第27話 魔法ってなにさ
夢を見た。
「……だって? それが君の望み? 」
俺が何かを言っていた。
誰に、何を言っていたのか、全く思い出せない。
誰かに熱く、夢を語られた気がする。
「そうだ。その為に……が必要なんだ」
ノイズが走り、肝心な部分が掻き消される。
「そんな事言っても? 俺にはどうしようもないなー」
「そんな事は無いよ」
誰かが俺の肩を掴む。
同時に、俺の背後に黒い門が現れた。
「!? な、何すんだ!? 」
「言ったろう……が必要なんだ」
引きこもりで体力なんかない俺は、誰かに強く押されて抵抗も出来ず、その門に入れられる。
浮遊感、重力の影響をまるで感じさせない黒い世界。
「すまない。本当にすまない。だが、君の……は必ず使いこなしてみせるから」
「やめろ! 後悔するぞ! 」
「君の、紅禍獣命は僕が」
視界まで真っ暗に染まる。
辛うじて聞こえる誰かの声は反響を繰り返し、とうとう消え入って聞こえなくなり。
俺はそのまま、闇に呑まれて行った。
「ん、あ……」
立ちながら微睡む和也の頬を愛歌が引っぱたく。
「あいたっ!? なんで!? 」
「起きて下さい! 起きて……あ起きました!! 」
目を開けると、必死な形相の愛歌が和也を覗き込んでいた。
いつの間にか倒れてしまっていた和也は、立ち上がろうとして力が入らない身体に気付いた。
震えて、感覚が遠く感じる。
「カズヤ様!まず深呼吸を! 」
和也の肩を揺さぶり、落ち着かせようとルーリエが懸命に声をかけ続ける。
「えっちょ、何が? 何を? 」
「……今は落ち着いているようですね。何も覚えていませんか? 」
「え……? 」
辺りを見渡す。
愛歌は泣きそうな顔で和也に縋りつき、ルーリエは真剣な顔で和也の様子を見守っている。
数歩離れた所で、アークライトが白い炎を纏って立っていた。
背後が霞むほどの熱量、目は完全に平時から切り替えられた人を殺せる目をしている。
多分、最後の安全装置として立っていてくれたんだろう。
「覚えてないです……」
「そう、ですか。まず、順を追って説明致します。カズヤ様は儀式の途中、契約に和也様の項目を盛り込んだ辺りで気を失いました。その後……魔力を突然放出し始め……」
「え」
「危うく、空間が耐えきれず大爆発を起こす所でした」
「え……ご、ごめんなさい……? 」
「今は、特に異常ありませんか? 魔力に変化は? 」
和也は胸に手を当てたり、頭を抑えたりしてみる。
特に変わった所は無いように思えた。
「ないです……というか魔力と言うのがそもそも、よく分からない……」
「魔力が……? あれ程の量を保有していて? 」
ルーリエは心底信じられない、という顔で和也を見る。
そんな顔せんでも、と悲しくなった和也がアークライトを見た。
無言で説明を求める。
「……はぁ。カズヤ、魔力を持ち魔法を使えるお前が、魔力を感じ取れん訳が無かろう」
「あの、魔力ってみんな言いますけどよく分からない……」
「ん?……触れただけで殺すあの黒いモヤがあるだろう」
「あれ、魔法じゃないんですよね。何と言うか、死という概念にとりあえずの形を与えてあげただけと言うか……」
「よく分からんな……」
紅禍獣命は魔法もその源となる魔力もない世界で発生した。
在るべくして在る、即ち神である。
魔力という資源があり、それを利用する技術を体系化したこの世界特有の魔法とは全く別の物であった。
和也の居た世界に例えれば、どちらかと言うと科学に近い。
「あの光は……」
怪我を治し、活力を与え、土地を甦らせる謎の力。
和也が魔王であると、魔物らが確信するこの力は魔法なのだろうか。
そのまま口に出そうとして、魔物と人類の怨恨を思い出す。
もし、魔物達だけでなく、アークライトやエール皇帝までも和也の事を魔王の生まれ変わりと考えてしまえばどうなるだろう。
