第2話 ヒーラーカズヤ
人類最盛期を迎えた帝国暦40年。
都はようやくその名に相応しい活気に溢れ、帝国の他に幾つか国が興ったものの人類同士今は何とか争うことも無く平和に暮らしていた。
しかし未だに地方は40年前の人類と魔物の戦争、人魔戦争の爪痕が癒えず魔物が表立ってでは無いもののひっそりと生息していた。
都市部が安全となった今、次に人類が目指すのは手付かずの地方であり、行く行くは地方からも魔物らは姿を消すだろう。
所変わってここがその問題の地方!
とある山の中である!
「グギャガ! グギャガ! 」
突然、何の脈絡もなく現代日本からこの世界に漂流した主人公、進藤和也は何故かゴブリンらの担ぐ神輿のような物に乗せられて山を登っていた。
どんどん山深くに入っていく事が不安になり、神輿を先導する老ゴブリンに話しかける。
唯一人間の言葉を話す事の出来る、昨夜和也にお救い下さいと言ったあのゴブリンである。
「あのー……どこ行くん? 」
「ワレラノ、ス、デス」
「あっそうなの」
いきなり土下座され、良く分からんまま答えに困っていたらあれよあれよと神輿みたいな物に乗せられて。
わっしょい! わっしょい! とゴブリンらに揺らされながら、和也は考えるのが面倒くさくなった。
こうなれば行けるところまで行ってやろう。
「ふははは! よー分からんけど行けー! ふははは! 」
「グギャー!! 」
「うーん、ありがちだ」
神輿に揺られる事1時間かそこら。
ようやく森を抜けると禿げた石山があり、中腹辺りに打ち捨てられた坑道があった。
木の枠組みだけがはめられた質素な坑道をのほーんと眺めていると、ゴブリンらにせっつかれたので仕方なく中に入る。
中は少しひんやりとして、奥からは生臭い臭いが漂ってくる。
「ここって何処なの? 結構古そうだけど」
静まり返った坑道内を進みながら、すぐ後ろに着いて松明を持っていた老ゴブリンに尋ねる。
「マモノノジダイ、ツクラレタ、100ネンマエ」
「魔物の時代? 」
「グギャ……イマ、ヒトノジダイ」
何だか言いにくそうだったのでそれ以上は聞かない事にした。
「グギ、オウ、コッチ」
「おお、こっちね」
坑道内は入り組んでおり分かれ道も無数にあった、ゴブリンの案内が無ければ直ぐに迷って多分一生この中をさ迷うことになるだろう。
「コッチ、コッチ」
「はいはい、ここは部屋か……って……」
坑道の脇にあった小部屋に入ると、噎せ返るような血の匂いとそれが腐った臭いで溢れていた。
鼻の奥が痺れて胃が締め付けられる。
「うぉえ……なにここ……」
「ココ、キズツイタ、ナカマ」
松明で照らされた部屋を見ると、申し訳程度に敷かれた藁の上に10匹程のゴブリンが横たわっていた。
あるゴブリンは腹を押さえ、あるゴブリンは頭に巻いた包帯代わりのボロ布を掻きむしって痛そうに呻いている。
「な、成程? で俺にどうしろってんだよ。や、やっぱり餌的な? こいつらに精のつく食い物食わせよって人間の踊り食いか? 」
「ウ、ウ、チガウ、タスケテホシイ」
「助けるったってよ」
和也に医学の知識は無い。
たしかに現代日本の常識から手当をすればある程度この状況を改善出来るかもしれないが、気休めにしかならないだろう。
「包帯を綺麗なのにするとか? きれいな水で洗うとか? そんな程度しか分かんねえよ……悪いけどさ、俺じゃあ力に」
「シツレイ、シマス」
老ゴブリンが和也の手を取り負傷したゴブリンに近付いて行った。
「オテヲ、フレテ、クダサイ」
「え? 触るの? 」
「グギャ」
うんうんと頷くゴブリンにさあさあと急かされる。
そこまで言うなら、と根負けした和也がそっとゴブリンに触れた。
ゴブリンの肌は異常な程に熱を持っていた、傷口から感染症にでもかかってしまったんだろうか。
なるべく無事な所を触れたつもりだったが痛むらしく、ゴブリンが呻き声を上げる。
「あ、悪い! 」
「グギャガ!! 」
そのままで、そう言われ気がする。
手を離そうとした所をぐっと老ゴブリンに掴まれた。
「いやいや、めっちゃ痛がってんじゃん……お? お、おおお?? 」
ゴブリンに触れた箇所がポゥ、と淡く輝き出した。
