第123話 第三者視点6
「そ、それだけはどうかご勘弁を! アンリエット...いや、アンリエット様!」
地面に額を擦り付けて惨めに懇願するパトリックの姿に、アンリエットは冷めた視線を送りながらこう続けた。
「だったら金輪際、私の前に現れるんじゃない! 我が領地にも立ち入り禁止! それを破ったら今度こそとことん追い詰めてやる! 分かったらとっとと失せろ!」
「は、はい! 直ちに!」
脱兎の如く逃げ出して行ったパトリックを一瞥したアランは、
「お嬢、アレで良かったの? ちょっと甘過ぎない?」
「いいのよ。さっきは怒りと勢いに任せてああ言っちゃったけど、冷静になってみたら一つの貴族家を取り潰すのって結構大変な労力を使うってことに気付いたからね。それに子爵領の領民達にはなんの責任もない訳だし、領主が代わることで苦労を掛けるのは申し訳ないなって思ったから」
「なるほど~」
「あれだけ言っておけばもうちょっかい出して来ることもないでしょう。さぁ、アラン。今度こそ衛兵を連れて来てちょうだい」
アンリエットはまだ地面に踞ったままの破落戸共をチラッと見ながらそう言った。
「了解~」
◇◇◇
一方パトリックは、這う這うの体でアンリエットの前から逃げ出した後、収まり切れない怒りを抱えて別荘に住むマーガレットの元に赴いた。
「やい、マーガレット! 貴様、なんてことをしてくれたんだ!」
怒鳴り込んではみたものの、マーガレットの姿はなく別荘の中はガラーンとしていた。マーガレットのために揃えてやった調度品や、元からあった家具や美術品などもすっかり消えていた。
「な、なんだこれは!? おい、マーガレット! 一体どうなっているんだ!?」
何度呼び掛けてもマーガレットが姿を現すことはなかった。
「さてはあの淫売逃げやがったな! なんて女だ! これまで散々良くしてやった恩を仇で返しやがった!」
パトリックは怒りに任せて壁を蹴り付けた。
「あっ! 痛っ! 畜生!」
その時、足の痛みに顔を歪めるパトリックの耳にか細い子供の泣き声が届いた。
「な、なに!? ま、まさか!?」
泣き声を頼りにパトリックは一つの部屋のドアを開けた。子供部屋として使われていたらしいその部屋のベッドの上で、マックスは一人泣き続けていた。
「ママ~! ママ~! どこ行っちゃったの~!」
「お、おい、マックス! ママがどうしたって!?」
「あ、パパ! あのねあのね、ママが知らない男の人と出て行ったっ切り戻って来ないの~!」
マックスが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を擦りながらそう言った。どうやらマーガレットは子供を置き去りにして男と逃げたらしい。
泣きじゃくるマックスをあやしながら、パトリックはこれからどうしたらいいのか途方に暮れてしまった。
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