第10話 ダンジョン

「だ か ら! 何でお前は罠とか警戒しないんだよ!? この脳筋女ぁ!!」




「しょーがないでしょ!? そもそもアタシ、ダンジョンとか苦手なのよ!!」




 走る


 走る


 走る。




 死にものぐるいで走るカイトとカナミ。




 背後からは狭いダンジョンの通路を塞ぐほどの大きさの鉄球。それが勢いよくゴロゴロと二人を目がけて転がって来ていた。




 ここは数多のハンターを飲み込んだダンジョン。当然のごとく侵入者を阻むような罠がいたる所に仕込んである。




 その内の一つを、カナミが何の警戒もなく作動してしまったのだ。




 カイトは悪態をつきながら、チラリと背後を確認する。迫り来る鉄球の速度は凄まじく、このままではやがて追いつかれてしまうだろう。




 現在持ち込んでいるロストに、現状を打開できるような代物は無い。




 何か無いか?




 周囲を必死に確認する。




 一瞬の判断の誤りが即 ”死” に繋がる。




 そして発見した。




 通路の少し先。右側の壁が少し抉れている箇所がある。一定の幅で作られた通路に一カ所だけ存在するイレギュラーな空間。助かるとしたらその場所しかない。




「カナミ! 右だ!」




 相手のリアクションは確かめている暇が無い。




 カイトはバッと飛びだすと、岩壁の抉れたスペースに体をねじ込む。一瞬遅れて隣にカナミが飛び込んできた。




 息を止める。




 このスペースに入ったとて助かる保証は無い。




 出来るだけ身を隠そうと、ギュッと身を寄せ合う二人。その目の前を巨大な鉄球が勢いよく通りすぎていった。




「・・・・・・助かった?」




 互いに顔を確認し、大きく息を吐き出す。




「生きた心地がしなかったわ」




「・・・同じく」




 ダンジョンの攻略は命がけだ。




 封印系のダンジョンは、そも侵入者を阻むための罠が仕掛けられている。




 それを乗り切れるかどうかというのは、ハンターの実力よりもその運に左右されるといってもいい。




「オーケイ、俺たちは生き延びた。まだクソッタレな悪運は使い果たして無かった訳だ・・・・・・で、どうする? このダンジョン、思ったよりヤバそうだけど、ここでやめとくかい?」




 カイトの問いかけに、カナミはフンと鼻を鳴らした。




「冗談。ハンターがお宝目の前にして逃げるっての?」




 その強気な発言に、カイトの口角がニヤリとつり上がる。




「良い返事だ相棒。それでこそハンターだ」




 無言で右拳をぶつけ合う二人。




 この程度の危険で命を選ぶようなまともな人間なら、そもそもハンターになんてなっていないだろう。




 二人はそのままダンジョンの奥深くへと足を進めるのだった。















 いくつもの罠をくぐり抜け、カイトとカナミはついにダンジョンの最奥へと足を踏み入れる事となった。




 ポッカリと開けた空間。祭壇のような場所に小さな石像が奉られていた。




 何かの神を模した石像だろうか? 成人男性と同じくらいのサイズがある石像は、威厳のある老人の姿をしていた。




 宗教に疎い二人には判別が着かなかったが、しばらく人の踏みいっていなかったであろう停滞したその空間は、何か神聖な雰囲気を感じるような気がする。




「カイト、石像の指」




 カナミの言葉で、石像の指に視線を向けると、その左手の薬指にキラリと青色に輝く宝石が特徴的な指輪がはめ込まれていた。




”氷の覇者のリング”




 それはカイトとカナミが狙っていたロストに間違いが無いようだ。




 石像からリングを奪おうと、二人が一歩前に踏み出した其の瞬間、今まで沈黙を守っていた石像の首がギギギと動き出した。




「・・・・・・え?」




 予想外の出来事に間抜けな声を上げるカイト。




 次の瞬間、石像の眼がカッと見開き二人を睨み付ける。




『覇王の部屋に忍び込む罪人よ、覚悟するが良い』




 威風堂々たるその姿。




 まるで生きているかのように、威厳たっぷりに石像は言い放った。




「・・・・・・石像ってしゃべるの?」




 どうやら一筋縄ではいきそうにない。




 こうして、ロストを守る番人とのバトルが幕を開けたのだった。




 

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