第84話
ハンスに案内されてリビングで寛ぐ。
紅茶を飲みながら私は、領地に来るまでにあった出来事をハンスに話した。
「そうでしたか...ウィリアム殿が...困ったもんですな...」
「相変わらずみたいね」
私は苦笑しながらそう言った。
「えぇ、ただし彼もそろそろ真面目にならないとダメでしょうな」
「そりゃそうでしょ。私と同い年なのよ? いつまでもフラフラしてる場合じゃないでしょ?」
「えぇ、もちろんそれもありますが、それだけではなく尻に火が付いたとでも申しますか」
「それってどういう意味?」
「先日、ヘンダーソン子爵家は正式に代替わりされました」
「えっ!? それじゃあパトリックが家督を継いだの?」
「おっしゃる通りでございます」
パトリックとはウィリアムの兄のことだ。私がウィリアムと、兄のロバートがパトリックと同い年だったということで、幼い頃は良く四人で一緒に遊んだりしたものだった。
「それにしたって随分早いわね? 先代のヘンダーソン子爵ってまだ隠居するような歳じゃなかったでしょう?」
「左様でございます。ですから正確にはパトリック殿が、先代様を無理矢理に隠居させたと言った方が正しいかと」
「なんでまたそんなことに?」
「ウィリアム殿のあまりの放蕩振りに業を煮やしたパトリック殿が、ウィリアム殿を甘やかしてばかりの先代様を追い出したと言うことです」
「あぁ、なるほどね...それはまた...あ、だからさっきウィリアムもそろそろ年貢の納め時だって言った訳ね?」
「左様でございます」
パトリックはウィリアムと違い真面目な人だ。それは昔からそうだった。一緒に遊んでいた時も、すぐにハシャイでハメを外して調子に乗ってしまうウィリアムのことを、お兄ちゃんとして良く窘めたりしてたっけな。
そのウィリアムの被害に遭っていたのは主に私だった訳で、助けてくれたパトリックに淡い恋心を抱いていたりしたものだった。思えばアレが私の初恋だったのかも知れない。
そんなパトリックが家督を継いだというのなら、確かにウィリアムもこれまでのように遊び回っているという訳にはいかないだろう。
「なら昨日のウィリアムは、ひょっとしたら最後の女遊びを楽しんでいたのかも知れないわね」
「そうかも知れませんな。お嬢様のお話を伺う限りだと、その女はどうやら商売女のようですから」
「まぁ、私には関係の無い話だわ。あぁ、そうそう。もしかしたらウィリアムが私を訪ねて来るかも知れないけど、私は居留守ということでお願いね? 顔を合わせたくないから」
「畏まりました」
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