1章 俺の周りは変人ばっかりです
第1話
「…………。」
どうも、こんにちは。
異世界に暇つぶしという理由で召喚された俺は、早くも異世界で暮らし始めて1か月の時を送ってきました。
1か月という時の中で俺はだいぶ異世界の生活、というか、この屋敷から出してもらえないのでこの屋敷での生活という方が正しいのですが、少しずつ慣れてきました。
ちなみに俺はとあるメイドの思い付きで何故かこの家に一人もいないという理由で執事をすることになり、日々執事の仕事を学んだりしている。
そう、なんだかんだ言いつつもすっかりとここでの生活に離れてきた。
……慣れてきたのだが――――――
「ふむ、今日のヒナタのラッキーカラー的にはこちらのパンツなどどうだろうか。」
「いえ、ウェディルさま、私はこちらのパンツがよろしいかと思いますわ!!」
朝シャワーを終え、脱衣所に入った俺の目に映る使用人と主(ウェディル)の姿。
二人はあろう事か、引き出しに入っていた大量の俺のパンツを辺りに散らかし、パンツを選んでいた。
でも、これは何も珍しい光景ではない。
「いっつもいつもぉぉぉぉ……人の入浴中に部屋に入ってくんじゃねぇぇぇぇ!!!」
俺は脱衣所にいた主とメイドを扉の外に放り投げ、左右の手のひらを上下にこすり叩いた。
その次の瞬間だった。
「開けろ!開けるんだヒナタ!!まだ今日のお前のパンツを決めていないんだ!!」
「誰が開けるかっ!!つか、選ばなくていいんだよ!!俺のパンツは俺が決めるんだよ!!」
扉をガチャガチャ必死に開けようとしてくるウェディル。
そんなウェディルに何とか扉を開けさせまいと俺は扉を必死に抑える。
迷惑行為すぎるだろ、本当。
というか何でこいつらこんなにパンツに必死なんだよ。
何か?この世界ではそんなにパンツが大事なものだというのか!?
「ヒナタ様!ヒナタ様の今日のラッキーカラーはピンクなんです!なので、どうかそのあたりに落ちている人きわピンクの目立つお下着を何卒ご着用ください!!何卒、何卒―――――」
扉をドンドンと叩く音が聞こえてくる。
恐らくこれはメイドのシェリーがやっている事だろう。
シェリーは扉の向こうで何卒とずっとひときわピンクが目立つパンツを推してくる。
「だぁぁぁもう!!わかった!それ穿けばいいんだろそれ穿け―――――ば……?」
シェリーの押しに負け、俺はシェリーの言うパンツを穿こうと、ひと際ピンクの目立つパンツを手に持った。
が……
「誰が穿けるかっこん畜生っ!!!」
俺は手に取ったパンツを叩きつけた。
あろう事かそれは女性もののパンツだったのだ。
「おい、ヒナタ!お前、今シェリーが夜なべして作ったパンツを投げたな!?投げただろ!私には見えているぞ!なんてひどい奴だ!」
「あぁぁぁ、旦那様、良いのです、良いのです!!私など、私などどうかお気になさらず……およよよよ……。」
必死な声で俺を怒りつけてくるウェディル。
そしてその声とともに聞こえてくるのはあからさまに嘘泣きと思わしき泣き声。
(え、何。これ俺が悪いみたいじゃん……え、俺が悪いの?ねぇ……。)
なんで俺が泣かせたみたいになっているのだろうか。
俺が投げたのは女物の下着だ。
穿けないという事の何が間違えているのだろうか。
「ヒナタ、謝るのだ!お前が男だというのならレディを泣かせたことに謝罪しろ!!」
「お前にだけは正論言われたくねぇんだよ、この変態野郎め。」
扉があって聞こえにくいのもあり、俺は主に不快感満載の表情で大声で暴言を投げ捨てる。
いや、どうせあいつは心で思っても気づくだろうと思い、思った暴言は割と素直に口にしている。
その方が幾分か気も楽なのだ。
まぁ、そんなこんなな生活で、正直こちらに来てから怒る事が増えた俺はまだ14歳という若さで血圧を気にしだしている。
そんな気苦労が絶えない生活だが、でも、悪い事ばかりでもない。
まぁ、馬鹿で煩い奴らのおかげで退屈はしないし、この世界はご飯がおいしい。
更にお菓子もおいしい。
菓子パン好きには大事なところだ。
なんだかんだで俺はここでの生活になじみ始めていた。
「旦那様、お茶をお持ちしました。」
執事の仕事の一環としてウェディルの書斎にお茶を持っていく。
するとそこには仕事に集中しすぎてこちらには気づかない、ひどく真剣な顔をしたウェディルの姿があった。
(真面目な顔してちゃんと仕事してたらやっぱかなりかっこいいよな、この人……あ、人じゃないんだっけ?)
