第43話 第三者視点

 ギルバートは紹介を受けた娼館に向かった。


 客としてなら何度も娼館通いをしたことのあるギルバートだったが、働くのはもちろん初めてのことだ。


「この娼館には来たことなかったなぁ」


 娼館を見上げながらそんなことを呟いていると、


「すいません、お客様。当店の営業時間は夕方からになりますので、もう少し時間が経ってからお越し下さいませんでしょうか?」


 呼び込みらしき男に話し掛けられた。


「あぁ、違います。僕はお客じゃないです。職業斡旋所からの紹介でここに来ました。これ紹介状です」


 すると呼び込みらしき男はコロッと態度を変えた。


「なんだぁてめえ! 客じゃねぇのかよ! チッ! 紛らわしい真似しやがって! 新入りか!? だったら表じゃなくて裏に回りやがれ!」


 そう言ってシッシッとばかりにギルバートを追い立てた。裏に回ったギルバートは、顔にいくつもの傷痕が残る強面の男に引き合わされた。


「職業斡旋所から話は聞いてる。お前が新入りか。付いて来い。仕事の説明をする」


 男に付いて行くと店の中を案内してくれた。


「お前も娼館くらい利用したことがあるだろうから分かると思うが、ここが客の控え室になる。まずお前がやることは、女の子を待っている客に酒や煙草を給仕することだ。ここまではいいな?」


「は、はい!」


「次に部屋の掃除だ。前の客の情事の跡が残らないよう、隅々までしっかり掃除しろ」


「分かりました!」


「基本はこの二つだ。酔っ払いや態度の悪い客に対する対応などは追々教えてやる。荒事にもある程度は慣れておけ」


「が、頑張ります!」


「それと最後に、店の大事な商品である女の子に手を出すのはご法度だ。良く覚えておけ。破ったらチョン切るからな」


 何を!? とは怖くて聞けなかったギルバートは、ただ黙って何度も何度も頷いていた。


 その時、店の外が騒がしくなった。 


「な、なんでしょう!?」


「あぁ、今日新しく入る女の子が連れられて来たみたいだな。お前も付いて来い。顔合わせをしておく」


「わ、分かりました!」


 歩きながら男が説明する。


「なんでも元貴族のご令嬢らしいぞ? 金で売られたんだとか。貴族も色々と大変なんだな」


 自分も元貴族なんですとは言えないギルバートだった。


「離して! 離してよ~! 娼館なんて嫌よ~!」


「えぇい! いい加減大人しくしやがれ!」


 店の外に近付くに連れ、聞き覚えのある声にギルバートは思わず走り出していた。


「きゃ、キャロライン!?」


「ぎ、ギルバート!?」


 真実の愛を誓ったはずの二人は、最悪な場所での再会を果たしたのだった。

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