かつて、魔物を打ち負かした強大な力が今度は和也や愛歌に向けられる事となるのは、想像に難くない。
ギリギリで言うのを辞め、とりあえず今更ながら確認しなければならない、
「話は変わるけど、魔王って。あの40年前の魔王って魔法は使えたの? 」
「それは……当たり前だろう。魔王は魔法も、剣や槍といった武器も扱えた。それに加えて、命を与えると言う奇跡の様な力もな……もしかすると、君の黒いモヤもアレと同種の物かもしれんな」
「へー……」
「あのぅ」
座り込み、長々と話を始めた和也とアークライトにおずおずとルーリエが話しかける。
「儀式は終了です。カズヤ様もお疲れの様ですし、一先ず外に出ましょうか」
「はーい。鋭く睨む者と邪なる瞳の王は? 」
「カズヤ様が倒れられた際、大事をとって離して別の場所へ連れていきました」
「おっす……とりあえず2人に合わせて下さい」
「まおうーーー! 無事か無事かお前怪我無いか見てやろう服を脱げ早く脱げ人が見てても気にする必要はないぞぐへ」
「気にするわーい! 」
地下を出て、城の中。
応接室で待たされていた鋭く睨む者は、和也を見るや否や飛び付いて服を脱がし始める。
隅から隅まで、怪我や異常が無いか確認しようとする鋭く睨む者。
それに抗おうとする和也。
基礎の身体能力が違い過ぎる為、あっという間に半分脱がされてしまう。
「ふんすふんす怪我は無いようだな魔王異常もないぞただお腹周りがプニプニだぞ魔王運動をし無さ過ぎだでも食べ応えはありそうだなじゅるり」
「やめてー! いやー! 誰か! 男の人呼んでー! 」
そんな恥ずかしいんだか笑って良いんだか分からない状況。
ルーリエは顔を覆って真っ赤になる。
「あわわわ……いけません、いけませんそんな……無闇には、肌を晒すだなんて……」
またしてもアークライトの拳骨が炸裂した。
今度は2人とも同じ強さである、平等!
「ってー! 」
「馬鹿者! 皇女殿下の前だぞ! さっさと服を、着んか! 」
「ひぇー理不尽な……」
「災難だったね和也。最後に君を見たのが倒れた瞬間だったから、ずっと心配していたんだ。大事、無かったかい」
「あ、うん何とか……あれ」
鋭く睨む者も、邪なる瞳の王も拘束が解かれいつもの格好に戻っていた。
「ああ、鎖かい? もう契約のせいでここじゃ危害を加えられないからね。流石の僕でも十二勇士の宝具には抗えない、代わりに体は自由になったって訳さ」
「ふーん」
「魔王魔王そいつとはあまり話すなそいつは邪なる瞳の王という如何にも陰湿そーーな名前の悪魔だぞ悪魔なんだぞ心を読むは操るわで最悪のやつだぞ」
「知ってる」
和也自身、嫌という程この女の陰湿さは身に染みていた。
邪なる瞳の王はやれやれ、と肩を竦めて和也に愚痴る。
「酷いなぁ、僕は自分の身を守ろうとしただけさ。昔も、この前の地下でもね。本来の僕は、大人しくひっそりと安全に暮らせればそれで満足な存在なんだよ? 」
考えるまでもなく嘘だと分かった。
「いや嘘だろ、絶対お前性格悪いもん。人の破滅とか大好きだろ」
「ばれたかー」
「はぁ……ルーリエ皇女殿下、此度は儀式を行って頂きありがとうございます。館へお送りいたします、こちらへ……おい、後は頼んだ」
「は、はい! 」
「わかりました」
まだ顔の赤いままのルーリエを連れ退出するアークライト。
入れ替わりで、2人の兵士が入ってきた。
「ん? ……あ! 」
「へ、へへどうもっす」
「お久しぶりです」
随分と、久しぶりに会った気がする。
砦で門番をしていた幼馴染の2人組、エルヴィンとドロシーが緊張で頬を強張らせながら、ひょっこりと顔を出した。
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