第11話 アマンダの惨劇




 メイは修道院の医務室で目を覚ました。

 悪くない目覚めだった。

 するとヴィンセントが声をかけてきた。


「よう!調子はどうだ?」


「ええ、肩はまだ痛むけど助かったわ」


「そりゃ良かった、肩でも外さないと

 あんたには勝てないと思ったからな!」


「最初からワタシを殺す気なんてなかったのね。

 シャクだわ……」


「まあ、気にすんなって。

 そういや腹減ってないか?

 朝飯の支度が出来てるから

 みんなで一緒に食おうぜ!」


「……うん、頂くわ」


 修道院の食堂では既に盗賊団のメンバーが修道院が用意した朝食を食べていた。


「あら?

 団長さんもお目覚めになったんですね。

 ちょうどよかったわ。

 大した食事はありませんが

 どうぞ召し上がってください」


 シスター・アイリスがメイに声をかけた。


「ありがとう。

 頂くわ」


「アイリス!今日も美味かったよ!

 アイリスの作った料理はいつも最高だよ!

 特に今日のスープは格別だったよ!」


「あら。

 今日スープを作ったのは

 アリエルだけどね」


「おっと!

 まあいつも有難うってことだよ!」


 ヴィンセントは何とか取り繕うとしていた。

 それを見てメイは思った。

 昨日、彼が言っていた『この世界でたった一人愛する人』とは、このアイリスなのだと。

 メイは無言でスープを口に運んだ。

 周りの盗賊団員メンバーは皆おいしそうに食事を食べている。


「それでメイ。

 何でお前たちは盗賊なんかやってんだ?

 ただの俺の勘だけどお前たちは根っからの悪党にも

 見えないんだが」


「生きる為よ。

 ワタシ達は皆、戦争孤児出身よ。

 その上、私達は同性愛者よ。

 世間には尚更、疎まれているわ。

 生きるためには

 こうするしかなかったのよ」


「そうだったのか……すまない。

 気を悪くしないでくれ」


 その時、アイリスが真剣な顔で切り出した。


「メイさん!

 貴方達が良ければ団員の方々も、

 この村に残って

 私達と共にシスターになりませんか?

 神はあなたたちの様な

 方々を必ず救って頂けます!」


「シスター!?

 待ってくれよアイリス!彼らは男だぜ!

 ここは女性の修道院だろ?

 シスターには、なれないだろ?」


「ヴィンス!

 この人たちは、心は女性なんです!

 寛容なる神は

 ありのままの姿の彼女たちを

 救って下さいます!」


 メイは呆気に取られていた。

 自分が修道院に?

 今まで神など信じたことも無かった。

 己の力のみで存在を誇示してきた。

 馬鹿にするやつらは沢山いた。

 しかしいつも、腕力でねじ伏せ同じ境遇の仲間と共に今まで力だけを信じて生きてきた。


「ちょっと……ちょっと

 考えさせてちょうだい。 

 ……ヴィンセント、そういえば

 あなたこの村の自警団を

 やってるんだったわね?」


「そうだよ。

 それがどうかしたのか?」

 

「取り敢えずそっちなら手を貸すわ」


「もちろん良いぜ!

 あんた強いから大歓迎だよ!

 ただ、それだけじゃなくて

 狩猟と農業の方も手伝ってもらっても良いかい?」


「……いいわ。

 やるわ」


 こうして、【盗賊団バンテッド・メイ】はアマンダ村の一員となった。



◇◇◇◇


 半年後。


 メイはアマンダ村に随分馴染んできた。

 彼らのひたむきな姿に徐々に村人からの信頼も得られるようになってきた。


 その後ヴィンセントはアマンダ修道院の離れにアマンダ孤児院を建て、最初に来たテリーをはじめ、今や10人の孤児の面倒を見ていた。


「マザーメイおなか減ったよぉ。

 ゴハンまだぁ?」


「ちょっと待ってテリー

 今マザーメイ特性オムレツを作ってるわ!」


 メイはヴィンセントの進めで、孤児院のママを務めていた。


「大変だけど、これも悪くないわね!

 まるでヴィンスとの

 子供を養ってるみたい!

 ああ!これが女の幸せってやつね!

 たまに、アイリスが来て

 ヴィンスが『ベッタリ』なのが

 気に触るけど!」


 その時、ヴィンセントが狩猟から帰ってきた。


「よう!メイただいま」


「『メイただいま』って!」


 メイは深いエクスタシーを覚えた。


「最近、村の襲撃者も少ないし

 お前ら元盗賊団のメンバーも誘って

 キャンプでも行かないか?

 今後の村での事も話したいしよ!」


 『今後の事』!?

 メイは再びエクスタシーを覚えた。


「いいわよ!

 たまには休日も悪くないわね!」


「孤児院の事は

 さっき修道院のシスター達にも話を通しといたよ!

 2日程、子供たちの面倒を見てくれるそうだ」


 メイはヴィンスとの初旅行?に胸を躍らせキャンプに向かった。

 メンバーは元盗賊団のメンバー15人とヴィンセントの側近のカールを入れて17人だった。

 アマンダの森で酒を飲み、狩猟で捕った肉を焼きながらの宴会であった。

 酒を飲みかわしながら、ヴィンセントは真剣な表情でメイに話だした。


「メイさん……。

 ひとつ言わなきゃいけない事があるんだ」


「な、何!?」


 メイは『あの堅物女アイリスから私に乗り換えるんじゃないか』と、ちょっと期待した。


「俺、村に帰ったら……

 アイリスにプロポーズするんだ」


「え?」


「お前は、いい奴だ。

 親友のお前だから

 先に言っておきたかったんだ!」


「で……でも。

 アイリスは修道院のシスターだから

 結婚は出来ないわよ!」


「そこは、彼女に頼んでみる。

 シスターをやめて俺と一緒になって欲しいってさ。

 なかなか、難しいかもしれないが

 本気でお願いしてみるつもりだ!」


 メイは頭が真っ白になった。

 所詮、自分は男に生まれた身。

 彼との恋は叶わないのだと。


「そ……そう。

 きっと大丈夫!

 アイリスも答えてくれるわ!

 貴方はとっても素敵な人だもの!」


「そうか!ありがとう!

 やっぱりメイさんに相談してよかったよ!

 ありがとな!」


「お安い御用よ。

 きっと、貴方なら……」


 その夜、メイは泣いた。

 枕を噛んで泣いた。 

 枕は千切れ、ただの布片になっていた。



◇◇◇◇


 翌日、一行はアマンダ村へと戻った。

 ヴィンセントの顔には期待と少し不安に満ちていた。

 メイはその顔を見ながら、彼を応援したいという気持ちになっていた。


『愛する人の幸せをただ見ていたい』


 メイはそんな気持ちになっていた。

 メイの心に信仰に必要な無償の愛が宿っていた事に、メイ自身はまだ気づいていなかった。


 しかし、村に戻った瞬間一同は絶句した。

 村の入り口にはアマンダ自警団の無残な死体が転がっていた…。


「何が起こった!?」


 ヴィンセントは半狂乱になりながら修道院の方に向かった。


 修道院では更なる惨劇が広がっていた。

 修道院のシスターと思われる死体の山があったが、実際の損壊が酷過ぎて、ギリギリ修道服等でシスターだと判断できる程だった。


「アイリス!!

 アイリス!!」


 ヴィンセントは、もう自我を失いかけていた。


「落ち着くのよヴィンス!

 この足元の血の方向を辿って行きましょう!」


 一同は、血の跡を辿って奥へと進んだ。

 そこには何人かの男達と大男につるし上げられたアイリスの姿があった。






        To Be Continued…

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