革命前夜
鏡も絵
1
プロローグ
――本当に私なんかのところに降りてきてくれるのかな。
「次、前に出て」
講師の声で、先に降霊した子と入れ違いに私は前へ出る。すれ違いざまのこと、無事に降霊できたその子は、自分の装備に宿った清廉な光と声に、顔を綻ばせていた。これからよろしく、と親しげに話す様子が羨ましくて、見ていられなかった私は目を逸らす。
神聖な場所の空気に圧迫されて、一歩一歩が痺れるように感じられた。重い。けれどその重みは、私を現実に縛りつけてはくれない。私の脳みそはこの状況に似つかわしくなく、ふよふよと漂っていた。自信のなさからくるものだ。思い描かれるのはいつだって哀れなシナリオ。
もしかしたら私のところには、誰も降りてこないのかもしれない。
世界に潜むあらゆる
私だってそれなりの覚悟と誇りを持ってここにいるのだけど、いざ目の前に立つと自信がなくなってくる。私はここにいていいのだろうか。願ってもいいのだろうか。お前なぞと嫌われて、誰も降りてくれなかったら。もしかしたら、本当に、誰も。
私は目を瞑り、祈るように手を合わせる。
いったいどれほどそうしていただろう。ふいに前髪が揺すられるのを感じた。けれど風が吹いたわけでも誰かが目の前にいるわけでもない。いや、見えないだけで、いるのかもしれない。ほとんど直感で――なにかが降ってきたのを私は察したのだ。
それは間違いではなかった。
素晴らしい裏切りだった。
空っぽだった私の甲殻に、卒倒しそうなほどのまばゆさが宿る。見たこともないほど温かな金無垢の光。ケーブルの繊維を伝ってぐんぐん充たされていく蜜のようなそれは、間違いなく、私なんかのところに降りてきてくれた精霊だ。
興奮に目を見開かせる。どくどくと興奮が波を打つ。私は、このときはじめて、今まであやふやだった心臓の位置を知った。星の子を散らすようなきらめきは清廉で、たった一目で魅了されてしまった。
感動で喉が痛い。口内ごといつのまにか乾いてしまったようだ。けれど、なにか言わなきゃ。せっかく来てくれたこの優しい精霊に、せめて挨拶だけでも。
私はごくんと、ありもしない唾を飲みこんで、慎重に口を開く。
「はじめまして。不束者ですが、これからよろしくお願いします」
喜びで胸が破れてしまいそうだった。
ああ。早く、貴方の声が、聞きたいなあ。
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