メイドのシェリーから暇を見つけてはこの世界について教えてもらっている俺。
どうやらウェディルは公爵ならしい。
この世界には6人の公爵がいるらしいんだけど、その公爵たちはこの世界の創造主の血を継いでいて、
この世界の王様を絶対的な存在、【神】と崇められ、
公爵たちはその神に一番近しき存在達という事で【天使】と人々に崇められているらしい。
そして、その神や天使というのも大袈裟な例えではない。
つまりはやはり召喚者がチートってパターンだったという事で、その創造主の血を引く者たちだけが特別な力を使えるらしい。
火・水・土・風・闇・雷を自由自在に操れる力が公爵たち、天使たちにはあって、ウェディルは雷っていうか、電気?を、操れる力があるらしい。
そして神と呼ばれる王様はそれらすべての力を扱えるらしい。
そんな絶対的な力を持つ神、天使たちに対し、喧嘩を売るものはおらず、
この世界が始まってから今まで民衆たちによる反乱や大きな戦争は起きていないらしい。
6人の公爵たちも基本的には平和主義なのだとか。
そんな平和すぎる世界にはやはり魔王などおらず、俺の日常といえばこうして執事のまねごとをして働いているか、暇になったウェディルにからかわれておもちゃにされているかというものだ。
本当の本当に暇つぶし相手が欲しくて召喚されたらしい。
(邪魔するのもなんだし、そっとお茶を置いて立ち去るか。俺ってばできる執事~。)
真似事とはいえ、なんとなく様になっている気がする。
そんな事を思いながらそっと壁際を歩いてウェディルの机に近づいた俺は
ウェディルの机に静かにお茶を置いた。
そして、ウェディルに背中を向けたその時だった。
「声をかけてくれないなんて寂しいじゃないか、ヒナタ。」
真剣に机に向かっていたウェディルが突然俺に気づき、俺の腰を抱きよせてきた。
俺はそんなウェディルの行動に驚くものの、すぐさまじたばたと暴れだした。
「はぁ~なぁ~せぇぇぇ!!!」
俺の事を小動物か何かと思っているのか、俺の首筋に頭をこすりつけてくるウェディル。
とはいえ、俺に癒し効果など勿論皆無。
この行為して得るものなど俺からの怒りくらいだ。
「照れなくてもいいんだぞ?私のヒ・ナ・タ。」
耳元でいい声で囁いてくるウェディル。
そんなウェディルの行為に俺は全身鳥肌が立ち、ついには――――――
「い、いい加減にしろぉぉぉ!!」
「ぐはっ!!」
ウェディルに向かい、思い切りひじを飛ばした。
そんな俺の攻撃はウェディルにしっかりとダメージを与えたようで、
ウェディルはひどく痛がっている。
人間が天使に勝利した瞬間である。
「ったく……。遊んでないでちゃんと仕事してください、旦那様。」
冷たい目をしてじと~っとウェディルをにらみつける俺。
執事姿の時はちゃんと主人として敬語を使うようにしているが、先程、抵抗する際にちょっとだけ言葉を崩してしまった事に関しては仕方ない。
いつもいつも男の癖に男の俺にちょっかいをかけてくるウェディルが悪い。
「ったた……ちょっとした休憩だ、ヒナタ。お茶、頂くよ。ありがとう。」
「……はい。」
痛そうに俺の肘が当たった個所をなでるウェディル。
でも、痛いはずなのに笑顔を繕い、俺にお礼を言ってくる。
そういう一応使用人である俺にもお礼を言ってくれる律儀ところとかみると、
鬱陶しい奴ではあるけど悪い人ではないよな、なんて感じずにはいられない。
(本当、結構……いや、かなり鬱陶しいけど、ウェディルのことはまぁ、嫌いじゃないんだよな。)
