ミザリーの過去Ⅰ

1人の謎の男により、蘇生された魔族の少年ミザリー。


あれから数日経ったのか。


呂律が回っていた口調も元通りになり改めてミザリーは1人の男の方に向き直る。


「助けてくれてありがとうございます。蘇生魔法を使えるとは貴方はさぞかし名のある方なのでしょうか?」


「蘇生魔法をかけたのは我の気まぐれ故よ。それより我もそなたに聞きたい事がある。その方「転生者」か?」


「─────!?何故それを?」


「我が蘇生魔法は単に相手を蘇生させるだけの物では無い。そこから相手の前世の記憶を読み取るなど、情報を収集する能力も兼ねている。」


男が蘇生魔法の効果を説明するとミザリーは顔を伏せながらも、噤んでいた口を開き男の方を向いて話す。


「仰る通りです。私は日本と言う所より召喚された異世界人でした。」


「それが、何故に魔族に転生しておる?」


「蘇生させて頂いた身、失礼とは存じますが話す前に私も1つ聞いても宜しいでしょうか?」


「許す。申してみよ」


「まだ、貴方様のお名前を聞いてはいない為なんと呼べば宜しいでしょうか?」


ミザリーが男に対しそう聞くと、男は身に纏っていた漆黒のローブを翻す。ローブはまるで意思でも持っているかの如く男に纏わり姿を変え、さながらデビルファッションのように男を彩らせる。


男は片目が前髪で隠れた緑髪のフレッシュヘアに右手をやりミザリーの方を向いて口を開いた。


「我が名はディスティア!!五神魔王の1柱にして暴食を司りし者なり」


ディスティアが、そう名乗りをあげると


自らの魔力を黒炎に具現化させ背後に立ち昇らせる。


ミザリーはディスティアが五神魔王と名乗った途端、亡き魔族の母より聞いたことがあるのか


その場に跪いた。


「良い?かつて、この魔界だけでなく全世界を手中に治め平定していた5人の魔王がいたの。5人の魔王はそれぞれ「暗黒之魔王ダーク・ディザスター」「絶望之魔王ディス・ベルセルク」「死界之魔王セラフ・ディジース」「終焉之魔王シン・ディマイズ」「恐絶之魔王イデア・エクリプス」と呼ばれていたのよ。それはもう誰もが羨み敬愛を捧げる御方々だったわ。貴方も魔王様達に仕えられる様に強くならなくちゃ駄目よ」


ミザリーはそれを思い出すと、自分の顔をディスティアに向き

失礼したかの様に小さく呟く。


「貴方様がディスティア様だとは露知らず申し訳ありません」


「良い、頭を上げよ。して、再度聞こう。何故に異世界より召喚されし、そなたがこの様な場所にいる?」


ミザリーは暫し悩んだが、意を決してディスティアに自分に起きた全てを話そうと、ディスティアの顔を見て口を開く。


「過去の話をする事になりますが……」


「話してみよ」


「──────────では」




ミザリーの過去の話が始まる。




人界の、とある王国の一室にて大理石の床に巨大な召喚用魔法陣が描かれていた。


室内には豪華なドレスを着て頭にティアラを付けた女性と、完全武装で身を固めている兵士が8人いる。女性が魔法陣に対して呪文めいた事を言うと魔法陣が突如、盛大な光を放った。


「成功しました。異世界より勇者を呼び寄せる事に」


「「「「オオオオオオオ姫様召喚成功おめでとうございます」」」」


「ありがとう」


姫は兵士達の賛辞に振り向き礼をした後、魔法陣の上にいる人影を見る。


「ようこそ私の呼び掛けに答えてくださった勇者様」


突然の召喚に驚いた高校2年生ぐらいの少年は、何を言われてるか分からず姫に対し聞き返す。


「どうして僕はこんな所に、ここは一体何処なんですか?」


「此処はユーナテッド王国。そして、申し遅れてすみません勇者様。私の名前は「アルテニア・ユーナテッド」ユーナテッド王国第1王女です。」


アルテニアから知らない地名ユーナテッドと聞き戸惑う。日本にいた時でも、そのようなテーマパークや国の名前など知らない。召喚された少年は頭が混乱しそうになったが、アルテニアから発せられた一言で正気に戻る。


「この国は今現在。五神魔王の1人「暗黒之魔王ダーク・ディザスター」により支配されております。勇者様どうか悪き魔王を倒し。私たちを平穏をお与え下さいますよう御助力願いますでしょうか?」


