第6話

 己が不甲斐ないせいで初夜はクラウディアを泣かせただけで、何も出来なかった。

本当に情けないと思う。


 そのせいで陛下の命令が下った。


『一ヶ月』という期限内に初夜を無事完遂させなければ離婚させられ、クラウディアは弟のキースレクスと再婚させるというものだ。


家族しかいないプライベートサロンでの話だから、王命というよりは、尻を叩かれたようなものだと思っている。


だからといって甘く考えていると本当に廃妃論が出たり、第二妃、第三妃を娶れという貴族からの圧力が掛かってくるのも確かだ・・・。


 私がクラウディアに対して嫌っているとまで思われていることを何とか早急に払拭し、本当の思いを理解して貰わなければ、この先の私たちの仲はいい関係が築けない。


巻きで攻めて行くしかないな・・・。


 そう決意したアレクシスは王城の執務室に立ち寄り、早急に処理の必要な書類仕事をこなし、重要な案件のみ進捗状況の報告を受けると、午後には帰宅した。


新婚なので三日間は政務を免除して貰っているが、この三日が過ぎれば直ぐさま地方視察などの出張が予定されているため、少しでも仕事を進める必要があった。


 東の離宮へ戻ると、クラウディアと執事のエドモンドに出迎えられた。


今までと違いクラウディアに出迎えられるのもいいものだとにやけそうになるのをぐっと抑える。


「「お帰りなさいませ。」」


「うむ。エドモンド、変わりはないか。」


「はい。ございません。

本日は奥方様にこのお屋敷にお仕えするもの達をご紹介させていただきました。

これからお屋敷内をご案内させていただくところです。」


「そうか。屋敷内の案内は私が代わろう。エドモンドは通常業務へ戻ってくれ。」


「かしこまりました。」


 クラウディアと二人きりになると、左の腕を横にくの字に曲げて待つ。

気が付いたクラウディアが腕にそっと手を添える。屋敷内デートだ。


 五階建ての屋敷を最上階から案内する。五階は主に図書室や会議室、学習室がある。四階は使用人たちの部屋。三階の東側は第二妃、西側は第三妃の住まいになるが使うつもりはない。二階が私たち夫婦の生活の場となる。因みに二階には王太子妃にも執務室が与えられている。一階は大広間や大食堂、サロンやプレイルーム、来客用の部屋がある。屋内の案内をあらかた終えると、屋外へ出て庭園や温室へ向かった。


 自慢のピンクの薔薇園を見せたら喜んでくれるだろうか?

後で屋敷内へ戻ったらプレイルームでビリヤードでも教えながらキャッキャうふふをやってみようか。などと考えていたら、伏兵が現れた。


「兄上!」


「なんだ、キースか。」


「クラウディア様、こんにちは。

昨日のクラウディア様の婚礼衣装姿、とても美しかったです!

まるで天上から舞い降りた女神のようでした!

またあの衣装を着て見せて下さい!

わたしのために!!」


「こんにちは。キースレクス王子。褒めていただいてとても嬉しいですわ。

でも婚礼衣装を何度も着るのはいいことではございませんわ。ふふっ。」


「そうだぞ、キース。何しに来た。」


「久しぶりに、剣のお相手をしていただこうと思いまして。」

チラッ。


「わたしもだいぶ腕を上げてきました。」

チラッチラッ。


「そろそろ兄上にも勝てるかも知れません。」

チラッチラッチラッ。


人の妻をチラチラと見るんじゃない。


しかも今までは「稽古をつけて下さい。」と言っていたのに今日に限って「お相手」ときたもんだ。

更に勝つ気でいやがる。


 この年頃の少年が妙に気が大きくなる時期がある。

私にも身に覚えがある。


それは成長に合わせて剣の刀身を長くしたものをあつらえた時だ。もちろん訓練用の模擬刀も含めて。大人に近づいたような気がして急に強くなった気がするものだ。


 はぁ、面倒くさい。キースも確かに上達してるし、体力もついてきた。こう調子づいている時が一番要注意だ。怪我をさせずに手加減するのも神経を使う。


「わかった。では裏庭の鍛錬場へ行こう。クラウディアはどうする?」


「クラウディア様も是非、強くなったわたしを見ていて下さい!」


舌打ちしたい気持ちを抑えた。




 案の定私が全勝した。

キースも上達していたので、努力したのだろう。

それに体格差でまだまだキースの方が不利だ。


「鍛錬を積んだのであろう。上達している。」


キースは尻もちをついたままふて腐れている。


「前に見た時よりかっこよくなっていて、驚きましたわ。」


クラウディアがキースの背中の砂埃を払っている。

キースが嬉しそうだ。


「必ず、兄上よりも強くなって見せます。クラウディア様、兄上との結婚がうまくいかなかったらわたしと結婚してください。」


クラウディアは驚いたように目を瞬かせている。


「まぁ。キースレクス王子には年上の私ではなくて、お似合いの可愛らしいご令嬢が必ず見つかりますわ。」


「キース、夫のいる目の前で堂々と人妻を口説くんじゃない。」


「夫のいないところで口説くと間男となってしまいます。わたしは堂々と口説きます。」


誰だ、キースに変な事を吹きこんだのは。


「どちらにしても間男には変わりはないぞ。」と言ったがまったく聞いておらず、「また来ます!」と元気よく帰って行った。


もう来ないで欲しい。

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