第76話
「ちょ、ちょっと! 受け取れないわよこんな大金! 持って帰ってよ!」
「アンリエットならそう言うと思ってたわ。でも一応は報告しておこうと思って。要らないなら教会にでも寄付しようかと思ってるんだけど」
「そうして頂戴。とにかくもう関わりたくないから」
「分かった。帰りにでもそうするわ。ところで...」
エリザベートは居住いを正しながら、
「アンリエット、あなたこれからどうするつもりなの?」
「そのことなんだけどね...兄が家督を継いでくれるって言うから、私は兄に引き継ぎと教育を施した後、領地に引っ込もうと思っているねよ」
「そうなのね...寂しくなるわ...」
「それでね、エリザベート。ちょっとお願いがあるのよ」
「なに? なんでも言って?」
「兄を支えてくれるような出来たご令嬢を誰か紹介して貰えないかしら?」
すると途端にエリザベートの顔が曇った。
「それは...今からだと難しいと思うわよ...」
「やっぱりそうよね...」
私とエリザベート、そしてもう一人の友人であるケイトリンは同い年。去年学園を卒業して今年19歳になる。
エリザベートにもケイトリンにも当然ながら婚約者が居る。二人とも今は花嫁修行の真っ最中だ。
貴族の家に娘として生まれた以上、婚姻を結ぶのは謂わば義務だとも言える。政略目的の駒として扱われることもやぶさかではない。そう言った場合、大体は学生の内から婚約者を決めてしまう。
エリザベートとケイトリンもご多分に漏れず、早い内から婚約者が決まっていた。高位貴族の令嬢になればなる程、そう言った傾向は顕著になる。かく言う私だってそうだった。
対して婚約者がまだ決まっていない令嬢達は、より良い条件の男を捕まえようと学生時代に必死になって婚活する。
なにせ貴族令嬢の結婚適齢期は10代の内と言われているからだ。それが過ぎると行き遅れというレッテルを貼られてしまう。
つまり今も残っている令嬢というのは、なにかしら訳有りで行き遅れた者だけということになるのだ。とてもじゃないが良縁は望めまい。
「お兄さんって幾つだっけ?」
「私と5歳違いだから今年24歳よ」
「そう。ずっと病気療養中だって聞いてだけど、元気になって良かったわね。でもなんであんなアパートに住んでたの? 領地に居るもんだとばっかり思ってたわ」
「それな...実はね...」
私はエリザベートに兄の秘密を打ち明けた。
「えぇっ!? あ、あのベストセラー小説家『ジョン・ドウ』がアンリエットのお兄さん!? ウソでしょ~! 私、全ての小説読んでるわよ! 大ファンよ! サイン! サイン頂戴!」
「お、落ち着いて...」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます