剣鬼王〜現代武術を取り入れ最強の武術家となる〜

Pー

第1話 剣鬼王、転生

 一つの世界があった。

 その世界の名は〈アルヴァトレス〉。

 この世界には魔法があり、人々は魔法を使って生活していた。

 その世界に一人の英雄が君臨し〈ラストリスデヌアの大戦争〉という大戦争をたった一人で終息に導く強者がいた。

 彼の名はグリュデー=シベルゲン。

 彼がとった方法は未だに解明されていない。



 唯一わかっていることは彼は国々を滅ぼす際、父親の名を使い剣を振るっていたということだけだ。


 その名を『剣鬼王』


「七千二百四十五、七千二百四十六、七千二百四十七」


 数を数える声が山の奥地で響く。

 声の主は木刀を振るい続け、身長百八十センチで、肩幅がとても広く、髪は真っ白な白髪、目元は鋭く、あまり人を寄せ付けない雰囲気がある。


 そう、彼こそが大戦争を終わらせた男『剣鬼王』グリュデー=シベルゲンだ。


 彼は何度も何度も木刀を振るい、手にできたマメが潰れて血が出たとしても、素振りを辞めない。


 そんな彼にどこからともなく声がかかる


『聞こえてるー? 早速で悪いんだけど、キミをこの世界から追放するよー♡』


 とても軽快で能天気な声が響いている。


 「(貴様は何者だ?)」


 唐突に声をかけられたグリュデーは焦らずに現状把握に務める。


『アタシはねー……なんと女神様!』


 「(あの戦争を俯瞰ふかんしていただけの神がオレになんのようだ?)」


 もったいぶったつもりのようだが、グリュデーには逆効果だった。


『少しは反応して欲しいかなー……。ごめんねー、キミは危険すぎるの。キミみたいな怪物はこの世界にはいらないのよー』


 「(随分手前勝手な理由だな)」


 女神(仮)の言い分もわかるが、いきなり追放と言われたグリュデーには迷惑極まりない。


『ごめんねー。キミとはなるべく話したくないのよー。じゃあ、がんばー!』


 グリュデーの足元に魔法陣が描かれ転移が開始された。


 ❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏


 知らない天井が見えた。

 どうやら彼はベッドの上に寝かせられていたようだ。

 身を起こし、周りを見るとこのベッドと窓際に机と椅子が並べられているだけの簡素な部屋だった。


 『はーい。聞こえてるー? キミを送ったのは地球っていう世界の日本っていう国。この国には「銃刀法」っていうのがあって、武器は一切持てません!』


 今までの人生全てを剣に捧げていたグリュデーにとってこれまでのグリュデーを全否定されたかのように思える。


『キミはその国で高校生として生を謳歌してもらいます! あとのことは机の上に地球のマニュアルを置いておいたから読んどいてねー☆ もう永遠に会いたくないよ、『剣鬼王』!』


 ブチッと、回線が電源ごと抜けたかのような音が響く。

 女神の言う通り、机の上には分厚いマニュアルが置かれていた。

 一ページめくってみると目次があり、六十七項の項目があった。

 これだけであの女神の悪意を読み取ることが出来る。


千条寺幻卿せんじょうじげんけい? 誰の名だ? まぁ十中八九オレの名だろうがな」


 マニュアル曰く、グリュデーは名前を変え千条寺幻卿と名乗らなければならない、グリュデーは初万高等学校はつよろずこうとうがっこうの新入生として入学式に出席しなければならない、この家は最低の住居として付与される、あとは日本での最低限のマナーが書かれていた。


「全て女神の思い通りか……。まぁいい。それもまた一つの結論だ。重要なのはこれから何を為すか、だ」


 グリュデー、いや幻卿は一人の男を思い出していた。

 その男は気高く『最強の鬼人』と呼ばれていた。

 幻卿の『剣鬼王』の名も彼から襲名したものだ。


「入学式なるものは二ヶ月後か。あと二ヶ月の間でどれだけここの雰囲気に溶け込めるか……」


 そう言いながら、幻卿は一度ベッドに横になり静かにまぶたを閉じた。


 ❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐


 幻卿が日本に降り立ってから二ヶ月の時が過ぎた。


 幻卿はこの二か月間、地球の武術を調べまくり、道場破りを繰り返し、地球の武術を制覇していた。


 恐るべきはグリュデー=シベルゲンの闘争魂。


 本日は初万高等学校の入学式。

 幻卿は千条寺家に備え付けてあった制服に袖を通し、初万高等学校へと歩を進めた。


「今日からやっとアイツから解放されるー!」


「私たちだけじゃあどうにもできなかったしね」


「もうアイツの陰湿な手口に警戒しなくていいんだー!」


 そんな会話が幻卿の前の曲がり角から聞こえてきた。

 このまま幻卿が進めば曲がり角の先でぶつかることとなる。


 しかし、幻卿は避けなかった。


「わっ!?」


「……! 大丈夫!?」


 向こうの人が驚くのも当然であろう。

 なにせ、百八十近い男が、それも剣を振るうために鍛え上げられた肉体を持ってる男だ。


「…………?」


 幻卿は首を傾げ、何故避けなかったかを疑問に思う。


「ちょっと! 今ぶつかったのよ! 謝りなさい!」


「天ちゃんまずいよ、あの人大きいし、怖いよ」


 天ちゃんと呼ばれた方の(制服を着ているので)女子高生は幻卿へとつっかかる。

 その女子高生は気が強そうな顔つきをしてい、身長は百五十センチ後半ほど、銀色の髪を短髪にしていて、顔つきに相反して出るとこは出ているといった、女子高生にしては育ちすぎな気もする容姿をしている。


 隣にいる女子高生はあまり目立たなさそうな見ためをして、身長は百五十センチ前半ほど、眼鏡をかけて、生徒会の書記などをやっているイメージだ。


「……ああ、オレに謝れと言っていたのか」


「そうに決まってるでしょ!」


「何故だ?」


「何故って、そんなのアンタがぶつかってきたんじゃん!」


「確かにオレも貴様とぶつかった。しかし、貴様もオレを避けなかった。謝るのは貴様も同じだ」


「う……! そうだけど…………」


「互いに非がある状況下では、胸の内にくすぶり続ける怒りを内包しておくしかあるまい」


「……? よく分かんないけど、私も悪いってことは分かった。だから謝るのはなし。でも握手ぐらいならいいでしょ?」


「握手? ああ、この国の社交辞令か」


 渋々納得した女子高生が手を差し伸べたので幻卿もそれにならい、手を差し出す。

 しかし、彼女の手を握った瞬間幻卿の景色が一変した。


 誰も思わないだろう。


 目の前の勝気な女子高生が百八十はあるだろう幻卿を真上に投げたとしたのなら。


 バタンッと幻卿が地面に投げられた。


 地面に仰向けになっている幻卿に向けて、投げた女子高生が座り込み、幻卿の顔を覗き込むような形でそれも屈託のない笑顔で一言


「私、豪魔流ごうまりゅう柔術極めてるから、アンタじゃ勝てないわ」


 ──豪魔流


 平安時代から脈々と受け継がれる伝統流派。

 今代で第十五代目。

 当主は世界でも名が轟く村崎左近むらさきさこんという剣士だ。


 閑話休題それは一度置いおいて


 言い切った。

 静寂が訪れる。

 しかし、この静寂もすぐに破られた。


「フハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


「え!? なに!?」


 幻卿が唐突に笑いだした。

 投げられたまま、通学路に仰向けになりながらも笑い続けている。


「貴様、誇って良いぞ! 不意打ちとは言えこのオレを投げ飛ばしたのだ!」


 フハハハハハハハハハハ! フハハハハハハハハハハ! と永遠に高笑いを継続している。


「だがいつまでも寝転がっている訳にはいくまい」


 そう言って、握っていた手を引くと幻卿と女子高生の位置が完全に真逆になる。


「……!? カハッ!」


 一瞬であった。

 全く反応出来なかった女子高生は思いっきり地面に叩きつけられ、肺の空気を出すことしか出来なかった。


「貴様は強いが、まだまだだ。より一層、鍛錬に励むがい良い」


 嵐が通り過ぎた後のように、通学路は静かだった。


「…………すごい人だったね」


「うざい。すごくうざかった」


「あははは…………」


 地面に大の字になって寝転がっている女子高生の悪態に眼鏡の女子高生は苦笑いをするしか無かった。


 ❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐


 入学式は体育館の中で行われた。

 子どもの晴れ舞台に保護者が駆けつけ、凄まじい人数になりながらも式はとどこおりなく行われた。


「本日初万高等学校にご入学の皆様、改めておめでとうございます。私は本校生徒会長、黒風くろかぜ維堂いどうと申します………………」


 生徒会長の式辞が終わり、それぞれ割り振られたクラスに移動する。

 幻卿は一年Ⅱ組に名前があったので、与えられた教室へと向かう。


 幻卿の席は縦に七列ある中の二列目、横に五列ある中の三列目、つまりクラスの中心に位置する席であった。


「(この配列全てが女神の嫌がらせなら、よくもまあここまで磨き上げたものよ)」


 周りが友達作りに躍起やっきになる中、中心でたった一人心の中で喋っていたその時


「あ、アンタ……!」


「……? 貴様は確か今朝の軽い(物理的に)娘」


「誰が軽い(恋愛面で)娘だ!」


 幻卿の前に現れたのは、今朝幻卿を投げ飛ばしたあの女子高生だった。


「今朝よりは強くなったか?」


「……! バッ! アンタどこ触ってんのよ!?」


 幻卿はおもむろに手を伸ばし、女子高生の腹筋を触った。


「んッ……! ちょ…………と、やめて……よ!」


「やはり貴様は無駄に筋肉をつける必要はないな。貴様の身体は柔軟性に優れている。筋肉が動きに歯止めをかけてしまう。故に、ある一定まで筋肉をつければそれで良い」


「余計なお世話よ! っていうかさっさと離せ!」


 しかし、時すでに遅し。

 先の叫びでクラス中の注目を集めてしまった。

 その中にニヤニヤと笑いながら彼女を見ている女子高生が一人。


「あっれ〜? あなた〜、ゴミかぶりちゃん? もしかして〜、春が来たのかしらあ?」


 その女子高生は、身長は百五十センチ程度、髪を真っ赤に染め、人を舐めきったような目をしている。

 しかし、その光には油断の色はなく、逆に油断を誘っているような気がする。


「……!? 嘘…………なんで、お前が……?」


 女子高生の雰囲気がガラッと変わった。

 今までは勝気だった態度が急変し、怯えるかのような声色に変化する。


「あっは〜! 私から逃げられると思った〜? 高校三年間もまた仲良くしようね〜♡」


 全く仲良く過ごす気がない言葉。

 その様相はまるで鼠をなぶる蛇のようだ。

 蛇のような女子高生が動き出そうとする前に、一年Ⅱ組の担任の教師が教室へと入ってきた。


 一年Ⅱ組の担任の教師は女教師で、スラッとしたルックスにカッターシャツによって胸元の大きな果実が強調され……つまり何が言いたいのかを要約すれば、とてもということだ。


