第24話 謁見! 隣の国家君主
「随分と騒がしかったな、お前らしくもない」
「はっ、申し訳ございません陛下」
帝都、皇帝が普段住まう屋敷にて。
懐刀とも言える重鎮、アークライト・シーザー辺境伯と皇帝エール・ヴィセアが対面していた。
正式な訪問では無い故、以前の謁見とは違いラフな格好で皇帝がアークライトを出迎え饗す。
応接間には手の付けられていない酒のグラスがあり、今後二人とも手を付けないだろう。
「昔は12人の中で最も騒がしかったお前が、今は落ち着いたものだ……して、何用だアークライト」
「昔の話でございます。以前御報告にあげた件をお覚えでしょうか」
「鋭く睨む者の捕縛を完了した件であるな? 殺せば転生する故、帝都地下牢に閉じ込めておくと」
この報告は最新の物では無い。
砦に和也が乗り込んでくる直前の物だった。
「はい。しかし、契約を結ばせる事が可能となりました。併せて、地下牢に既にいる邪なる瞳の王も、契約を結ばせたく」
「なに? 」
「とある人物が、これら2体の魔物と交友を築き……支配下に置きました。その者を通じ、契約を結んでも良いと交渉を行います」
皇帝の視線が鋭くなった。
仲間であるはずなのに、今この場で取って食われそうな錯覚を覚える。
「馬鹿を言うなアークライト。ドラゴンや悪魔王を支配下にだと? そんな事が出来る訳があるまい」
「その者は魔物達から、魔王と呼ばれておりました」
皇帝の目が見開かれる。
愕然とした、声に成りきらない音が微かに喉から漏れた。
「な……」
「ドラゴンや悪魔王も、その者の指示であれば契約を結べると申しております」
「馬鹿な! そんなはずがあるものか! 」
皇帝がグラスの置かれたテーブルを勢い良く叩いた。
大きな音が鳴り、侍従が血相を変えて飛んでくる。
「良い、下がれ」
「は、はい……かしこまりました」
急な動きで息を切らした皇帝が、興奮を幾らか押し込んで顔を覆う。
手は震え、声はまるて絞り出す様だ。
「はぁ……はぁ……ありえん、魔王は勇者が殺した」
「はい、あの魔王では御座いません」
「では、魔物らが新たな王を担ぎ上げたと? あの魔物が、指導者欲しさにプライドを捨てるとは思えん」
「私も同じ考えです、その者も自身を魔王とは名乗っておりません。しかし、どうやら魔物らは魔王の生まれ変わりか何かと思っている様子」
「生まれ変わり……転生、あの魔王なら、もしやと思わせるのが恐ろしい」
「……はい」
40年前、魔物を纏め上げ、勇者と相打って死んだ魔王と呼ばれる男。
彼は生命力を操る特異な能力を持っていた。
魔力とは無関係のこの能力は触れた者を癒し、農作物を瞬く間に実らせ、戦う者に無限の力を与える。
突然変異か、神のイタズラか。
当初、人類側に魔王の信者が生まれてしまったのも無理はない奇跡のような力だ。
「その者も魔王と同じ力を所有しておるのか」
「いえ……まだ確認は出来ておりません。しかし、魔王とは真逆の力、死を与える力を所有しております」
「まるで呪いではないか、強いか」
「素人ですが、隙を見せれば私でも確殺されるでしょう。一般兵では溢れるモヤに触れただけで死にますが、魔力を多く保有していればモヤには抗えます。経験浅く、思慮も浅い、殺すと決めて対すれば問題ありません……が」
「勿体ぶるなアークライト、どうした」
「抽象的で、陛下にお伝えするのを躊躇うのですが。あの者は英雄の相を持っております」
アークライトにしては珍しい、抽象的な表現に皇帝が眉を顰める。
「トラブルを起こし、周りを引っ掻き回し、他者を惹き付ける。その様な星の元に産まれてきております。魔王や、勇者様と同じ様に」
「……では、結局油断出来ぬと」
「はっ」
「くく、面白い! アークライト、どうせ合わせるつもりだったのだろう、その者と会わせてみよ。契約の件、2代目魔王の件、この我が見定める」
「お兄様、国家君主の方とお会い出来るだなんて、ドキドキですね」
