第49話 「円花は将来いい上司になれそうそうだな!」
新たなライバルの出現!
それは、円花にとって無視のできないことであったはずだ。
三咲ちゃん、円花、騎里子、という三
というのも、糸唯ちゃんが強すぎるためである。
一時は円花が優勢であった。ヤンデレが抑制された彼女は魅力的であったし、不快感はさほどなかった。
しかし、糸唯ちゃんは円花に匹敵するほどの人物だったのだ。
転校生と結ばれたいというのが最初の目標であった。理想的な転校生(なお女子)がひとりではないのなら、事情は変わってくるのは自然なことといえよう。
かくして、円花の不利な状況ができあがったわけである。
それをうけ、円花は決断を下すこととなる。
「……私、決めました」
彼女がそう発言したのは、夕食の最中のことであった。さきほどから落ち着きのなかった円花は、このときになってようやく冷静になった。
「例の契約、取り消そうと思うんです」
「…… !」
例の契約、とはきっとあのことだ。わざわざ血判まで押して、取り決めごとを記したアレの内容に違いない。
円花はある程度の分別はついていたから、例の契約が枷となり、椅子拘束以上の行為を実行に移すことはなくなっていた。
それを取り消そうといいだしたものだから、俺は驚くしかなかった。
「本当に取り消されでもしたら、俺はこの家を出ていくぞ」
「そのときは地獄の果てまで追いかけますから安心してください」
「不安でしかないよ!?」
バックにいる財閥の力を使えば、俺を捜索することなど造作もないだろう。それが恐ろしい。全然冗談になっていないのだ。
「おい待て、そもそもさっきと話が違うじゃないか?」
「あれはさながらテストの作問ミスです。つまり、ノーカンというわけですね」
「円花は将来いい上司になれそうそうだな!」
「褒められると快感ですね。もっと褒めてもいいんですよ」
「皮肉でいってんだよ」
食べかけの白米を口に運び、水を飲み込んだ後、俺は続けた。
「……こうなることは想定内だったんだ。だからはっきりいわせてもらう。俺は円花の受け入れを容認するつもりはない」
「私に女性としての魅力はないと?」
「ないといったら嘘になるが、完全に肯定すると面倒なことになりそうな問いだな」
俺が契約破棄(?)を受け入れないことを悟ったらしく、しばしの沈黙を挟んで、ひとつの提案がいい渡された。
「わかりました、引き下がりましょう」
「話をすればギリわかりあえる相手でよかった」
円花は一瞬怪訝そうに
「それで、代わりといってはなんだけど……」
「代わり?」
「つまり、解釈を変える、ということです」
現在、俺が三回やめてというまでに円花が行動を止めなかった場合、罰則がいくようになっている。
取り決めた日から現在まで、この罰則が実行されたことはない。
「ゆーくんが三回拒絶するまでに仕留めれば私の勝利というわけで」
「あいにく俺は平和主義を信条にしているものでね」
「他の女の子に気を取られていては。成竹家は平和な状態から一転しますよ」
どうにもこうにも駄目そうである。
ここまでくれば、なにかしらの譲歩は必須となるに違いない。円花という人間が、頑固な性分も持ち合わせているということを、忘れるわけにはいかないのだ。
「まあ、とりあえず落ち着いてくれ」
「とっくに落ち着いてます。私を誰だとお思いですか? 白羽円花ですよ?」
「白羽円花はこんなときに落ち着けるものだろうか」
「ひどいですね」
「ともかく、だ。この際こちらも百歩譲ってみようと思う」
「本当ですか!」
瞳に生気が宿った。希望の光が差し込んで、円花の心を照らしたかのようである。
「ああ。円花はえらいんだ。ここまで紙切れ一枚でよく耐えたと思う」
まずは相手を立てることからはじめる。本題はここからだ。
「しかし、無制限に要求を飲むわけにもいかないよな」
「はい」
「だから、週に一度の特別デーを作ろうと思う」
「特別デー?」
これまでの方針と変えるのだ。はじめからガス抜きのタイミングを組み込んでおくのだ。
来る日も来る日も恐怖に縛られることの無いよう、あちらの要求を少しだけ飲もうというわけだ。
「その日は、なんでもある程度円花のしたいようにすればいい。ただし週に一回だけだ。それ以外はこれまでと変わらない」
「いま、なんでもっていいましたね?」
「ある程度ってのが一番大事なんだ」
「わかっています。それで。いつから?」
いつからにするか。
この制度を取り入れるというだけでも、円花にとっていいニンジンになったとは思うが。
「じゃあ、ためしにきょうにしてみるか」
「もう夜じゃないですか! ひどいです!」
「ならあしたにするか?」
「うぅ……でも、やっぱり特別デーが待ちきれないんです。なのできょうにします」
そうきたか、円花。
あしたといわれる前提でボールを投げたのだが、予想に反した返球がきた。
「よし、じゃあいまからはじm……」
瞬間、円花は立ち上がり、耳元に顔を寄せてきた。
「覚悟、してくださいね」
そう囁くと、彼女は妖しい笑みを浮かべた。
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