第10話

翌朝、俺はすがすがしい朝を迎えるととある準備をして地下室へと二人の様子を見に行った。


一応あまり俺が来たことを悟られないように静かに地下へと降りると地下はひどく音が反響するのもあって遠くからでも話し声が聞こえてきた。


「……覚えているか?お前はそれで私に喧嘩を売ってきて――――――」


「あぁ、覚えているとも。お前はあの頃から僕の勝負の申し入れを全然承諾してくれなかったな。」


話している内容は何であれ、遠くから聞こえてくる二人の声はひどく穏やかなものだった。


どうやら昔のような関係に戻れたみたいだ。


(よかったよかった。)


なんだか自分の事みたいに嬉しい。


そんなことを思っていた時だった。


「ヒナタ、もう朝なのか?」


(……気づかれてたのかよ。)


心に余裕ができたからか見えすぎる目で俺の存在に気づいたのであろうウェディルはひっそりと息をひそめていた俺に声をかけてくる。


あいつマジで冷静だと危険だな。


なんて思いつつもばれたなら仕方ない。


俺はおとなしく二人の元へといって部屋の鍵を開けた。


「仲直りできたのかよ。」


「あぁ、おそらくな。」


小さく笑いながら俺の問いに答えるウェディル。


穏やかに笑うウェディルとは裏腹に俺は何とも言えない表情をした。


(おそらくってなんだよ、おそらくって……。)


なんだか格好つけなウェディルの姿に俺はひどく唾を吐いてやりたい気持ちになったが実際にそんなことはしない。


(まぁ、なんとなくこの雰囲気みりゃわだかまりはなくなったことはわかるか。)


つまり俺の作戦は成功で、俺はこれからもこの屋敷に残留決定となった。


残留決定に関しては早まった決断だったと後悔する日がそう遠くない未来に訪れそうな気もしなくないけど、何はともあれ二人の仲直りは喜ばしい。


「二人とも、今朝はちゃんと仲直りできた二人の為に俺が朝食を作ってやったからさっさと食いに行こうぜ!」


俺は部屋で穏やかに笑っている二人に声をかけ、俺の言葉に腰を上げてくれた二人を連れて地下室を後にした。


そして俺が作った朝食のある食堂へと向かった。


そこには俺特製の日本の朝食を用意していた。


朝からガッツリ食べているウェディルは「これだけか?」と問いかけてきたがそんなことは無視だ無視。


そんなウェディルとは対照的にアインズ様は見たことない料理に目をキラキラさせていた。


昨日味噌汁を泥水扱いした人とは思えないほどだ。


どうやら昨日の味噌汁もなんだかんだ気に入ってくれていたみたいだ。


「さぁ、冷めないうちに食べようぜ!」


ウェディルは当主として中央の席に。


そして俺とアインズ様はそれぞれウェディルの隣に着席した。


そして俺は「いただきます」と一声。


ウェディルとアインズ様は二人自体が高貴な身分だからかそもそもこの国にそういった風習がないのか、カトラリーをすぐに手に取り食事を始めた。


まぁ作法なんてのは人それぞれだし、別に俺はそれを気にしたりしない。


二人に続いて俺も食事を始める。


おいしそうに俺の作ったスクールランブルと焼き魚、そしてキノコのお吸い物を食べてくれる二人の顔を見ながら。


昨日とは違って穏やかな朝。


こんな朝はなんか悪くないかも。


なんて思いながら焼き魚にお箸を伸ばしたその時だった。


部屋の扉がいきなり大きな音を立てて開いた。


「ウ””ェディル””ザ””マァァァァァァァァアア!!」


すがすがしい朝食タイムを壊すかのように大泣きしながら鼻水を垂らし、俺より少し年上くらいの男の人が部屋へと入ってきた。


(だ、誰!?)


見たことない日とな上、俺と客人であるアインズ様以外いるはずのない「男」。


突然現れたその人物は大泣きしたままウェディルに駆け寄るとウェディルの太ももに顔をうずめて更に泣く。


時間がたてばたつほど何なんだこの人はという感情に襲われてくる。


というか本当になんなんだ、この男は!


なんて思っていた時だった。


「うん?君はこの家の執事長のバルック君じゃないか。姿を見ないと思っていたが、いやはや、どうしたんだ?」


(し、執事長!?)


俺の疑問に答えるように泣きじゃくる男について説明をくれるアインズ様。


つまり、つまりだ。


(女のケツ追っかけて失踪中だった執事長って、コイツ――――――!?)


一応ウェディルは高貴な身分ということだし、女癖はともかく、もう少しできそうな人が執事長なのかと思っていた。


けれど目の前にいる執事長はどこからどう見ても頼りなさそうなうえ、ひどく女々しい姿に俺はこの先が思いやられるのだった。

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