アルテニアが少年に対し頭を垂れお願いするも、理解が追いつかない少年は「魔王?」と聞き違いかと思い再度尋ねる。


「はい、暗黒之魔王ダーク・ディザスターを倒して頂くために私達に……」


聞き違いでは無かった。確かに、姫から暗黒之魔王と言う言葉をしかと聞いた少年は、その場より後退り拒否反応を起こす。


「無理無理無理。無理です。大体、僕は普通の高校生なんですよ?それなのに魔王倒せとか無茶苦茶にも程があります。早く元の世界に戻して下さい」


「それは出来かねます。何故なら元に帰るには魔王を倒す以外に無いからです勇者様」


アルテニアの言葉に絶望する少年。


元に帰るには魔王倒す以外に無いと知ると


「分かりました」と言いアルテニアの方に顔を向ける。


「それしか帰る手段が無いなら引き受けます。それと、まだ名乗ってませんでしたね。僕の名は「天龍院琉煌てんりゅういんるきあ」、「ルキア」と呼んでくれたら良いです」


「ルキア様ですね、承知致しました。では、ルキア様。早速ですが我が国の王に謁見をお願い出来ますでしょうか?」


アルテニアにユーナテッドの国王に謁見するよう促されたルキアは一言「分かった」と告げると立ち上がりアルテニアの方を向く。


「では、付いてきてください。」


アルテニアに付いていく形で召喚された室内から出ると後から出てきた兵士5人に周りを取り囲まれる。


「あの、これは一体?」


ルキアがアルテニアに対しそう言うと、兵士達の中で一際貫禄がある隊長らしき人物が、ルキアの前に出て説明する。


「お許し下さい、勇者殿。我等はアルテニア王女殿下を守護する近衛兵の身、殿下に、もしもの事が無きよう王様からの命にて、貴方様を監視せねばならぬ立場なのです」


近衛兵士長がルキアに対し説明するも、勝手に召喚された挙句、監視は無いだろとルキアは兵士長に食ってかかる。


「ですが、我等も任務故の事ですからな仕方がありません」


「正直納得がいきませんが……分かりました。このまま王様に謁見すればいいんですね?なら、案内の程よろしくお願いします」


ルキアに、この場で拒否されよう物なら王命に逆らった罪で斬首もある身だった兵士長は一先ず安心したからか、肩の力を抜く。


その様子を見ていたアルテニアが不敵に微笑んだことには、まだ気付かずにルキアは兵士達に囲まれながらもアルテニアの後に付いて王の謁見場所へと辿り着いた。


謁見場所は見た感じ金に物を言わせた豪華絢爛を言葉にした内装と金をこれでもかと使った服や王冠を身につけた初老の貴族が立ち並ぶ中


玉座ではなく、女の奴隷の上に腰を降ろす王が居た。余りにも重い為か女の奴隷の手足はガクガクと揺れていたが


「この程度で音を上げるとは使えぬ椅子だ。おい、代わりの椅子を今すぐ用意しろ!この不良品は廃棄処分とする。連れてゆけ」


「そんな、お……お待ちを私ならまだ大丈夫ですから廃棄だけは、廃棄だけはぁぁぁぁぁぁ嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


兵士に髪の毛を引っ張られ引き摺られる形で謁見場所より退室させられる女奴隷。


それを見ていたルキアは正直、何が起きたのか分からずアルテニアに聞く。


「アルテニア、さっきの奴隷は一体……」


「ああ、あの奴隷ですか?この国は人族完全主義の国。亜人や身分の低い生まれながらの弱者は、あのように奴隷に身を置くしか生きる術がありません。それも、使えなくなれば魔法で燃やし処分するだけですが」


この国の実態を聞いたルキアは胸糞悪くなったが、その場より逃げ出そうにも周りを近衛兵に取り囲まれている為に逃げ出せない。


「そやつが、異世界から召喚したとか言う勇者か?アルテニアよ」


王がアルテニアに対しそう聞くと賛同するかのように首を縦に頷く。


「はい、お父様。こちらに居られます方が異世界より召喚した勇者。名をルキア様と申します。」


「ほう?して、その勇者の実力の方は如何な物なのだ王女よ?」


「それについては、これからお見せする形になりましょう。使えない勇者であるならば、奴隷同前として扱えば良いだけですし」


アルテニアがそう言うと、兵士長に頼み闘技奴隷の1人を連れてくるよう手配した。


「まさか…あのオーガを宛てがうつもりですか?幾ら何でも勇者様が危ないのでは……」


「あら?勇者様の力を知る機会なのですよ?オーガ如きに負けるようでは御話になりませんわ。私達が倒すべき相手は、魔界を支配している魔王なのですよ?」


アルテニア王女が兵士長に対しそう言うと周りに居た貴族達も口を揃え「そうだ!そうだ!」と王女の発言に賛同する。


「分かりました……オーガの女剣士アイカを連れて参ります」


兵士長は一礼すると謁見場所から立ち去り闘技奴隷がいる牢屋へと急ぎ向かう。


「いきなり、オーガと戦えなんて聞いてないぞ!!どういう事だ」


ルキアはアルテニアに対し食ってかかるが。


アルテニアは、まるで虫でもみるかのような目でルキアを見て「勇者ともあろう御方がオーガ相手に逃げるとでも?」と口を開く。


もう、逃げ出せないと悟ったルキアは


「この謁見場所で闘うのか?」とアルテニアに対し聞くが「まさか、闘う場所は別に用意してあります」とのアルテニアの声を最後に取り囲んでいた兵士に連れられ闘技場へと案内される。





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