第2話 プロローグ2

「えっ? あれ?」


 初めての体験に、クリスは目を瞬かせる。

 これが魔術というものなのか。


(これ、もしかしてグリモアってやつかな?)


 グリモアとは、悪魔が封印された書物を差す。

 悪魔が封印されている土地や魔導具は他にもあるが、グリモアの場合は本を開いた時点で悪魔の封印が解けてしまう。

 非常に危険な魔導書だった。


 だがクリスは、浮かび上がる本を見ても、あまり危機感を感じなかった。

 むしろ『これから何が起こるんだろう?』という、ワクワク感が圧倒的に勝っている。


 少しすると、光が次第に弱くなっていった。


「あれ、もう終わり?」


 僅かに落胆した矢先だった。

 開かれた本のページに、文字が浮かび上がった。


『...生体を認識』

『......使用権を確認』

『.........スキルボード......起動』


「すきる、ぼーど?」


 クリスが首を傾げる。

 聞いたことがない言葉だ。

 この書物は、なにかしらの魔術を帯びているに違いない。

 だがその魔術の種類が、検討も付かない。


 クリスが考えている間にも、浮かび上がった文字が消え、新たな文字が浮かび上がった。


『......魔法を生成します...パラメーターを設定してください』


■作成コスト:0/9999

■属性:【】+

■強化度

 威力:0▲ 飛距離:0▲ 範囲:0▲ 抵抗性:0▲

■特殊能力:【】

■名前:【】

 記録/消去


「ん、ん!? これは、なんだろう」


 浮かび上がった文字は、どこか普通のものとは違うように感じる。

 それは、インクで書かれた文字ではないからか。

 紙の上に少しだけ浮かんでいるように見える。


 書物に書かれているのは、それだけだった。

 次の頁を見ても文字はない。白紙の頁が続いている。


「……ひとまず、言われた通り設定してみるかな。でも、どうやるんだろう? ペンで書き足せばいいのかな?」


 インクを垂らせば二度目はない。

 まさか一回使い切りの魔導具なのか。クリスが悩みながら、本のページに触れた。その時だった。


〉〉威力:0→1


「――おおっ!」


 威力の数値が一つ増えた。

 どうやら三角に触れると、その分数値が上昇するようだ。


 新たな発見にクリスは目を輝かせる。

 他になにが出来るか、ペタペタとさわりながら確認していく。


 一時間ほど魔導書(スキルボード)に触って、確認出来たことは6つ。


・スキルボードは、パラメーターを弄って魔術を作成する。

・属性には『火・水・土・風・光』があり、複数設定出来る。

・強化度は最大100まで上昇させられる。

・特殊能力は『追尾・飛翔』の中から設定出来る。

・それぞれのパラメーターを設定すると、作成コストが上昇する。

・表紙を閉じると本が消える。出ろと念じると再度開かれた状態で本が出現する。


「もしかして、僕にも魔術が使えるってことかな?」


 クリスは興奮する。

 これまでほとんど魔術が使えなかったのだ。

 もしこれで魔術が自由に使えるようになるかと思うと落ち着いてなどいられない。


「それにしても、このスキルボードの表記、どうして『魔術』じゃなくて『魔法』なんだろう?」


 魔術とは、魔学を修め、マナを使用し、自ら生み出す『現象』だ。

 対して魔法についてだが、クリスはなにも知らない。

 これまで読んだ書物には書かれていなかったし、高名な魔術士の講師からも聞いたことがない。


「魔術の誤りかな?」


 この魔術書を生み出した人が、誤って入力してしまったのだろう。


「まあいっか」


 それはさておき、魔術作成だ。

 クリスは早速、パラメーターを調節する。


「まずは、火魔術がいいよなあ」


 火は男子の憧れだ。

 火魔術は高威力かつ、効果が派手なため、魔術学校でも随一の人気を誇る。


 無論、クリスにとっても憧れの魔術だ。

 魔術書に描かれた様々な火魔術を、クリスは何度も読み直し、繰り返し妄想したものだ。


「よし、じゃあ早速火魔術作成だ」


 早速クリスは火魔術に触れる。

 すると、文字の上に小窓が出現した。


『...以下の魔法の中から、選択してください』

『ファイアボール、ファイアランス、ファイアニードル、ファイアアロー、ファイア……』


「ああ、なるほど。そういう仕組みだったのか」


 どうやら属性を選ぶだけでなく、その中からさらに既存の魔術を選ぶ方式だったようだ。

 クリスは一先ず、『ファイアボール』を選択する。

 すると、強化度が一斉に変化した。


■属性:【火(ファイアボール)】+

■強化度

 威力:3▲ 飛距離:2▲ 範囲:1▲ 抵抗性:1▲


「これがファイアボールの基本的設定か」


 属性を決定すると、その選んだ魔術の基本的な強化度に数値が変化するようだ。


 このまま使えば、普通のファイアボールにしかならない。

 それでは面白くない。


「ファイアボールの可能性を追及したいッ!」


 クリスは気になることがあれば、とことん突き詰めなければ気が済まない。


 まずは、パラメーターの調節だ。

 とはいえ、1あたりどれくらい強化されるかが不明だ。

 いきなりマックスにして大地が焦土化したら問題だ。


 MAX魔術はやりたいが、すぐにしない程度には理性がある。

 いつか、機会があったら試してみることにして、いまは若干の調節に止めておく。


 そこでふと、クリスは気がついた。


「あれ、抵抗性ってなんだろう?」


 魔術に抵抗性をくっつけると、真っ先に防御魔術が思い浮かぶ。

 だが火属性には、防御魔術はない。


「ん~? ……あっ、そうか、発動妨害か!」


 クリスはぽんと膝を打つ。

 魔術の中には、相手の魔術を打ち消す魔術が存在する。

 それに対抗するには、魔術の構成強度を上げる方法が良い、と物の本に書いてあったのを思い出した。


 抵抗性とはつまり、魔術妨害に対する性能を差すようだ。


 パラメーターへの理解が深まったところで、クリスは特殊能力を選ぶ。

 とはいっても、現在選べるのは『飛翔』と『追尾』のみだ。


「火魔術で飛翔は……イメージが湧かないなあ。ここは追尾にしておくか」


 これで、魔術の構成が決定した。


■魔法コスト:150/9999

■属性:【火(ファイアボール)】+

■強化度

 威力:10▲ 飛距離:10▲ 範囲:10▲ 抵抗性:10▲

■特殊能力:【追尾】


「これでよし、と……」


 ただの当てずっぽうで作ったからか、魔術コストがかなり余ってしまった。

 とはいえいきなりMAXまで引き上げる勇気はない。

 どのような魔術になるか、想像も付かないからだ。


 最後に、名前の欄に『ファイアボール』と記入して、記録に触れた。

 すると、次の頁に『ファイアボール』の表記が自動的に出現した。


「なるほど。作った魔術を記録したら、後ろの頁に記載されるんだな」


 納得したところで、クリスは勢いよく立ち上がる。

 作った魔術を、いますぐ試したい。


「早速、実験だ!」


 いつもとは比べものにならない溌剌とした足取りで、クリスは屋敷を飛び出したのだった。

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