第75話
「ハァ...全くあの男は...アンリエット嬢、最後まで迷惑を掛けてしまって本当に申し訳ない...モリシャン侯爵は僕が引き取るよ。二度とアンリエット嬢の前に現れないと約束させるから安心してくれ」
「助かります」
ソファーから立ち上がったクリフトファー様は帰り際、
「その...君の気持ちが落ち着いてからでいいんだが...また会いに来てもいいだろうか...」
そう言ってまるで捨てられた子犬のような顔をするから、ほんの少しだけ胸がチクッとした。だがそれを悟らせることなく、私はただ黙ってゆっくりと首を横に振った。
「...そうか...」
クリフトファー様はそれだけ言うと寂しそうに俯きながら客間を後にした。
◇◇◇
クリフトファー様が帰った後、気疲れした私はドカッとソファーに倒れ込んだ。これでクリフトファー様とは全ておしまい。そう思うと胸にこみ上げてくるものが多少はあったが、それをグッと耐えてなんとか飲み込んだ。
「アンリ、お疲れ様。お見事だったよ」
兄が客間に入って来て頭を撫でる。普段なら「いつまで子供扱いしてんだ!」と怒る所だが、今は兄の優しさがありがたかった。
「兄さん、ありがとう...」
されるままになっていると、なんだかホッとして眠くなって来た。結局、そのまま私はソファーで眠りこけてしまったらしい。
起きたら昼過ぎだった。
「お腹空いた...」
◇◇◇
翌日、エリザベートが訪ねて来た。
「エリザベート、いらっしゃい」
「アンリエット、元気そうで良かったわ」
「クリフトファー様から聞いてる?」
「えぇ、聞いたわ...あなたが私の義姉になってくれないのは残念だけど、こればっかりは仕方のないことよね...」
「えぇ、ごめんなさいね...」
エリザベートは本当に残念そうだ。少しだけ居た堪れない気持ちになる。
「その...私が聞くのもどうかと思うんだけど...クリフトファー様の様子はどう?」
「憔悴し切っちゃって見る影もない様子よ」
「そう...申し訳なかったかしらね...」
「いいのよ、自業自得なんだから。放っときゃ勝手に元気になるでしょ」
エリザベートは兄に対して割と辛辣だ。
「ならいいけど...」
「あれでも公爵家の嫡男だからね。そんなヤワに育てられちゃいないから心配しなくても大丈夫よ。それよりも、はいこれ」
そう言ってなにやら大きな紙袋を渡して来る。
「なにこれ!?」
「昨日、モリシャン侯爵が来たんですって?」
「えぇ、ちょうどクリフトファー様が居た時だったんで追い返して貰ったけど」
「その時に無理矢理慰謝料を押し付けて帰って行っちゃったらしいのよね。数えたら1000万入ってたわ」
それを聞いて私は目を丸くした。
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