第三週「簡単な除霊」
はい。Tと言います。
除霊とかお祓い?
ええ、してますよ。まぁ状況にもよりますが、一人10万円くらいから。
よかったらあなたもいかがです?
え? お金取るのかって?
そりゃこっちもビジネスですから。
お寺だって、まさかタダじゃやらないでしょ。
もっともそれで食ってたりしませんけどね。
普段は普通のサラリーマンですよ。いわば副業です。
まぁ、そんな依頼なんて今は一年に数えるほどですよ。
実家がお寺だったので、それっぽい格好で、それっぽい儀式をするだけです。
ただの気休め? 詐欺じゃないか?
ええ。でもその気休めで9割解決するんですよ。
私が適当な祈祷を捧げると依頼人は大抵、涙を流して喜んで、「助かりました」「ありがとうございました」って言ってくれます。悪い気分じゃないですよ。
おもしろい話なんですけど、最近じゃめっきり閑古鳥なんですよ。
例のウイルスで人の動きが制限されてるでしょ。
そうなると幽霊の動きも制限されちゃう、なんて。
今のは冗談半分、本気半分ですよ。
この業界の一番の稼ぎ時は春先から夏なんです。
そう、引っ越しシーズンと夏休み。
進学や就職による身の回りの環境の急な変化。
はじめての一人暮らしによる不安や戸惑い。
そして夏休みに肝試しするバカな若者。
そうした人の動きがあるかないかで相談件数が変わるんですよ。
---で、やっぱり大半は不慣れな環境や、特別な環境での勘違いや誇大妄想ですね。
人間おかしいもので、そういうストレスで実際に体調を崩しちゃうし、ありもしないものを見たり、聴いたりしちゃうんですよこれが。
だから……逆に言うと、冬の依頼は大抵、ガチですね。
年に一度あるかないかくらい。滅多にないですもん。
本当か嘘かどう見分けるかですか?
うーーーん、そこはケースバイケースですかね。
実は私、霊感とかまるでないんですよ。
でもね、霊感とか、なまじない方が本当か嘘か分かりますよ。
だって、現実的に起こったらおかしい事が起こっていたら、それはまぎれもなく本当でしょう。霊感のない私から見ておかしい事は本物なんです。
霊感もないのに、除霊ができるのか?
あ、それはできます。
そっちの除霊は僕は直接はやらないんです。
いやホント簡単なんですよ。何だったらあなたも明日からでもできますよ。
はは、こんなこと教えたら商売に障るかも。
えっとー……方法は簡単ですよ。
その場所を「心霊スポット」って事で宣伝するんです。
ホームページにSNS、ブログに動画配信サイト、ネット掲示板とか色んな所に情報をばら撒くんです。それだけ。以上。
すると色んな人が来てくれるでしょ。頼んでもないのに。
ある人は近所だからと言って、学校からの帰り道に、ちょっと寄り道で通り過ぎるだけかもしれない。
ある人は面白半分で、スマホで写真撮ってSNSで投稿するかもしれない。
ある人は肝試しだ、と言って現場を踏み荒らすかもしれない。
その人たちに……なんて言えばいいかな。そこに溜まった厄をちょっとずつ持って帰ってもらうんです。
それでいいんです。そうして厄を分散して、ちょっとずつ生きた人間のたまり場にしていくんです。
知ってます? インターネットが出る前はそういう心霊スポット紹介の雑誌が結構出てたんですよ。
まぁ、今じゃほとんど残ってませんけどね。
場所の管理人や持ち主に訴えられることもあるし。
ただ、あれも一種の除霊だったんですよ。
よく心霊番組で出てくる恐怖スポットとかは、落書きとかで荒らされたり、浮浪者が住み着いたりするでしょ。そしたらもう除霊完了したようなもんですよ。
たくさんの人が足を踏み入れたり、ましてや生きた人間が定住してたりなんかしたら、心霊的な恐怖なんて無いも当然ですから。
どんな泥水や毒水だって何十、何百倍に希釈すれば飲み水と変わらなくなります。いつかそこはただの廃墟になりますよ。
最近は情報が早いし手段も多様化してるので、あっという間。良い時代になったものです。
え? そんな事して呪いとか広まらないのか、って?
まぁ…………広まるんじゃないですかね。
たくさんの人にちょっとずつ持って行ってもらって、薄めるわけですから。各自が持って行く量も均等なわけないし。
でも、言ったでしょビジネスだって。需要と供給のバランスが大事ですから。
それにこちらから「危ない場所ですよ」って教えてるのに勝手に行く人の事なんか知ったこっちゃないですよ。
私としても本業じゃなくても臨時収入がなくなるのは嫌ですしね。
おや、あなたも何か気になる場所があるんですか? 除霊してほしい場所とか?
はは、気になったら連絡してください。いつでも相談に乗りますよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます