第53話 「だから私は厨二病でも物書きでもありません!」
糸唯ちゃんの考える、今後の文芸部の方針。
まず、活動日数を大幅に増やすこと。
週に一回あるかないかのレベルじゃあお話にならないよね、というわけである。
次に、部誌の作成ペースを上げること。
部活動として何かしら残さなくちゃならない。文芸部といったらやっぱ部誌よね。
この二本柱で部活動が変わっていく。実にシンプルでわかりやすい。むろん、シンプルだから簡単というわけにもいかないけどね。
予想しえるような内容だったので、俺たちはその意向に賛成。
さらば、愛しのゆるゆる文芸部。君の出番はもうしばらくなさそうだ……。
改革を志してから、はや二週間弱が経つ。
糸唯ちゃんが元文芸部ということもあり、実にドラスティックな改革が実行された。
文芸部といえば小説、というイメージが強かったものだが。糸唯ちゃんによると、事実はいささか異なっていて、短歌や俳句をつくるのも一般的であるらしい。
小説を執筆した経験のない俺にとって、短歌や俳句という逃げ道があったということは、とてもありがたいことだった。
なんたって、読書感想文に苦戦していた口だ。物書きの方々、よく自分から原稿用紙何十枚分も書き連ねることができるよね。俺はいま、物書きに尊敬の念を抱いたよ。
そういうわけであるから、小説はパスして、短歌と俳句の道に足を踏み入れた。
文字数だけで言えば、圧倒的に小説より楽だ。たった数十字でいいんだ。
だからといって、簡単なわけではない。
文字数が少ないからこそ、どこまで言葉を削るのか、という問題に直面することになる。
あまりにも字余りになると、どこなみっともないものとなってしまう。
かといって短すぎるのも問題だ。
……結論、簡単な芸術などないのだ。
「せんぱい、俳句もろもろの調子はどうですか?」
しばし思考の海に潜っていたところを、三咲ちゃんが引き上げてきた。
「ぼちぼちだ。悪くないペースだな」
「まだ一作しかできていないようですけど……?」
「俺の俳句は、素晴らしすぎるがゆえに、紙に書くとなると、余白が狭すぎて書ききることができないんだよ」
「どこぞのフェルマーの最終定理ですか! とにもかくにも作品を書き出してください」
珍しく俺がボケてしまった。
そのくらい、俺にとっては、つくることが難しく思われるのだ。
「安心してくれ、頭の中では傑作ができあがってるんだ」
「思ってるだけじゃ伝わりませんよ、せんぱい。書き出して見ると、駄作だったりすることもありますよ。まあ私のは予想通りの傑作になりそうです!」
「例のエッセイか」
「はい!」
俺と違って、三咲ちゃんはエッセイを書いている。
彼女の下書きを何度か見せてもらったが、なかなか面白くて読みやすい文章だった。
「文章なんてさほど書いたことありませんよ〜」などと抜かしていたが、あれは素人にしては上手すぎるんだよ。部活改革がなされなかったら、その文章力は宝の持ち腐れになっていたことだろうよ。
「そろそろラストスパートか? 結構な分量書いてたし」
「いえ。私の構成ではまだ半分にすら達してません。これからなのです」
「そっちの都合はわかった。ただ、〝かがやき〟の紙面の都合っていうのもあるんだよ」
「むむむ……」
「まあ、俺からすれば好都合かもな」
我が
部誌には、当然枚数の縛りがあるのでうまく割り振らねばならない。
三人ということもあり、ページ数は例年よりも少なめになった。
三咲ちゃんの筆が乗っているといっても、この短期間で書ける量など高が知れている。仮に三咲ちゃんが今の分量の倍を書いたとしても、俺の担当しなくてはならないページ数は少なくないのだ。
「わかりました。これで私は書くのをやめて、せんぱいへの負担を増やすことにしましょう。いいですね、短歌は楽で」
「悪かったよ三咲ちゃん。好都合とかいったのは取り消します」
「ならよしです」
許してもらえて何よりだ。
「ともかく、せんぱいは怠けずにもっと作品をつくってください。アイデアが浮かばないとかいったり、どうせうまくないとか卑下したりしないでくださいよ? 下手な鉄砲も数打ちゃ当たりますから。それに何より、たくさん作品をつくってはじめて上手くなるんです!」
「やけに饒舌だな。三咲ちゃん、物書きだろ」
「……ッ!? いやいや、そんなことありませんよ。私が趣味で厨二病っぽいファンタジー書くとか、そんなちゃんちゃらおかしなことは断じてありません!」
そういえば、例のエッセイには変なフリガナが多用されていた気がするなあ……。
「厨二系物書きさんからのありがたい言葉をいただけてうれしいよ」
「だから私は厨二病でも物書きでもありません!」
……こんな口論をしている間にも、糸唯ちゃんは黙々と作業をしている。元文芸部は本領を発揮し、超速筆で作品を紡いでいっている。
なお、できあがってからのお楽しみということで、中身はみせてもらえていない。
二週間という時間を経て、我が部活は文芸部らしくなってきた。俺も三咲ちゃんや糸唯ちゃんには負けていられないッ!
唸ってもしかたない。アドバイス通り、一句くらい詠んでみようか。
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