「だ、大丈夫かな。俺なんだかお腹痛くなってきた……おっさんが王様か! とか言う勇気ないよ」
「言う必要ないですよ! 」
和也、そして愛歌は謁見の間の近く。
ニュアンスで言うと、待合室の様な所でソワソワしつつ身嗜み等を確認し合っていた。
話が幾つ飛んだのかよく分からないが、どうやら皇帝に謁見する事となったらしい。
100%和也のせいなのだが、馬鹿だし気付かなかった。
当然、鋭く睨む者と邪なる瞳の王はお留守番、と言うか拘留中。
魔力を封じる鎖と、人質として和也がいる事で今は大人しくしているそうだ。
「良いですか? まず皇帝陛下が登場なさいましたら膝を……面を上げよと言われたら……武器の類は……言葉遣いは……ホンニャラホンニャララ」
偉い人、正確に言えば偉い人の周りに居る人は礼儀やら格式に五月蝿い。
精々50年程度の歴史、しかしこの世界では最も古く長く続いている最強の国家だ。
小難しい礼儀を頑張って頭に叩き込む和也。
もう一度お願いします、を10回程繰り返し何とか頭に捩じ込むことに成功する。
ちなみに愛歌は1回目で覚えた。
「ええと……入ったら、まず……覚えてる間に早く行きたいなー。まだ皇帝陛下は来てないの? 」
「むしろ待っててくれた気が……あ」
扉がノックされた。
和也と愛歌に作法やらを教えてくれた女性が、控えめに2人を呼ぶ。
「よ、良し。緊張するな、行こうか」
「はい! 」
重そうな扉を潜り大きな広間、玉座に入る。
舞踏会でも開けるのでは、という程に広い広間の奥が数段上がっており、玉座がポツンと設置してあった。
全体的に白を基調とした造りとなっており、豪華、と言うより荘厳、というイメージが湧く。
愛歌は辺りを見渡し、不思議そうに首を捻った。
「やっぱり……おかしい」
「どした? 何かあったの」
「皇帝陛下臨場! 」
「わわ! 後でね愛歌ちゃん! 」
慌てて聞いていた通りの作法に則って膝を着き頭を垂れる。
視線を下げているので当然見えないのだが、部屋の空気が明らかに重くなったのが分かった。
和也は垂れる汗を拭いたい、と言う欲求を押し込んで頭に叩き込んだ作法を思い出す。
後は皇帝陛下が許可を出し、それに従って頭を上げれば良い。
「……? 」
はずなのだが、何時まで経っても許可が下りない。
コツ……コツ……
「……?? 」
何故か足音が近付いてくる。
和也の頭上、すぐ側で音が止む。
「……君が、カズヤか」
「!? 」
年老いた男性の声が上から降ってくる。
よく通る、心地よい声。
頑張って覚えた手順を、あろう事か偉い側が無視してきたのだ。
これには和也だけでなく愛歌も、場を取り仕切っていた高官も大慌て、しかし皇帝陛下を止める訳にもいかず結果的にそのまま続く事となった。
こうなると1番困るのは名を呼ばれた和也。
返事をして良いのか、顔を上げていいのか、汗を滝のように流しながら必死で考える。
「……はい! 」
とりあえず元気良く返事をしてみた。
「ふむ……顔を上げ目を見せてみよ」
「?……はい! 」
素直に従って声の主、皇帝陛下を見上げた。
深い皺を顔中に刻んだ白髪の老人が和也を見下ろしている。
優しい蒼い瞳は、何処までも深く広い大海を思わせた。
つい、和也は魅入ってしまう。
「……ふむ」
「え、ええと初めまして! 進藤和也です! 本日はお招き頂き誠に恐悦至極でござる!? 」
はっと我に返った和也は、慌てて碌に回らない舌のまま訳の分からない敬語で捲し立てた。
それをふふふと笑いながら皇帝が見守る。
「そう慌てるでない。今日は正式な場では無いのだからな。偉くなると周りが無用に騒ぎ立てていかん、どうじゃカズヤ、少し茶にでも付き合え」
「お、お茶ですか! 茶しばきますか! お供します! 」
まあ、とにかくそうなった。
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