二代目魔王と愉快な仲間たち~訳ありニート魔王として君臨す~
助兵衛
第1話 今日から異邦人
魔大陸。
そしてそこに住まう異形の怪物、魔物。
火を吐き空を舞うドラゴン、山を抉る怪力の鬼、人の心を操る邪悪な悪魔。
様々な魔物が魔大陸に住まい、常に覇を競い合っていた。
人類はその争いに怯えながらひっそりと暮らし、そして魔物に食われるだけの人生だった。
人類が魔物達に追いやられ、捕食される餌でしか無かった人類にとっての暗黒時代から数千年。
いつしか人は団結し、技術を育み、受け継ぎ、大きなコミュニティを、国を作っていった。
国と呼べるほど強固な団結を手に入れた人類は個々の力では圧倒的に勝る魔物を数で囲み、有利な戦術を用い、時に住処や餌場に罠をしかけ、とにかくあらゆる手段で魔物達に戦いを挑んだ。
後に人魔戦争と呼ばれた戦争の始まりである。
開戦当時は作戦一つ一つ命懸けで失敗すれば国が滅ぶという綱渡りであった。
しかし戦いを重ねるにつれ人類は学習し、次へと活かして更なる戦果を上げていく。
いつしか戦争は駆除となった。
明日死ぬか今日死ぬか、次に死ぬは己かお前か。
それら全て、過去の事である。
兵士らは死なずとも英雄と呼ばれる様になり。
逆に魔物達は希少な資源を生み出す、人類の糧と成り果てた。
最強と恐れられたドラゴンの牙や鱗は宝飾品としてだけでは無くその強靭さや軽さから武具に、怪力無双の鬼は皮を剥がれ鞣された、悪魔は力の源である瞳を抉り取られ魔法の媒体として扱われる。
魔大陸を人類圏大陸と名を改め、暦を当時の唯一国家に因み帝国暦として、人類はようやく自らの歴史を歩み始めたのだった。
そんなこんなで帝国暦40年!
ここは魔大陸改め人類圏大陸の中心、しかしながらクソ田舎な山中の寂れた山道である!
「ふぇぇぇ」
そしてみっともなく泣き喚くは現代日本からの漂流者、進藤和也!
異世界人らしくジャージで着の身着のまま突然放り出された和也は途方に暮れていた!
あちらの世界で死んだ覚えも無ければ、夢の中で神様に会った覚えもない、よく分からん門やら扉をくぐった覚えもない。
突然の異世界転移の為現代日本での下りは……今は省略させて頂く!
決して盛り上がりもしない場面を書くのが面倒だったのでは、ない!
「とほほ」
ようやく泣き止んだ22歳無職、進藤和也が歩きながら辺りを見渡す。
右を見れば木、左を見ればなんと木、前を見れば驚くべき事に木、振り向き後ろを見れば……木があった!
木しかねぇ!
