新婚王太子はようやく妻を上手に愛せるようになりました【改】
斉藤加奈子
第1話
今日はグランディーレ王国の王太子、アレクシス・グランディーレと王国一美しいと評判の侯爵令嬢、クラウディア・エレフィエントの結婚式が挙げられた。
アレクシスとクラウディアは、早朝から婚礼衣装の着付けをし、神殿関係者の挨拶を受ける。
諸外国の王族や重鎮、国内の名だたる諸貴族が招待され、王都の中で最も格式高い神殿での挙式が執り行われた。
挙式の後は王城へ移動。
王城のバルコニーへ出て王族が並び、中央には新郎のアレクシス王太子、その隣には新婦のクラウディア王太子妃が並び、集まった国民の歓声を浴びながら手を振る。
そして夜は招待客を交えての祝賀晩餐。
忙しない一日も恙なく終わり、アレクシスは安堵の表情で自室に戻った。
自室に戻ると既に湯の支度が整っていた。アレクシスは早速湯浴みをすると、いつもより念入りにあちこち洗った。
口内も丁寧に磨き、ミントの葉を浮かべたグラスの水を口に含む。
寝着に着替えるといつもより胸のボタンを多く開けようか閉めようか悩み、いつも通り二つ開ける。
このまま夫婦の寝室へ向かってもいいのか、もう少し後にしようかと落ち着かない様子でしばらくウロウロしていた。
ふと、気持ちを落ち着かせようと手に何か持っていたくなったアレクシスは、なぜか書机の上に置かれていた分厚い法律書を小脇に抱えた。
そして自室から夫婦の寝室へと繋がる扉を開ける。
新居となったここは王太子の住まう東の離宮。
前王太子と前王太子妃(現国王と現王妃)が住んでいた城である。
アレクシスは立太子と同時にここへ一人で移り住み、新たに妃を迎えるにあたり大規模に模様替えを行った。
一昔前の流行だと思われる大柄の幾何学模様と花や鳥、植物のモチーフを組み合わせ金、銀、朱や紺などの色をふんだんに使った、言葉は悪いが『ゴテゴテした装飾』は取り払われ、これから住まう若い夫婦に合うよう、シンプルながら繊細な趣向を凝らした意匠の天井、壁、絨毯、調度品から建具まで一新した。
アレクシスが寝室の扉を開けると真新しく一新された室内は仄暗く、揺らめくランタンの灯りに囲まれ、ほんのりと橙に染まったクラウディアが佇んでいた。
化粧は施していないであろう顔は、十七才という、成人でありながらも少し幼さを残しつつどこか艶めかしい。
蜂蜜色の艶やかな髪は緩やかにまとめられ、少しでも触れてしまえば直ぐにでも解けてしまいそうなほど。
絹の柔らかな寝着は胸元は緩く、なだらかな曲線を描くクラウディアの躰を包んでいた。
アレクシスは目のやり場に困りながらも声をかける。
「先に来ていたのか・・・。」
「はい。・・・何か・・・お飲みものはいかがですか?」
クラウディアはにこりと微笑む。
長椅子の近くにある飾り棚を見やれば、ポットやティーセット、いくつかの洋酒やグラスが用意されていた。
「ああ。貰おうか。」
「洋酒と紅茶、いかがなさいますか?」
「紅茶を。」
「私の母が父のために淹れる紅茶があるのですけど、体が温まるそうです。
紅茶に洋酒を一匙と蜂蜜も一匙入れてかき混ぜたものなのですが、いかがでしょうか?」
「ではそれを貰おうか。」
アレクシスは長椅子に深く座り、脚を組むと持っていた法律書を適当に開いた。
しかし本の内容は全く頭に入ってこず、傍らでクラウディアがカチャカチャと紅茶を淹れる音ばかりを聞いていた。
「どうぞ、母直伝の紅茶ですの。殿下のお口に合うかしら。」
ふと視界が遮られたと思えば、紅茶をローテーブルへ差し出すクラウディアだった。
目の前を通り過ぎるのは何かを語るほのかに桃色の唇。
てらてらとランタンの灯りに照らされた横顔から首筋、白い肌に浮かんだ鎖骨。
アレクシスは思わず目が離せなかった。
クラウディアが視界から離れると、ふと風呂上りの石鹸の香りが鼻先をくすぐる。
バレないようにゴクリと唾を飲み込むと頭の方に血液が流れ込み、心臓がうるさいほど脈打つのを感じていた。
今日のクラウディアは本当に美しかった。もちろんいつも美しいが、婚礼衣装に身を包んだクラウディアはほのかに発光しているのではないかと思われる程、白く輝いていて眩しいくらいだった。
光沢のある白いドレスは首元まで繊細なレースが施され、スカートには豊かなドレープにその上を覆うレース生地。
腰回りにはチェーン状に連なった真珠をふんだんにあしらった大変美しい仕上がりで、クラウディアの美しさをより一層際立たせた。
う、美しい・・・。まるで女神だ。もうこのまま誰の目にも触れることなく、ガラスケースに入れてつれて帰ってしまいたい。
あぁ、私だけのクラウディア。
大切に、大切にすると心に誓う。
いやいや、誓うなら神に誓えよ。とツッコミたくなるクラウディアにベタ惚れのこの男。王太子であるアレクシス・グランディーレは少々残念な男であった。
婚礼衣装姿のクラウディアを見てガラスケースに入れてしまいたいとか言いながら、すでにクラウディアの1/6スケールの人形を秘密裏に注文し、婚礼衣装を製作した工房には人形に着せるための全く同じ意匠の縮小したドレスをこっそり作らせていた。
何ヶ月も前からガラスケースに入れる気まんまんだ。
黒髪、黒目で身長も高く、イケメンのくせにちょっと気持ち悪いこの男の話はまた後日に語らせて貰うことにしよう。
ローテーブルを挟み、アレクシスの向かい側の一人掛け用の椅子へクラウディアは座ると、アレクシスと同じ洋酒入り紅茶を先に一口こくりと飲む。
アレクシスも出された紅茶を手に取り、一口含んだ。
なるほど。洋酒の香りと紅茶の香りが合わさって、何とも芳しい。蜂蜜のほのかな甘さで飲みやすくなっている。などと考えながら正面に座るクラウディアを眺める。
クラウディアは「ほぅ。」とため息をつく。二口、三口と紅茶を飲み進めていくと徐々に首元から胸元にかけて紅潮していった。
その姿にアレクシスの押さえきれない衝動が理性を壊しそうになる。今すぐ飛び付いてしまいそうな気持ちを抑え、この後のことを考える。
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