでいた子のほうへ向き直りました。

 子供はにこにこして、


「僕もおんなじに」


と言いました。


「かしこまりました」


 床屋さんは少しおどけて答えると、同じように始めはさみを使い、それからバリカンを使って整えました。


 すっかり終わると、子供たちは互いに指をさし合って、


「まねっこ」

「まねっこ」


と言って笑いました。

 そうしてそれぞれの半ズボンのポケットから小さく折りたたまれたお札を出すと、


「ありがとう」

「ありがとう」


 ひとつの傘に一緒に入って、激しい雨と風の中をじゃれあいながら走って、みるみる小さくなっていきました。

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