つまりは森である。
若干霧がかかっているせいで遠くも見通せず、とほほと黒っぽい森を歩く。
22歳無職進藤和也は社会経験というものがまるでない、一日の内ですることと言えば飯を食べてテレビを見たり神様にお祈りするくらいの敬虔な引きこもり野郎である。
未だほんわかと現実を受け止めきれないまま、とりあえず川を探そうと山を下った。
川があれば人がいて集落があるだろう、という江戸時代の人かな? という推理に基づいた行動だったのだが、今回ばかりはこれが的中。
1時間程歩けば遠目に小規模な集落を見つける事が出来た。
本当にただの幸運であったが、何とか首の皮1枚繋ぐ事に成功する。
「おおおお! 街!は、ちょっと盛った。村かなぁ……まあいいや! ごめんくださーい! 晩御飯下さい! あわよくば翌日の朝ご飯と昼ご飯も」
突然放り込まれた謎の状況にようやく差し込んだ一筋の希望の光である。
舞い上がった和也は転げ回りなが村へと下って行き、一瞬でその希望を自ら打ち砕いた。
「めっちゃ滅びとるやないか! 」
そりゃあもうボロボロのボロ、クソボロである。
辛うじて家々は形を保っているものの、外から覗けば反対の景色がこんにちはするくらい穴が空いており、雨風すらまともに防げそうではない。
第1村人どころか人の気配がそもそも無い完全なゴーストヴィレッジ。
「ごめんくださーい!ごはんくださーい! 」
泣けど叫べど誰も居ない。
丁寧に全ての家を回ったが、この村が完全に滅んでいる事に気付いてとてもナーバスになった。
「嘘だ……これからどうやって生きていきゃいいんだ……」
膝と頭が融合するんじゃないか? という程にめり込む激しくも悲しい三角座りで嘆いていると、視界の端で何かが動いた気がした。
ナーバスになっているとはいえ、引きこもりの生存本能は伊達じゃない。
獲物を追う獣の目でぎゃん! とそちらを向くと、そろりそろりと近づいて行く。
「遭難したんなら、助けがくるまで何とか食い繋がねえと……この際ネズミでも何でも構わねぇ、焼いて塩でも付ければ食えるだろ……食えるよな? お腹壊したりしないかな……ええぃ、ままよ! 」
何かが動いた気がした家の角に近付き、ばっ! と飛び出した。
両手を大きく広げて威嚇のポーズを決める。
「きしゃぁ! 食ってやるぞ! 観念しろ! 」
「グギャル? 」
つぶらな瞳と目が合った。
そいつの手には血だらけの兎っぽい生き物が握られている。
「ぎゃぁぁ!!! ! ゴブリン!! 」
「ギャア!? 」
説明しよう!
異世界やら魔物やらに普段から慣れ親しんだ読者諸兄からすれば当然の常識であろうが、説明しよう!
ゴブリン、漢字で書くなら緑小鬼。
彼らは文字通り子供ほどの背丈の鬼であり、表皮は緑、小さな角が生えたチャーミングな魔物である。
主食は生肉、好物は人間やエルフ、獣人といった人型のメス、攫って囲って一族繁栄の礎とするのである。
えっちぃね!
ゴブリンが粗末な腰布の下に多数の女性をひんひん言わせてきたマグナムを隠し持ってると思うと、和也の背中にゾゾっと寒気が走った。
ちなみに和也もえっちぃ本で度々ゴブリン兄貴の生殖活動にはお世話になった。
しかし、これは情け容赦の無い生存競争、夜のお供として長年を連れ添ったゴブリン兄貴と言えど手加減は出来ない。
「グャルルォ!? 」
対してゴブリンも驚き、獲物の兎を背後に隠して棍棒を取り出した。
ブンブンと頭の上で振り回し完全に臨戦態勢である。
「う、うおぉ!? やんのかコノヤロウ! 武器なんか持ち出して卑怯だぞ! 男なら素手ゴロだろぅおん!? 」
「グギャ! 」
「あいた! いたい! くそ! コノヤロウ! 」
日本語なんざ魔物に通じるはずもなく、飛び跳ねて殴りかかってきたゴブリンに先制攻撃を許してしまった。
思った以上に痛い!