「皆さん、おはようございます。今からホームルームを始めますので、座ってください」


 その声を合図にクラス中に散らばっていた生徒が一斉に自分たちの席へと座っていく。


 幻卿の前にいた女子高生は空気が変わると同時に、今朝のような勝気な態度が嘘のように自分の席へと歩いていった。


「このホームルームでは、皆さんに自己紹介をしてもらいます。ですが、急に自己紹介と言われても困ると思いますので、まずは私から」


 そこまで言い切って、担任の教師は反る必要が無いほど強調されている胸を張り、自己紹介をはじめる。


「私は獅子極ししごくみおと言います。漢字はライオンの獅子に、零をかっこよくして澪と書きます。教科は社会科を担当しています。一年間、よろしくお願いします」


 上品にされど高慢ではない礼をし、澪先生は自己紹介を終える。


「自己紹介と言っても難しく考えずに、自分の名前と一言、皆に伝えたいことを発表してください。とりあえずは、出席番号順に前に出て自己紹介をお願いします」


 そう言って、澪先生は教卓の前を譲り、出席番号一番の生徒から自己紹介を始める。


いしずえリコです。皆さんととっても楽しい一年を過ごせたらな、と思っています」


 蛇のような女子高生、リコが自己紹介をする。

 言葉の最後にあの女子高生を舐めるように見た。


 その視線に他の生徒は気づかないが、唯一幻卿はその視線に気づき密かに顔をしかめた。


 そして、リコの次にあの女子高生が前に出て自己紹介をする。


淵克えんかつ天彩てんさいです。……よろしくお願いします」


 今朝の勝気な態度はどこに行ったのか、天彩の雰囲気はとてもじゃないが見ていられるものではない。


 さらに数人ほどの紹介が終わったあと、唐突に静寂が訪れた。


「……? えっと次の人は………………」


ワレだ」


 バァァンと、教室の扉を開け効果音がつきそうなほどの豪快な登場をする男子生徒。

 身長は百七十センチほど、髪は煌びやかな金色、その瞳に宿る意思は傲慢不遜、細身であるがしっかりとした筋肉が着いていることが分かる。


「……遅刻ですけど」


「ハッ! 凡人の決める時間に何故王たるワレが合わせなければならない? ワレの意思を縛ることなど神であっても不可能だ」


 なんとも傲慢な発言。

 しかし、その男子生徒の言葉には妙な納得感が感じられる。


ワレの名は神帝かみかどすめらぎ。真の王にして、いずれ神を超える者なり」


 そこまで言い切ると、皇は一つだけ空白であった己の席へと進みドカりと、椅子へと腰掛けた。

 彼が座ると、ただの椅子も玉座に見えてくるのは何故だろうか…………


 皇の後に数人ほど自己紹介を終えて、遂に幻卿の番が回ってきた。


「千条寺幻卿だ」


 簡潔に終わらせた。

 澪先生が声をかけようとしたが、幻卿の堂々たる態度に何も言えなかった。


 その後は何事もなく、自己紹介は終わり一日目の登校日は幕を閉じた。


 ❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐❏❐


「そこな怪物」


 幻卿が今朝通った通学路を歩いていると、背後から声をかけられた。


「貴様は確か…………」


ワレの名を忘れるとは無礼にもほどがあるぞ」


「神帝皇だったな」


 幻卿に声をかけたのは真の王であり神を超える者、神帝皇であった。


ワレは分かるぞ。貴様がどれほどの人間なのか」


「…………オレに何の用だ」


ワレの友となれ。民ではない、配下でも臣下でもない。ワレと対等な友となれ。貴様はそれに足る」


「何が判断材料になったかは知らんが、貴様が友にしたいのであれば勝手にしろ」


ワレを前にしてそこまで言い切るか。それでこそ、我が友となるに相応しい」


 幻卿は何故か友になろうとする皇と帰路に着いた。

 皇が一方的に喋り、進んでいると小さな公園から聞き知った声をさが聞こえた。


「なんで? なんでアイツがいるの!? 初万には来ないって言ってたのに!」


「………………折角、逃げれたと思ったのにね」


 公園では天彩と眼鏡の娘がブランコに乗りながら何やら愚痴っていた。

 ただ、この空間に流れる悲壮感が只事でないことを幻卿に教えた。


「他人事に無闇矢鱈むやみやたらに首を突っ込むことになるが、貴様は良いか?」


ワレを誰と心得る? ワレだぞ?」


 皇の返答を聞いた幻卿は迷いなく、二人の元へと進んで行った。


「何から逃げられたのだ?」


「「……!?」」


「王たるこのワレが見るに、あの赤髪の小娘のことだろう?」


「ち、違うし!」


「阿呆が。あの会話を聞けば誰でも分かる」


 幻卿と皇の真剣な瞳に見られ、天彩は言葉につまる。


「オレで良いなら相談にのるが」


ワレもいることだ。」


「いいし。アンタらに話すぐらいなら死んだ方がマシ」


「死か…………そう簡単に口に出すものではない」


 そう呟く幻卿の横顔は重い。

『剣鬼王』である幻卿は、グリュデー=シベルゲンの時代に人を斬り続け、死の何たるかを理解している。

 故に、その言葉は人の心の奥底まで響く。


「こ、言葉の綾よ。…………悪かったわね。アンタにも色々あるはずなのに、無神経なこと言って。それじゃ、また明日ね」


 幻卿の雰囲気を悟ったのか、天彩は公園を出て足早に帰って行った。


「貴様は帰らずとも良いのか?」


「貴様ではないです。多王たおう文香ふみかです。それと、私は貴方を信じます。天ちゃんが貴方のこと、嫌ってませんので。そちらの金髪の人は胡散臭いですが、貴方のお友達ということで見逃してあげます」


「アレで嫌っていなければ淵克の嫌うとはどれほどなのだ…………」


「貴様、ワレを誰と心得る? ワレは真の王にして、神を超える者ぞ」


 文香は皇の言葉を完全にスルーし、クイッと眼鏡を上げて夕日を使いレンズを光らせて一言


「貴方に礎リコという人間を教えます。それと、私たちが彼女にされてきた事全てを」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る