「それは愛しているという事か?」
(勝手に心読むんじゃねぇ、このド変態野郎。)
勝手に心を読まれたので俺は心の中で返事をした。
全く、何でも御見通しなんて本当、心休まる時がないというものだ。
しかも俺が考えてることに一々反応してくるし……。
本当に暇な人だと思う。
「あぁ、そうそう、ヒナタ。夕方あたりに客人が来るのだが、
今シェリーに着替えを作らせているからそれに着替えておいてくれ。」
「え、着替えておくって、俺が?」
こういうのは普通、着替えが必要なのは主人の方だと思う。
何で使用人の俺が着替えなくちゃならないのだろうか。
さらに言えば何故わざわざ仕立ててまでもらっているのだろう。
理解ができなくて理解ができないという顔をしている俺を見てウェディルは机から立ち上がり、俺にゆっくりと近づいてきて俺の頬を撫でた。
「キモイです、旦那様。」
右手で俺の左頬をなで始めたウェディルの手首をつかむ俺。
するとウェディルは今度は左手を俺に向かい伸ばしてくる。
すかさず俺は左手首も掴んだ。
何がしたいんだ、こいつは。
「意地が悪いなぁ、ヒナタは。」
「ははは、気持ち悪いなぁ、旦那様は。」
いつも胡散臭い笑顔を向けられているお礼に俺は嘘くさい笑顔を張り付けて暴言を吐いてみる。
意外と気持ちいいかもしれない、これ。
「目が笑ってないぞ、ヒナタ……。」
その言葉はそっくりそのままいつものウェディルに返してやりたい。
「まぁいい。力づくで触れることは出来るが、そうするとお前とようやく縮まった心の距離がまた開きそうだからな。」
「縮まった覚えは皆無です。」
まるでなにか心の距離が縮まるような出来事があったかのようにしみじみと話すウェディルに俺はすぐさま否定を入れた。
断じて縮まってない。
警戒心はここへ来た時から変わっていないはずだ。
「何はともあれ、ちゃんと着替えておくんだぞ。昼ごろにくる客人は手の付けられない変態でな。」
(お前が言うなよ。)
どうせ聞こえるとわかっているから俺は心の中で静かに突っ込む。
というか、こいつに言われるだなんて相手が可哀想だと正直思う。
「……とにかくだ。食べられたくなければちゃんと着替える事だ。いいな?」
俺の心の声に反論できないのか、ウェディルは言い訳を言うことなく用件だけを伝えてくる。
まぁ、自覚はあるという事だろう。
(こいつよりも変態の奴ってそうそういないとは思うけど……。)
「いるんだ!本当にいるんだ、ヒナタ!!」
俺の心の言葉に反応して必死に訴えかけてくるウェディル。
なんて相手に失礼なのだろうか。
「はぁ……まぁ、着替えるくらいどうってことないし、着替えてはおきますよ。
それでいいんでしょ?」
「あぁ、もちろんだ!流石だ、俺のヒナタっ!」
仕方がないとため息をついてウェディルの言葉を了承する俺。
そんな俺にウェディルは嬉しそうに抱き着き、頬ずりをしてくる。
「離れてください、変態様。」
「私は悲しいぞ、ヒナタぁぁ~~。」
旦那様と言おうとして誤って変態様といってしまった俺。
その俺の呼び方にひどく悲しんでいるのかいないのかは知らんが、ウェディルはいっそう素早く頬ずりをしてきた。
そして――――――
「ぐはっ!!」
そんな摩擦で痛い程頬ずりをしてきたウェディルの腹を俺は殴ったのだった。
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