始動準備/丁歴938年10月16日
「はーい、お疲れさーん。もう帰っていいぞー」
クタクタの白衣を着た女性が心底だるそう
彼女は鳥越凛、無免許の医者、いわゆる闇医者というやつだ
無造作に伸ばした黒髪はボサボサに跳ねており、『仕事はできるが私生活はだらしない女性』という感じがヒシヒシと伝わってくる
「おーい、みちるー終わったぞー邪魔だから連れて帰れー」
なんかよく分からない健康診断を終えて俺は追い出されるように立ち上がった
すると、ひかえめなノックの後に診察室の扉が開いた
「失礼いたします。ご主人さま、お体の具合はいかがですか?」
極端に露出の少ないクラシックメイドと呼ばれるスタイルに手袋と濃い色のタイツで完全防備のくすんだ茶髪の少女、卯月みちるが迎えに来てくれた
年下なのに甲斐甲斐しく世話をしてくれる健気で可愛い女の子だ
ちなみに、"卯月さん"と呼んだら名字で呼ぶなと、とても嫌そうに言われたのでみちると呼んでいる
なお、ちゃん付けしようとしたがNGを出されただけで別に馴れ馴れしくしたいわけじゃない。・・・本当だよ?
「あぁ、大丈夫。みちるこそ大丈夫? 無理してない?」
みちるは、たまにしんどそうにうずくまっていることがある
そのたびに大丈夫というが、明らかに大丈夫そうじゃないのでメモして鳥越先生に提出するようにしている
「ありがとうございます、少し休憩させていただきましたので大丈夫です
こちら、護身用の装備になりますので、お収めください」
二人で廊下を歩いていると、みちるはゴツイ指輪みたいなものを差し出した
なんだこれ、なんかすごいバリアが出るとか?
「こちらは小型の魔法の杖のようなものです
小型ですので設定できる魔法や充填できる魔力は限られますが特殊な操作を必要とせず、
設定されたキーワードを唱えるだけで発動できますので、使用者を選ばない・・・とのことです」
へー、これをはめてるだけで魔法使えるのか
俺は指輪を左手の人差し指はめた
ちなみに、薬指はサイズが合わなかった
「設定されている魔法は、こちらの4つです
試し打ちしたい場合は地下の演習室にお連れいたしますので申し付けください」
俺はみちるからメモ紙を受け取った
なになに、ってか、めっちゃ丸文字だな
1番のスロットがフレイムダート、2番がエアバースト、3番がティンクルシャウト、4番がカオスホールド
・・・名前だけじゃよくわからんな、なんとなくカオスホールドが強そう
「各魔法について説明致しますと、フレイムダートは火のついた石ころを飛ばす魔法です。威力はコブができる程度ですね」
・・・よわ。その辺の石ぶん投げたほうが速くないか?
「エアバーストは突風を出す魔法です。大人が尻もちをつくくらいの威力です」
・・・こっちも微妙に弱いな。壁に打ち付けたりできないのか
「ティンクルシャウトは激しい光と音を出す魔法です。周囲の人は無差別に足腰が立たなくなりますが、当然自分も対象範囲内にいますので、同じ感じになります」
・・・自爆するフラッシュパンかよ。使いづら
「カオスホールドは目の前の人に瘴気を目一杯注ぎます。即座に魔物化が始まる濃度ですが、別に対象を行動不能に出来るわけではありません
尚、この魔法は念の為検査が終わるまで使用は控えてくれとのことです」
・・・闇のオーラが敵を拘束するみたいなイメージだったんだけど、違うのか。戦闘用って感じじゃないな
まともに使えるのは・・・エアバーストくらいか? まぁ、俺が戦闘する機会があるかは分からんけど
「なるほど、これって何発ぐらい使えるもんなの?」
どうせ、大して弾数ないんだろうな。護身用って言ってたし
「カオスホールドは基本的にご主人さまの瘴気を使うように調整されていますので、ご主人さま次第ですが、その他は合計3発くらいですね
これで、侵入者を撃退するのは無理ですので、すぐに助けを呼んでください」
まぁ、伝説の剣とかあっても無理だろうから、素直に逃げることにしよう
「ふぅん、あんたが新しい魔王? なんかパッとしない感じね?」
俺に充てがわれた部屋の前に腕を組んだセミロングの輝くような黒髪の少女が壁に寄りかかって立っていた
少女はあどけない顔立ちに似合わず底知れない妖艶な表情を浮かべている
「こちらはジンフェンの使節の方です」
「この姿の時は西口莉世って呼んでちょうだい」
みちるの紹介に西口さんとやらは気さくに手を上げて応えた
「ジンフェンっていうのは?」
「ジンフェンは魔物の国で最初の魔王であるオピオン様の遺志を継ぐ方々です」
みちるがすかさず説明してくれた
なるほど、魔物勢力を代表して俺を品定めに来たってわけか
「この姿の時はって事はこの姿じゃない時もあるんですか?」
変身能力を持った魔物・・・とかだろうか
見た感じ人間以外の何者でもないが
「アタシはドッペルゲンガーっていう種類の魔物なの。取り込んだ生物の肉体と記憶を再現できるわけ」
"取り込んだ生物"ってことは本物の西口莉世もいたってことだよな
・・・うん、本物の西口さんがどうなったかは、考えないようにしよう
「なるほど、人間に紛れるにはうってつけというわけですか
それで、なにか御用でしょうか?」
とりあえず、白々しく聞いてみることにした
「ちゃんと、魔王が召喚されたのか確認しに来ただけよ。自称魔王じゃ困るからね
・・・ふぅん、この心地いい感じは間違いないみたいね」
ってことは、瘴気漏れてるのか
健康被害が出る前に、教団の人たちを魔物化するか瘴気漏れをどうにかしないといけないかな
「ま、いいか。明後日の会議で今後の方針を話し合うって言ってたよ
じゃ、また会いましょう」
西口さんは手をひらひらと振って廊下を歩いていった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます