第6話
「アンリエット、今ちょっといいかな?」
そんなことを考えていたら、ホントにギルバートがやって来た。私は笑いを堪えるのに苦労しながら、平静を装おって返事をする。
「あら? どうしたの?」
「あ、あぁ、うん...さっきの舞踏会の件なんだけどさ...参加する上でその...色々と物入りと言うか...だからその...出来れば少し融通してくれたら助かるんだけど...」
物入りか。確かにそうだろうな。小説通りに進めたいならどうしても必要なアイテムがある。
キャロラインに着せるための清潔感溢れる白いドレスだ。
小説では主人公がヒロインに贈ることになっている。主人公は本当はヒロインをエスコートしたいのだが、婚約者である悪役令嬢を蔑ろにする訳にも行かず、泣く泣く悪役令嬢の方をエスコートすることになる。
だからせめてドレスくらいは贈りたいと、ヒロインに白いドレスをプレゼントする。自分以外の誰にも染まって欲しくないという願いを込めながら。
それを着て舞踏会に訪れたヒロインに主人公は夢中になり、婚約者を放ってダンスを申し込む。まるで恋人同士のように息の合ったダンスを披露する二人に、会場中からため息が漏れる。
当然悪役令嬢は面白くない。主人公がヒロインからちょっと離れた隙を狙って、赤いワインをヒロインの白いドレスにぶっ掛ける。良い気味だと高笑いする悪役令嬢と泣き崩れるヒロイン。そこに主人公が駆け付けて...
大体こんな感じだ。だから白いドレスは必須なのだ。
「しょうがないわねぇ。また無駄遣いしてお小遣いが足りなくなったんでしょ?」
「うっ! も、申し訳ない...じ、実はそうなんだ...」
「今回だけよ?」
「あ、ありがとう! アンリエット、恩に着るよ!」
こちらこそありがとう。目論見通りに踊ってくれて。
◇◇◇
そして舞踏会当日。
私は早目に会場に着いて物陰に身を潜める。開始時間が近付くにつれ、参加者が続々と会場入りする。
やがてギルバートが当然のようにキャロラインをエスコートしながらやって来た。キャロラインは白いドレスを着ている。
予定通りだ。私は物陰に隠れながらピエロを演じる二人を嘲笑った。
舞踏会の開始時間になった。
◇◇◇
私は音楽が奏でられダンスがスタートしてから、目立たないようにコッソリと会場入りした。
すかさず壁の花になりながら、ギルバートとキャロラインの姿を探す。二人はダンスフロアの真ん中辺りで堂々と踊っている。
それを確認した私は、扇子で顔を隠しながらそっと目薬を注す。婚約者を他の女に取られて壁の花に追いやられ、悲しみに暮れてそっと涙を流す。
という体を装おいながら。
さてどうなるでしょうか?
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