太めの枝をそのまま利用したかのような棍棒は所々が尖っており、そこが和也の痛そうな所をグリグリと刺激する。
「もう怒ったぞ! 大人のチカラを思い知らせてやる! おら! 」
棍棒もどきを奪い取り、ゴブリンの脇から手を入れて高い高いの要領で持ち上げ。
「ぐぎゃ!!?? 」
思いっきりボロ屋に投げ付けた。
ぼろい壁を貫通してゴロゴロとゴブリンがもんどりを打つ。
「はーーーい!! 勝ちーー!! 俺の勝ちー!!お前の、まけー!!!! 」
「グギーー!!! 」
両手を広げて頭の上でヒラヒラと舞わせ、ガニ股でぴょんぴょんと跳ねる、和也必殺の煽りダンスが炸裂した。
何を言われてるか理解出来なくても何を伝えたいのかを理解出来たゴブリンが、詳しそうに歯軋りを鳴らす。
当たりどころが悪かったのか脇腹を抑え痛みに顔を歪ませていた。
立ち上がるも足に力が入っていない。
「ねぇねぇどんな気持ち? ねぇ今どんな気持ち? 生存競争に負けて今どんな気持ち? あ、兎ちゃん頂きまーす! 焼いて、食べまーす!!! 」
和也がゴブリンの周りを煽りダンスでうろちょろしていると、ゴブリンが和也を押し退けて村から走り去っていった、目尻に微かに光る何かが見えた気がする。
「雑魚が」
いそいそとグロい兎の死体に近付き、人差し指と親指でうえっと持ち上げる。
「うーん……? とりあえず焼くか」
さっき砕けた壁の木材を適当に組み合わせ、テレビなどでよく見る焚き火の様なものを作ってみたのだがそこで躓いた。
火を起こす手段が無いのである。
喫煙者では無いからライターやマッチなんて持ってないし、都合良く火起こし道具を作れる知識も無かった。
とりあえず木の棒をコスコスしていた。
「……」
いつの間にか日が暮れてくる。
「……ぺろぺろ」
気分を落ち着かせるお薬、飴をペロリ。
「ころころ……うーんんんんんん、手も痛くなってきたし日も暮れてきたし……ひっ!? 」
暗くなってきた森の向こう。
微かに見える木と、その向こうにあるひたすらな闇の中。
いくつもの光る目が和也を見つめていた。
ざっと数えただけでも10はいる。
兎の血の匂いに釣られた獣か、さっきのゴブリンが仲間を連れてやって来たのか。
「…………」
「グギャ」
「あっ」
もしかしたら害のない存在かもしれない、という希望的な観測が速攻で打ち砕かれた。
聞き覚えのあるゴブリンの鳴き声が聞こえる。
そうと決まれば判断は早い。
兎を引っ掴んで脱兎の如く駆け出した、兎だけに。
「無理無理! やってられっかべらんめぇ! 」
「グギャ!! 」
所が進行方向にも待ち構えていた更に五体程のゴブリンにも囲まれてしまう。
暗くなった村の中、爛々と薄黄色に輝く瞳だけが揺れている。
「っててててテメエらぁ! 寄ってたかってひ、卑怯だぞぅ! 」
ジリジリとゴブリンが近付いてくる。
生臭い息がこちらまでかかって来る気がした。
「そっちが、その気だってんなら、やって、やらぁこんちくしょう! こちとら引き込もりだぞ! 」
尚もにじり寄るゴブリンらに唾を飛ばしながら喚き散らす。
もう距離は手を伸ばせば届く程。
「ふっー! ふっー! こいやこいや……襲いかかってきた瞬間がお前らの人生……ゴブリン生の最期だ。一匹ずつ来いよ、一気に来んなよ、フリじゃねえぞ」
「グギャァァ!! 」
「ひいぃぃ! お願い優しくしてぇ !……ってあれ? 」
もはやこれまで。
鳴き声と共に飛び掛かってくると身構え、側から見ればみっともなく縮こまっていた和也はいつまで経っても訪れない衝撃や痛みに拍子抜けし、顔の前でクロスさせていた腕の隙間からゴブリンをそっと見る。
「グギャァ……」
ゴブリン達は何故か跪いて、というか土下座のような格好をしていた。
振り向くと最初に和也を見ていたゴブリンらも似たように土下座をしている。
滅多にお目にかかれない本気の土下座だった、少し作法がなっていないものの震える体や時折潤んだ瞳で見上げる仕草は同情心を誘わせる。
うーん、10点満点。
「な、何だこれ。狩の前の儀式か何か? 食材に感謝的な? 」
見事な土下座をキメるゴブリンらの中から、一番年老いてそうなゴブリンが進み出て和也の前に跪いた。
嗄れた拙い言葉で喋り出す。
それは和也にも理解出来る言語だった。
「ドウカ、ワレラヲ、オスクイ、クダサイ、オウ」
お救い下さい、王。
「……は? 」
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