第73話
翌日、朝食を終えた辺りでセバスチャンが来客を告げに来た。
「お嬢様、その...クリフトファー様がいらっしゃいました」
「もう? 随分早いわね? 客間にお通しして頂戴」
「畏まりました」
「アンリ、俺も同席しようか?」
兄が心配そうな顔をしてそう言って来た。気持ちは嬉しいが、
「私一人で大丈夫よ。それにクリフトファー様の顔を見たら、また兄さんは殴ろうとするんじゃないの? そんなことしたら、さすがに今度こそ問題になるわよ?」
既に問題になっている可能性はあるが、エリザベートも問題ないって言ってくれたんで大丈夫だと思いたい。
「いやいや、さすがにもうあんな大人気ないことはしないさ。会って直接お詫びもしておきたいんだよ」
「それなら私から謝っておくから心配しないで?」
「...分かった。済まんが頼む。だがなんかあったらすぐに呼ぶんだぞ? 扉のすぐ外に控えているからな?」
「えぇ、分かったわ」
兄の庇護欲は今日も全開のようだ。
◇◇◇
客間に着くと憔悴し切った顔のクリフトファー様が居た。寝てないのか目の下に酷い隈が見て取れる。兄に殴られたという頬の腫れは引いているようで一先ず一安心だ。
「クリフトファー様、お待たせしました」
「...アンリ...その...」
クリフトファー様がなにか言い掛ける前に先に謝っておく。
「昨日は兄が大変失礼な真似を仕出かしてしまいましたようで。誠に申し訳ございませんでした。平にご容赦下さいませ」
「えっ!? あ、あぁ、そんなことはどうでもいいんだ...」
そう言って貰えてホッとする。
「ありがとうございます。それでクリフトファー様からのお申し出に関してですが」
ここで私はいったん言葉を切って、クリフトファー様の瞳をじっくりと見詰めてから、
「謹んでお断り申し上げます」
とハッキリ口にした。
それを聞いたクリフトファー様は下を向いて俯いた後、蚊の鳴くような声でこう言った。
「...それは...今回の件があったから?」
「まぁそれも一因ではありますが、そもそも今回の一件がなかったとしても、私はお断りするつもりでしたよ?」
「...理由を聞いても?」
「まず第一に、国王陛下並びに王族の方々がいらっしゃる席で婚約破棄騒動をぶちかましたんですもの。私は社交会から傷物として認定されてることでしょう。それだけでも公爵家の嫁として相応しくないと思います」
そこで私は頬の傷を指差して、
「更に二重の意味で傷物になっちゃいましたからね」
そう言った途端、クリフトファー様の顔が苦し気に歪んだ。
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