最初は儚い消えそうな光だったのが負傷したゴブリンを包み込んで行くに連れて強く輝き、部屋全体を眩く照らす。
「お!? おおおお! 」
光が収まる。
ゴブリンの呼吸は穏やかになり、触れていた箇所の熱がどんどん引いていき、慣れ親しんだ人肌のそれと同じくらいにまで落ち着いていく。
「傷が……熱もだ、何がどうなって」
「グギャ、コッチ、モ」
「お、おう」
訳の分からぬまま老ゴブリンに促されるまま全てのゴブリンに触れ、その全てを謎の光で治療していく。
ものの5分で部屋にいた全てのゴブリンは全回復し、和也の周りを嬉しげに跳ね回る程となっていた。
「な、何これ。医者いらずじゃん……あっちに帰ったら起業しようかな、なんちゃって……はは、は」
乾いた笑いしか出てこない。
明らかに人智を超えた現象が目の前で発生し、そしてそれを行ったのが自分なのだ。
光を放っていた自分の手の裏や表を見て触っても仕掛けは見当たらない。
「……魔法? 」
傷を癒す光、ファンタジーなゲームなんかでよくある回復魔法のまさにそれじゃないか。
それにゴブリン、今まで考える余裕なんて一切無かったがこんなの明らかに地球には居なかった。
ここでようやく異世界からの漂流者、進藤和也は自分の置かれた状況を理解し始めたのだった。
まあそんな自分の状況が分かったからと言って直ぐにどうなるでも無かった!
ゴブリンらの巣に来てから一週間、和也は身の回りの世話全てをゴブリンに任せる自堕落な生活を送っていた!
触れた魔物の傷や病気を癒すこの力のお陰かゴブリンらは和也を王と仰ぎ尽くしてくれる、何故こんな力が自分にあるのか何故ゴブリンは和也を王と呼ぶのか全く分からないが老ゴブリンに聞いてもお告げが来た、夢の中に、等々抽象的な事しか教えてくれないので探るのは諦めた。
「ふははは! 蒸し暑いぞー、もっと扇げー 」
「グギャー! 」
大きな葉で扇いでもらいながら村から持ってきた玉座、またの名をぼろい安楽椅子にふんぞり返って果物を齧る。
「うぇーー! すっぺ! すっぺ! ばーろー! だから味覚がお前らと違うって言ったじゃん! 何これめっちゃ酸っぱい……口の中ザラザラする、歯溶けてない? 大丈夫? 」
「グギ……」
「おいおい、そんな落ち込むなよ、な? 」
よしよしとゴブリンを撫でてやってると老ゴブリンが入ってきて報告を上げてくれる。
「オウ、キョウ、エモノトラエマシタ、ヤイテオタベクダサイ」
「おー! 出来したぞ爺や! おまえも分かって来たじゃねーか、な? 肉は焼いた方が美味いだろ? 」
「グギャ……ワレラ、ナマノホウガスキ」
「こーんのエロ爺め! 」
「??? ソレト、ゴホウコク、アリマス」
老ゴブリン、今は爺やと呼ばれるゴブリンが食い物関連以外で報告を上げてくるのは始めてだった。
その顔にはいつになく緊張が滲んでいる、気がする。
何せゴブリンの表情は分かり辛いのだ。
「ヤマノフモト、オーク、デマシタ、ゴシジクダサイ」
「オーク? ってあの豚面の? 」
オーク、ゴブリン兄貴に並ぶえっちぃ本常連のあの豚野郎である。
当然、彼らにも和也は大変お世話になりました。
「ふーん……縄張り争い? 」
「ハイ、フダンナラソウシテマシタ」
「ほー。含みのある言い方だな、ほれ申して見よ、近こうよれ」
「……オーク、トテモキズツキ、ウエテイマス」
「だから? 」
「……タスケタイデス、カレラ、ユウシュウナセンシ、ナカマスルトテモヤクダツ」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるゴブリンの頼みである、断りにくいし、何より矢面に立つのは結局ゴブリンらであるから極力彼らの意見を尊重したい。
「ええで」
「ヨ、ヨロシイノデスカ」
「うんうん、別に俺オークに恨みとか無いし。むしろ夜の方面でお世話に……んげふんげふん……じゃあ助けにいこっか」
「カシコマリマシタ! 」
和也はゴブリンらを連れ、オークがいるという廃村へと出発した。
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