〜3巡目終局〜 悲しき玩具

再び、全ての提灯に灯が灯った。


緑、白、青…


残っているのは3人だけだ。

彼氏に誘われた結果『百夢語ひゃくむがたり』に巻き込まれた女性、さくらさん。


昔ながら風の怪談話を語る、一見優しげな初老の男、朝風さん。


そして、興味本位でトノさんが開いた百物語に参加したら巻き込まれた自分、ナガノ。


この中にもう1人脱落者が出る。


大丈夫だ。今までの経験に恐怖くうそうを加えたこの話にはかなり自信がある。

きっと脱落することはないだろう。

問題は次の最終局だ。


相手がさくらさんなら勝てるが、朝風さんが相手になると話は変わる。あくまで僕の感想だけど、彼の怪談話は妙に現実味を帯びていた。


それに、さくらさんからは「彼氏を助けたい」という強い願いが感じられたが、朝風さんは何を考えているか全く分からない。彼は自分の意見を1つも言っていないんだ。まるで自分の本心を隠すような…いや何かを隠しているのだろう。


僕らは『百夢語』の勝者に与えられる『願いを1つ叶える』力を使って、参加者全員で帰ろうと決めていた。朝風がここで言う通りにするかは正直期待していない。


「はあ…なんだかどうでも良くなってきたわ。」

さくらさんは相当疲れてるようだ。目の光が失われている。前回までトノさんを『百夢語』を起こした張本人だと主張していたが、『百夢語』のゲームマスターを務める怪物…丹那桜花たんなおうかによって惨殺された事を機に心にダメージがいってしまったみたいだ。


「気を落とさない方がいい。まだゲームは続きますよ。」


「何よ!私はこう言う事苦手って何度言ったら分かるの?」


「分かってるよ。」

さくらさんは、はっとこちらを見つめた。

「君も戦っているんだろ?彼氏のために。」


「そ、そうよ!あなた達が信用出来ないから、私はここにいる!…絶対に彼を…しょうちゃんを生き返らせたいから!しょうちゃんは私にとって…希望みたいな人だから!」


「…最終局もいけるか?」


「…やってあげるわ!」

彼女の目に光が戻った。


「そう。それで良いのです。一緒に頑張りましょまた。」


ブウン!

薄型テレビからブラウン管テレビを付けた時のような音が響いた。彼女がやってくる合図だ。


「やっほー!なんかもめてたっぽいけど、なんとかなったみたいだねー」

血の滴が滴り落ちる長い髪、髪のお陰で見えない顔、その容姿の女から聞こえるアイドルのような快活な声はいつ聞いてもきみが悪い。丹那桜花…化け物がやってきた。


「解決するまで見ていたのか?」


「いつも見てるよ。不正とか消極的な行為をしてないか監視するためにね♪」


丹那桜花には全部聞こえていたようだ。


「それじゃ発表するよー今回の脱落者はー、さくらさんです!」


うん、これは良くない。最終戦は朝風さんとの戦いになる事が決まってしまった。


「理由はね、短過ぎてつまらないって所かな。最初は、まあこういうのもありかって思ったけど、連続で似たような構成なのはちょっとね…だから脱落者にしましたー!」


「ぐっ…もう好きにして良いわ…こういうの苦手だったし。」


ズボォ!


テレビから伸びてきた真っ赤な腕がさくらさんを掴み、テレビの中へ引き込んだ。


テレビには僕達が初めて集合した場所…下木駅しもきえきのロータリーが映し出されていた。画面にいるのはさくらさんだけで、他には誰も映っていない。


「なんでこの場所なの?」

さくらさんは困惑しているようだ。


「さくらちゃん!こっちこっち」

画面が切り替わると、さくらから少し離れた階段の方で手を振るクライスラーさんがいたのだ。

「しょうちゃん!生きてたの!今行くわ!」

さくらさんはそちらの方へ向かっていった。


ズドドド!

轟音と共に映し出されたのは衝撃的な映像だった。クライスラーが突然、マシンガンでさくらさんを撃ったのだ。


「お前って本当にクソだな。完全に俺の言いなりかよ。」


「あ…あ…」

さくらさんは全身を蜂の巣にされ、声を出すのもやっとな状態だった。


「嫌いなんだよ。そういうの」


パーン


悲しい銃音が鳴り、映像は終わった。


「いやー、つらいね。付き合っていた彼氏に地獄のような暴言を吐かれ射殺される。最悪のシナリオだな。書いたのあたしだけど♪」


外道が…本当に呆れる。さくらさんにとって最低なバッドエンドを用意しやがった!


「ま、それは置いといて残りは2人だね。…となると次で最後!!これは驚きだねー。もう終わるなんてなんだか寂しいな♪」

桜花は終始笑っているようだった。


「…もういい。進めてください。」


「むー。仕方ないな♡それじゃ最後の順番を教えるよー。


青→ナガノ

白→朝風


これで行くからねー」


「僕が先行か。わかった。」


「お手柔らかに願いますね。」

朝風さんはにっこりと笑みを浮かべた。だけど、その笑顔には温かみが無いというか、無機物のようだった。


「それでは最終局、開始!頑張ってね〜」


プツン…

再びテレビの電源が切れ、静寂が訪れた。


狭い部屋の中におっさんが2人…何も起きないはずはない。とにかく朝風さんに勝利を譲る気はない。信じられるのは自分だけだ。

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