第4話

 話題を逸らそうと振ったアタシに対してゆるふわピンクの“暴食”ちゃんがにへっと笑う。


「家庭菜園ちゃんかなー」


「家庭…」


「菜園…?」


 “傲慢”主任と“強欲”先輩が興味を示して意外そうに声をあげる。なおここまで“色情”係長はまったく反応しないノーリアクション。笑ってはいけない庶務課でも優勝間違いなしだろう。

 とりあえず“暴食”ちゃんは全然気にした様子もなくにこにこ笑顔で続ける。


「お芋とかー、ししとうとかー。ネギやほうれん草は冬でも育つんですよー?」


「ご自分で土いじりをなさってらっしゃるの?」


「意外とマメだなキミ。“怠惰”と似たり寄ったりだと思ってたけど」


 失敬な。アタシも思ってましたけど失敬な。

 まあそしてやはりというか“暴食”ちゃんは気にした様子もなくにこにこと答える。


「手塩にかけて育てたお野菜を食べられると思うだけでー、ご飯三杯いけますー」


「ねえよ」


 “憤怒”課長の鋭い突っ込みが飛んだが“暴食”ちゃんには特に刺さらなかった。


 それにしても、そっかそっか、自分が作った野菜を食べられるって想いをおかずにご飯三杯いけちゃいますか~。さすが“暴食”ちゃん。


 いや…いやいや?なるほど全然わからん。

 “傲慢”主任と“強欲”先輩も顔見合わせてんですけど。

 “嫉妬”ちゃんは「へぇ食べれるんですねぇ、羨ましいなぁ」などとひとり呟いている。まあいそべちゃん食べるわけにはいかないからねえ。


「“強欲”先輩もなんかあるんスかぁ?」


 ポニテも凛々しい“強欲”先輩はアタシの問いにひとつ頷くとスマホを取り出してこちらに向けてきた。スマホ依存率高いなウチ。

 画面にはお耽美と美麗の合間くらい一部お姉さま方に好評そうなイケメンのイラストがこれでもかと映し出されている。これはゲーム画面?


「イケメン収集アプリ“むこあつめ”にハマっている」


「ワードのパワーがつよいっスね」


「ユーザーは石油王になってイケメン婿を収集するのが目的だ。集めた婿は箱庭に放って彼らがイチャつく様をのんびりと鑑賞できる。婿のバリエーションもさることながら箱庭デザインの自由度も高く界隈ではちょっとしたブームも起きていてな。ゲーム性自体は別に高くもなんともないユルゲーなのでストレスがない。疲れたときや気が滅入ったときに推し婿をぼんやり眺めているとそれだけで癒しになるぞ」


 驚くほどに饒舌オタク特有の早口だった。“強欲”先輩にこんな側面があったとは。


「な、なるほど」


「ただ」


 “強欲”先輩が一息置いてもったいぶって続ける。

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