第12話  愛の戦士マザー・メイ


 ヴィンセントは酷く混乱していた。

 すると、大男の隣にいた小柄な男が口を開いた。


「何やら強そうな奴らが来たみたいだね。

 とすると君がここの自警団の団長さんかい?

 僕はレオポルド奴隷商会ボスの【ジョン・レオポルド】。

 世間じゃ、奴隷商レオポルド・ファミリーって

 呼ばれてるね。

 君たち、困るんだよね。

 俺たちのシマで勝手な事してもらっちゃね。

 孤児の奴隷は俺たちの商売の貴重な収入源なんだよ」


 アイリスはジョン・レオポルドの隣の大男に首元を掴まれ持ち上げらえている。

 その周りには10人ほどの構成員らしき男達がいた。

 その後ろには孤児院の子供たちが震えていた。


「どうやら、最悪の状況みたいね……」


「ヴィンス団長!

 あの横にいる大男に見覚えがあります」

 

 ヴィンスの横にいた自警団副団長のカールが言った。


「カール。

 あいつを知ってるのか?」


「戦場で何度か見たことがあります、

 あいつは【隻眼のブロディ】です!」


「隻眼ブロディ?

 もしかして戦場の悪魔

 隻眼のブロディか!」


 隻眼のブロディと言えば傭兵の中では知らぬ者がいない程のサディストである。

 戦場での鬼神の如く強さに加え捕虜への残虐行為などでも忌み嫌われている存在である。


「とんでもない奴に

 アイリスが捕まっているな……」


 するとブロディも口を開いた。


「ヴィンス?

 俺もお前の名前を知ってるぞ。

 ヴィンセント・ギブソンだな?

 偉く強ぇそうじゃねえか?

 だが、今のこの状況は

 俺たちに分があるってもんだ。

 何せこっちには人質がいる」


 ブロディはアイリスをレオポルドの仲間に渡しヴィンス達のもとにゆっくり歩いてきた。


「まずはそっちのバカでかいオカマが

 気に入らねえな」


《ズドン!!!》


 ブロディの手が槍のようにメイの腹を貫いた。


「メイ!!」


 ヴィンスは剣を抜こうとした。


「おっと。

 俺に触れでもしたら

 あのシスターもこのオカマと

 同じ目に合うぜ!」


「この外道め!」


「何とでも言えよ。

 まずはお前の、その物騒な手を

 何とかしないとな」


 隻眼のブロディは近くに落ちていた剣を拾って血をぬぐった。


《ザク!!!》


 隻眼のブロディが剣を振り下ろしその瞬間ヴィンスの右腕が宙に舞った!!


「ああああ!!!!!」


 ヴィンスはその場に腕を抑えて跪いた。


「ヴィンス!!!」


 アイリスが涙を流しながら拘束を振りほどこうとする。


「ヴィン……ス」


 メイも意識朦朧としながら何とか動こうとしていた。


 その時、副団長のカールがアイリスを掴んでいる男に剣を突き刺した!


「今よ!」


 メイの自警団達も一斉にレオポルド・ファミリーに襲い掛かった。


「シスター・アイリス大丈夫ですよ!

 すぐこいつらを倒して

 すぐにヴィンス団長とメイさんも

 助けますから!」


「ありがとう、カール」


 その時、隻眼のブロディの投げた剣がアイリスの背中に突き刺さった!


「アイリス!!!」


 ヴィンスはアイリスの方を向いて叫んだ。

 しかし後ろから彼の心臓をブロディの手が貫いた!


「あ……」


「呆気ねえな」


「ブロディ!」


 カールがブロディに即座に襲い掛かった!

 ブロディはカールの剣をへし折り、カールの胴体を真っ二つにした!


「ははは!圧倒的な強さだ!

 ちょっと、冷や冷やしたが

 さすが隻眼のブロディだ!

 他の奴らも、とっととやってくれ!」


 ジョン・レオポルドは既に勝ち誇っていた。

 そして、アマンダ自警団とレオポルド達との集団戦にもつれ込んだ。


「メイさん……」


 メイは意識を失いかけていたが、気づくと

目の前に、瀕死のアイリスが傍にいた。


「アイリス!

 生きていたのね!!」


「メイさん……生きて……」


 アイリスがメイに治癒魔術をかけ始めた。


「アイリス!

 あんたそのケガで治癒魔術なんか使ったら

 あなたが死んじゃうわよ!!」


「メイさん……生きて下さい……。

 そして、みんなを……

 子供たちを守ってあげて。

 ヴィンスの分も……。

 私の分も…あなたは生きて」


 アイリスの手から治癒魔術の光が消え、彼女は息絶えた。


 メイはよろけながらも何とか立ち上がった。


「何だ、オカマの姉ちゃん

 まだ生きてたのか?

 でも、そろそろお前も

 あいつらの所に行く時間だよ」


 ブロディの手が傷が塞がりかけたメイの腹に再び突き刺さった!


 しかし、メイは死力を尽くして、肉体高質化スキルを使い、ブロディの手を腹部の筋肉で捕まえた!!


「何だ!!肉体の硬質化スキルか!?

 クソ!抜けねえ!」


「あんたねえ……。

 乙女には優しく触れなさいって

 教わらなかったの!」

 

 メイはブロディの首を両腕でロックした。


「おい!や、やめろ…」


《ボキン!!!》


 メイはブロディの首をそのまま一気にへし折った!


 その光景を、見た途端ジョン・レオポルドは真っ青になって震え上がった。


「嘘だろ……

 ブロディ殺されるなんて……!

 おい!お前たちガキどもを盾にしろ!

 ここは引くぞ!

 逃げるんだ!」


「少し遅かったな、もうお前ひとりだわ」


 マザーメイの自警団によってレオポルドの構成員は既に全員殺されていた。


「ひぃ!!た、助けて……」


 ジョン・レオポルドは腰が抜けて両膝を付きながら這って逃げようとした。


 しかし、逃げようとするジョン・レオポルドの前にはメイの巨体が立ちふさがった。


「あなた、逃げられるとでも思ってるの?」


 メイは瞬時に手刀で袈裟斬りにジョン・レオポルドの体を真っ二つに切り裂いた。



 メイは、ふらつきながらも、ヴィンスとアイリスの死体を大切に抱き上げた。

 そして、唯一生き残っていたシスター、アミエルに向かって言った。


「アミエル……

 ワタシもシスターになるわ。

 そして、孤児院も私が守るわ」


「ありがとうメイさん……

 アイリスもヴィンスも。

 きっと喜んでくれるわ」


「愛した人達が愛した大切な意思を……

 これから全て私が守ってみせるわ」

◆◆◆◆



 マザーメイは遠くを見つめながら語ってくれた。


「その時、死んだ奴隷商人

 【ジョン・レオポルド】は

 今のレオポルド・ファミリーのボス

 【サミー・レオポルド】の兄よ。


 私が殺したわ……

 弟のサミー・レオポルドは

 きっとワタシの命を狙ってくるわ」


 それはシスター・マザー・メイの誕生の話だった。






        To Be Continued…

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