第57話 クリフトファー視点3

 僕は国王陛下の前で醜態を晒すギルバートとキャロラインを見ながら、心の中で「お見事!」と喝采を送っていた。


 ほとんど最初の頃から関わっていた僕は、手伝えることがあったらと思って脇に控えていたが、出番は全く回って来なかった。


 それくらい鮮やかな断罪劇だった。


「アンリ、お疲れ様」


 そう言って僕はアンリエットの手を取った。


「一曲踊って貰えるかな?」


「えぇ、喜んで」


 これでようやくアンリエットを僕のものにすることが出来る。もう囲い込みは万端。後はアンリエットの返事待ち...になるはずだったのに...



◇◇◇



「なに!? それは本当か!?」


「えぇ、確かにモリシャン侯爵家のスカーレットと申しておりました。約束もしてない上、明らかに挙動不審だったので不審者だと思い、追い返しましたが問題なかったでしょうか?」


 ある日、用事があって外出していた僕が帰宅すると、門衛から僕に来客があったことを聞かされた。


 この門衛は雇い始めてまだ日が浅い。僕とスカーレットの関係を知らないからこそ塩対応が可能だったのだろう。その点は良かったかも知れない。


「いや問題ない。ご苦労様。また来たとしても、今後も同じ対応で構わないからな。念のために聞くが、僕の行き先を漏らしてはいないよな?」


「もちろんです。そもそもクリフトファー様の行き先を知りませんでしたし」


「分かった。下がっていい」


 しかしまさかスカーレットがやって来るとは...一体どういうつもりだ!? 今更なにをしにやって来た!? 


 嫌な予感がした僕は御者に命じた。


「戻って来たばかりで済まんが、アンリエットの屋敷まで行ってくれ」


「畏まりました」


 その嫌な予感は的中することになる。


「なに!? スカーレットが来てるだと!?」


「はい。只今お嬢様がお相手されております。私はお止めしたんですが...」


 アンリエットの屋敷に着くなり、セバスチャンが苦しそうにそう告げた。僕は気付いたら走り出していた。


「アンリエット! 大丈夫か!?」


 ノックもせず客間に駆け込んだ。


「えっ!? クリフトファー様!?」


 良かった...無事だったか...だが胸を撫で下ろす暇もなく、


「まぁ、クリフ! 嬉しいわ! 私に会いに来てくれたのね!」


 そう言って涙を流しながらスカーレットは僕に抱き付いて来たのだ。


「触るな! 汚らわしい!」


 僕はスカーレットを突き飛ばした。


 この女、なんのつもりだ!? よりによってアンリエットの目の前で僕に抱き付くなんて!


 僕は怒りに震えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る